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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

【小さな太陽】 ユルゲン・アステイラ ②

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暗い空間。コロシアムを覆い尽くした広域魔法【恐園怖界ヘレス・セネト】。俺の視界に映るのはその黒闇以外にもう1つ。いや、正しくはもう一人だ。

艶やかなか金色の髪と血のように紅い瞳の男。見た目は20代に見えるほどに若い。筋骨隆々な体格は、日々の鍛錬の賜物。

俺はこいつを知っている。知っていて当たり前の存在。口元に刻まれる嘲笑とゴミを見るような目。それは--、

「へ、へへ。やっぱり…あんたが出てくるよな…。 クソ親父」

俺の身体が震え、それに合わせて声も震えている。それを見て、親父が口を開いた。

「情けないな、馬鹿息子。俺の子だと言うのに…」

何度も聞いた親父の声。偽物だとわかっていても、俺の心を縛る恐怖は変わらない。声、見た目、性格、全てが親父、レデス・アステイラだ。流石は恐怖魔法と言った所か。

『ふふふ、はははは!! やはり貴方の恐怖対象は父親でしたか!! いやぁ、面白い!』

頭上からゼノの声が響く。そちらに視線をむけるがそこには暗い闇があるだけ。

「んだ?今の声はよ。 なぁ、馬鹿息子。この声が誰か知ってるような顔してるみたいだが、誰か教えてくれよ?」

ゼノの声に不愉快そうな表情を浮かべた親父が尋ねてくる。

「・・・」

「だんまりか。まぁ、いい。んな事により、久しぶりに親子喧嘩しようぜ!!」

「は? なにいっ・・・!?」

親父の意味不明な発言に反応するタイミングで、俺の視界一面に拳が現れ、強い衝撃。脳を揺らすほどの重い一撃が俺の鼻面を強打した。鈍い音が響き、俺の体は紙切れのように容易く浮き、コロシアムの壁へと激突した。それに伴い破壊された石礫いしつぶてが俺に降り注ぐ。万全な俺なら避けられる障害だが親父の一撃だ。失神しかけるほどの一撃をモロにくらった俺に石礫を避けられる気力はない。

「ゴホッ...ガァッ…」

呼吸が乱れ、咳き込む。たった一撃で満身創痍。体が震え、心も震えた。俺の思考が『勝てない』という残酷な一言で支配される。そんな俺を見て、親父は楽しそうに笑う。 

「くくく、はははは! ほんと最高だな。お前のその恐怖に歪んだ顔。 オマケに、子羊みたいにブルブル震えたその姿! お前が俺の息子でよかったよ、ユルゲン。 息子を殺したところで俺の権力でもみ消せるんだからな」

息子に言うような言葉ではない。しかし、それを親父は簡単に言える。親父は俺を1度も愛してくれなかった。それはきっと、俺が兄さん達より劣っていたからなんだろう。

「なんとか言ったらどうだよ? ユルゲン。 俺の事が嫌いなんだろ?殺したいほど憎んでるんだろ?使えよ!その右腕を!!」

「・・・れよ」

「あァ? んだって? ちゃんと大きな声で言えよ! 馬鹿息子!!」

俺の近くまで寄ってきて、耳を傾ける親父。

「・・・まれよ」

親父は煽るように何度も同じことを言ってくる。俺は頭の中で何かが引きちぎられる音を聞いた気がした。

「黙れって・・・言ってんだよ! クソ親父!!」

俺は、憎悪の色である黒に染まった【太陽ムルクスノ右腕】を振りかぶり、クソ親父の顔面をぶん殴った。
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