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第六章 出張編
出張編23話 どいつもこいつも喧嘩好き
しおりを挟む「炎壁」ダニーと「絶対零度」シオンの対決も南4局、オーラスだ。
シオンの氷柱の槍を炎の盾で防いだダニーは、フランベルジュに炎を纏わせ攻勢に転じる。
今度はダニーの炎の剣をシオンが氷の盾で防ぐ番だ、そして攻守が入れ替わっても互角の勝負だった。
二人の念真能力に優劣はない、こうなると勝負はどっちが戦いにおける引き出しを多く持ってるかが鍵だな。
周囲を見渡すと、いつの間にか炎と氷の共演を受講生全員が固唾を飲みながら見学していた。
「教官、いいんですか? 生徒全員見学モードに入ってますけど。」
オレのとなりで見物しているストリンガー中尉にそう言ってみると、
「かまわん、このレベルの戦いを見ておくのはいい事だ。それに俺も見たいからな、若い才能のせめぎ合いってヤツを。」
素直なお答えですこと。
「教官はどっちが勝つと思いますか?」
「有利なのはダニーだろう。シオンはまだダニーの懐に飛び込めていない。シオンの氷柱の槍をダニーは炎の盾で完璧に防御して見せたしな。どっちが勝つか賭けるか、剣狼?」
「いいですよ、オレはシオンに賭けましょう。一万クレジットでどうです?」
「乗った、剣狼は俺の見立てじゃ劣勢のシオンの勝ちに賭けるんだな? その理由を聞きたいもんだが?」
「簡単明瞭な理由ですよ。オレがシオンに賭けないと、賭けが成立しません。」
「コイツめ。マリカの部下だけあって、いいゴロツキぶりをしてやがる。」
オレとストリンガー中尉のやりとりを聞いていた生徒達も賭けを始める。
雑草組はもれなくゴロツキ体質らしい。
期待に応えてくれよ、シオン。オレはおまえに賭けちまったんだからさ。
ロクデナシ達の賭けの対象にされた二人は技巧を尽くして優劣を競う。
ダニーは熱の力を剣先に集中させて、突きで氷の壁を貫通させる戦術を考えたようだ。
いい手だ、一点に力を集中させるのが防壁を崩すには手っ取り早い。
さて、対するシオンはどう出るかな?
「賭けは俺の勝ちだな、剣狼。遠からずダニーの剣が氷壁を貫通する。」
教官も氷を溶かせるダニーが有利って思ってるか。
「どうでしょう? 氷の特性って盾にしたり、尖らせて槍に使うだけじゃないと思うんですよね。」
「どういう事だ?」
ついにダニーの剣が氷壁を貫通し、シオンの体に肉迫する。
迫る剣先、だがシオンは間一髪のタイミングで、剣の腹を両拳で挟んで止める。
そのまま剣を捻っていなし、懐に飛び込もうとするがダニーはバックステップで距離を………とれなかった。
ダニーの軍靴が氷で地面に固定されていたからだ。
だよな。距離を詰めたい格闘家のシオンにとって、足止めにも使える氷結能力は相性抜群だ。
ダニーが氷の戒めを解いた時にはシオンは懐に飛び込んでいた。
懐にさえ入れば両手剣の長さはかえって邪魔になる。ダニーは剣を捨てて格闘で応戦した。
シオンはダニーの右ストレートを掴んで引っ張り、態勢を崩す。コントラの本領発揮だな。
そして脇腹に排撃拳をあて、ゼロ距離パンチが炸裂。だがダニーはパンチを堪えてみせた。
ダニーが重量級だからやれる芸当だよな。体重が軽いと、どう頑張っても吹っ飛ばされちまう。
並の重量級なら堪えるコト自体が無理だろうけど、そこはダニーも異名持ちの兵(ツワモノ)だ。
ゼロ距離パンチに耐えたダニーの反撃の肘打ちを、シオンはいなすと同時に足を引っ掛けて倒す。
そして倒れたダニーの額に拳をあてて………勝負あり、だ。
「そこまで!いい戦いだったぞ、二人とも。」
ストリンガー中尉は勝負の終了を宣言してから、一万クレジット紙幣をオレの軍服の胸ポケットにねじ込んだ。
やりぃ、儲けちゃったな。
「参った参った、氷結能力は足止めにも使えるってか。実戦じゃなくて良かったぜ。」
敗れたとはいえ好勝負を演じたダニーはサバサバした口調で敗戦の弁を述べる。
口惜しさはあるんだろうけど、得たモノの方が大きいってところかな。
「ダニーも想像以上だったわ。てっきり口だけかと思ってたのだけど。」
「負けはしたが、お腹いっぱいにはなってもらえたみたいでなによりだ。カロリーを大量に消費しちまったし、本物の腹を満たすとしようぜ。カナタの奢りでな。」
「そうね。授業も終わった事だし、なにか食べてから解散しましょう。」
「メシにするのはいいけどさ、なんでオレの奢りなんだよ。」
「聞こえてたぞ。臨時収入があったんだろ。」
「私達をダシにして一稼ぎしたんだから還元なさい。」
激闘を終えた好敵手同士は同盟を結んだらしい。
「重量級の二人に奢ったらアシが出そうなんだが?」
「そこは妙技の見物料さ、お客さん。」
「タダ見はよくないわ、対価は支払うべきでしょ。」
やれやれ、仕方ねえな。悪銭身につかずとはよく言ったもんだぜ。
オレは食い盛りの重量級の二人を連れて、統合作戦本部近くにある「ボルカーノ・ピザ」へとやって来た。
「ペパロニミックスは当然のチョイスとして………」
「シーフードミックスもね。それにミートスペシャルも忘れずに。」
「ソイツを特Lサイズで2枚づつでいんじゃねえの。山盛りポテトフライも3人前いっとくか。」
特Lサイズのピザを6枚食うってのかよ。さすが重量級だ。
そして運ばれてきたピザをがっつく二人、見てるだけでお腹いっぱいになりそうだな。
ん? 電話だ。マリカさんからかよ!
