上 下
2 / 3

2.冬の日(咳)

しおりを挟む
 朝、家では出なかったんだけど、学校についてから咳が出るようになった。
 教室に入るなり、少しだけ喉がイガイガするのを感じたけど、最初は「気のせいだろう」と思って、水筒のお茶を飲んだ。
 でも、だんだんと咳が出てきて、止まらなくなってきた。

「けほっ、けほっ」
 隣の席の星田ゆうが気づいて声をかけてきた。
「いつき、さっきから咳してるけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫…なんか急にむせた」
 軽く答えたが、悠は不安そうな顔で俺を見つめてくる。
「ほんとに?無理しないで保健室行った方がいいんじゃない?」
「いや、大丈夫だって…げほっ、げほっ」
 俺は頭を振って否定したけど咳はどんどん出てきて、止まる気配がない。

 その時、先生が教室に入ってきて、クラス全員で「おはようございます!」と元気よく挨拶をした。その声で少し咳が収まった気がしたけど、それでも喉の痛みはなくならなかった。

 授業が始まった頃、咳がまたぶり返してきた。さっきよりも頻度が増えて、止まらない。先生が黒板を見ていたが、咳の音に気づいたのか、振り返ってこちらを見た。
「相沢、大丈夫か?」先生が眉をひそめながら聞いてくる。
「だ、大丈夫です…」と咳き込みながら答えたけれど、周りの視線が気になって顔が熱くなる。
 先生は少し考え込んでから、「本当に大丈夫か? 保健室に行くなら今行っていいぞ」と声をかけてくれた。
 一瞬ためらったけど咳が止まる気配もなく、何より周りに迷惑をかけている感じがして、俺は小さく頷いた。
「……行きます」
 悠が心配そうにこっちを見ていたけど俺は一人でいいと言って教室を出た。

 教室を出た瞬間、少しだけホッとした。
 でも廊下に出た途端、冷たい空気を吸ってまた咳が出る。
 保健室は一階で、階段をゆっくり降りる。いつもならすぐの距離が今日はなんだか遠く感じた。

「失礼します…けほっ」
 保健室のドアを開けると、保健の先生がすぐに来てくれた。
「どうしたの?咳がひどいみたいね。ソファに座って」
「授業中から止まらなくて…」
 上履きを脱いで、ドアの横のソファに座る。
 先生は俺の顔をじっと見て、「熱はないかな? 一応測ってみましょうか」と言いながら体温計を手渡してきた。
 俺はそれを受け取り、脇に挟んだ。
 咳すると疲れるんだよなあ。

 体温計の音がピピっと鳴って、先生がそれを確認する。
「熱はないみたいね。でも咳がひどいから少し横になってみましょうか。担任の先生には伝えておくからね」
「はい」
 ベッドに連れて行かれて横になると咳が減って楽になってきた気がする。
 そのまま目をつぶると、だんだん体の力が抜けていくのが分かる。
 あ、寝そう。と思った瞬間には意識がふわっと遠のいていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

貧乳姉と巨乳な妹

加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉 引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹 そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・ この作品は小説家になろうにも掲載しています。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

漫才部っ!!

育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。 正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。 部員数は二名。 部長 超絶美少女系ぼっち、南郷楓 副部長 超絶美少年系ぼっち、北城多々良 これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。

兄が変態すぎたので家出して逃げ込んだ先はまたしても変態比率が高かったようでどうやら僕の救いはお嬢様だけなようです。

アララギ
青春
何時から間違えてしまったのだろうか。 大切なモノのはずだった。大切な約束のはずだった。 だからこそ、なによりも、だれよりも、自分のことが許せなかった。 僕の世界に二度目の雪が降った、12歳の冬の日。 僕はピアニストであることをやめた。    ※) 基本はコメディですが、後半に行くにしたがってシリアスになっていきます。よかったら感想お待ちしてますっ!!

あの空の向こう

麒麟
青春
母親が死に天涯孤独になった、喘息持ちの蒼が 引き取り先の兄と一緒に日々を過ごしていく物語です。 蒼…日本と外国のハーフ。   髪は艶のある黒髪。目は緑色。   喘息持ち。   病院嫌い。 爽希…蒼の兄。(本当は従兄弟)    職業は呼吸器科の医者。    誰にでも優しい。 健介…蒼の主治医。    職業は小児科の医者。    蒼が泣いても治療は必ずする。 陸斗…小児科の看護師。    とっても優しい。 ※登場人物が増えそうなら、追加で書いていきます。  

処理中です...