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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

状況把握 ②

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俺は彼女の肯定に、一旦、状況を整理する。

ここが日本ではなく、リディシア王国のジーナ村だという事と、言葉が通じるということも確認できた。そして、俺がなんらかの理由で召喚された事も。 まぁ、召喚された理由なんてだいたい予想がつく。あらかた、『世界に危機が…』って理由だろう。ラノベや漫画でありきたりな王道展開。しかし、その王道展開が面白い。それが自分に関係なければの話。誰が、好き好んで知らない世界の見ず知らずの人々をメリットなしに助けるだろうか。

「呼んでもらったところ悪いけど、俺を元の世界に帰してくれないか?」

召喚者である蒼髪の女の子にそうお願いする。面倒事に自分から干渉するのも、巻き込まれるのも嫌いだ。親や先生から逃げた俺を頼りにされても困る。そもそも、なぜ、俺が召喚されたのか。呼び出す相手が誰でもよかったなら俺じゃなくてもいいはずだ。彼女には悪いが、俺を呼んだのは失敗だ。

「どうした? 早く帰してくれないか?」

無言で俺を見つめる彼女に、催促するように再度声をかけ、彼女の視界に映るように手を振った。数回それを繰り返して、恐らく6往復目のところで彼女はハッと我に返った。そして

「ど、どうしてそんなこと、い、言うんですか!?」

と、少し声を荒らげた様子で俺の右手を両手で覆うように握ってきた。フワリと微かにいい香りが漂う。

「どうしてって、面倒事に自ら飛び込む馬鹿なんていないだろ?」

そういう物好きもいるかもしれないが、大半がその期待に応えられなくて押し潰される。期待に応えれる人間なんてほんのひと握りだ。俺の場合はどっちでもない。期待に答えられなくて逃げた。押しつぶされる前に逃亡した。途中で諦めたのだ。何もかもから。

「それに、呼び出す対象は俺じゃなくてもいいんだろ?なら他の人を呼んでくれ。俺じゃなんの役にも立たない」

期待を抱かれる前に否定する。俺はそんな人間じゃないと彼女に教えなければならない。期待させて裏切られる事が、辛い事だと俺は知っている。親や先生達を裏切った俺だから分かる。 それに年端のいかない女の子にそんな辛い思いを味合わせる事は、流石に気分が悪い。

「って事で、俺を帰してくれ」

三度尋ねると、彼女は俺の手を握り締めたまま首を左右に一度振った。それが拒否の意だと言葉にしなくてもわかる。

「何故、俺にこだわる?他を呼べって言ってるんだ」

少し強く言う。だが、彼女は左右に首を振るだけ。決して帰さないと。あなたしかいないと。言っているかのようだ。ただ、それでも俺はその期待に応えることは出来ない。離してくれないなら自分からと、俺は彼女の手を引き剥がす。ほんのりと彼女の温もりが少しだけ残っていた。

「いいから、帰してくれ。こういうのは迷惑だ」

俺はそう本心を零す。迷惑だ。勝手に召喚しやがって。こっちは静かにダラダラと過ごしたいんだ。微かに苛立ちがこみあげてくる。それに気づいたのか、彼女は泣きそうな表情で呟く。耳をすまさないと聞こえないほどの小さな声で。

「・・たし…だって・・・こんなこと…」

その言葉は所々が聞こえず、全容は分からない。でも、『こんなこと』、それは聞こえた。この言葉を口にしたということは、自分の意思じゃないということになる。

「こんなこと・・・。もしかして、お前の意思で俺を呼んだわけじゃないのか?」

「・・・ん」

涙を目尻に貯めた彼女は小さく首を縦に振った。
そして、自身の素性とこの世界の事について語り始めた。
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