「カナタか。今どこにいる?」
「統合作戦本部近くのボルカーノ・ピザです。受講生仲間と一緒にメシ食ってるトコ。」
「別に私は貴方の仲間じゃないけど?」
黙ってピザでも食ってろ、話がややこしくなる。
「わかった、ボルカーノ・ピザだな。すぐソッチに行くから店を出ずに待ってな。」
それだけ言うとマリカさんはサッサと電話を切ってしまった。
「カナタ、誰からだったんだ?」
「オレのボスからだよ、ダニー。今からここに来るってさ。」
「カナタのボスっていうと「緋眼の」マリカかよ!あの超セクシーな!」
ダニーは慌てて手櫛で髪を整える。
「へえ、同盟のエースがわざわざね。ツイてるわ。一度会ってみたかったのよ。」
「シオン、言っとくが間違ってもマリカさんに喧嘩を売るなよ。どうなっても知らないからな。」
忠告の返事を聞く前に真っ赤なバイクが店先に止まり、派手なライダースーツのマリカさんが店内に入ってくる。
「ここです、マリカさん。」
オレが手を上げるとマリカさんはライダースーツの胸のジッパーを下ろしながら、コッチへやってきて椅子に腰掛ける。
「ピザは軽めに食うんだよ。この後はアタイとディナータイムだ。」
オレに異存があるわけもない。ツイてるのはシオンじゃなくてオレみたいだな。
「イエス、マム。来るのがえらく早かったですね。」
「出かけがてらカナタを迎えに行ってやろうと思ってね。その二人が受講生仲間かい?」
ダニーが立ち上がって最敬礼しながら、
「ダ、ダニエル・スチュワート曹長であります。御堂司令主催のパーティーでもお会いしました!」
「そんなにしゃちほこばんなくてもいいんだよ。カナタが世話になってるみたいだね。」
「滅相もありません!」
ま、確かにダニーの世話になっちゃいないね、今んとこ。
「貴方が「緋眼の」マリカさん、ね。確かに雰囲気があるわ。」
喧嘩は売ってないけど、その物言いと口調は十分無礼な部類だぞ、シオン。
「金髪のお嬢ちゃんは、どこの保育園から来たんだい?」
そら見ろ、マリカさんの目からヤバイ光が出てんじゃねえか。
「保育園から薔薇園に転園しようかと思っているのだけれど?」
このアマ、アスラ部隊に入隊するつもりかよ!
勘弁してくれ、訳あり女はもう沢山だ。
「薔薇園に来るのはオシメが取れてからにしときな。ションベン臭い小娘はお呼びじゃないんだ。」
「そこのヒヨッコ狼よりは使えると思うのだけれど?」
「カナタ、このお嬢ちゃんはそう仰ってるがどうなんだ?」
訳あり女はもう沢山だが、嘘を言うのもなんだよな。
「まーまー使えるんじゃないですかね。射撃と格闘技ならオレより上でしょう。殺し合いならオレのが上ですけど。」
ガンッとシオンの拳がテーブルに打ちつけられる。
「コスい戦術でラインアウト勝ちしたぐらいで偉そうな事を言わないでくれる? 殺し合いなら貴方が上? いつ格付けが済んだのかしら?」
「ダニーとやり合ってるのを見たからな。あれが底ならオレが勝つよ。」
「あれが底って訳じゃないわ。試してあげましょうか?」
「無駄なカロリーは使わない主義でね。」
一触即発の雰囲気を気にするコトもなく、マリカさんが割って入ってくる。
「………カナタ、受けてやんな。」
「マリカさん、真剣勝負だと大怪我もありえます。味方同士でバカみたいですよ。それに怪我させちまったらカリキュラムにも差し障りが出る。」
「この後、カナタと二人で話そうと思っていたんだが予定変更だ。」
「オレに話?」
「カナタ、おまえはガーデンに帰投したら小隊長をやってもらうつもりだ。小隊とはいえ指揮官になる以上、この金髪のお嬢ちゃんぐらいは自力で倒してみせないとな。テストの相手としては手頃だろう。」
………オレが小隊長ねえ。一兵卒のが気楽なんだけど。
小隊長、いや中隊長までなら出世もいいかな。親友とおんなじトコまでは行きたい。
指揮官としてアイツの見ている景色をオレも見てみたいんだ。
その覚悟が出来たから、オレはここに来たんだろ?
「緋眼の部隊長さん、剣狼と格付けを済ますのはやぶさかじゃないのだけれど、私になんのメリットもない話よ?」
喧嘩を売ってきたのはおまえだろ? その上、メリットまで要求すんのかよ。
「話は最後まで聞きな。賞品は用意してやる。おまえはアスラ部隊に入りたいんだろ? カナタに勝てば、アタイが責任持って入隊させてやる。………小隊長としてな。」
シオンの極寒の海のような蒼い目に光が宿る。
「剣狼はそれでいいのね?」
「気は進まないが、マムの命令は絶対でね。」
「もの分かりがよくて助かるわ。せっかくの出世を横取りして悪いわね。小隊長の座は私が貰いうけるわ。」
「無理だと思うが頑張れ。」
「ただし、やるのはカリキュラムが終わってからだ。それまで互いに手は出すな。」
「ヤー。」 「いいわよ。」
絶対零度の女とリマッチか。今度はあんな手は使えないだろう。
負けるつもりはないけどな、草場の陰から爺ちゃんが見てるんでね。
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