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第六章 出張編

出張編2話 燕尾服を着たペンギン

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オレ達はドアマンにドアを開けてもらい、ポーターに荷物を預けてシャングリラホテルのロビーに入った。

さすがリグリット一の格式を誇る一流ホテル、ロビーも立派だねえ。

マリカさんはナツメと一緒にロイヤルスィート、オレ達はスーペリアだ。

でもスーペリアといえど、そこは一流ホテルだ。

案内された部屋は広さも調度品も立派なもので、並のホテルのスィートより立派なんじゃなかろうか。

部屋の雰囲気はガーデンの特別営倉に似ている。

ははぁん、司令はこのホテルを参考に特別営倉を造ったに違いない。

荷物を運んでくれたポーターにチップを払い、オレはまず広いベッドに大の字になる。

忙しかった親父がたまに連れて行ってくれた旅行でもいい部屋を取ってくれてたよな。

………親父のコトをすっかり忘れてたな。まあ、オレを見捨てた親父のコトなんざどうでもいいか。

元の世界のオレの体ってどうなったんだろう? 多分、死んでると思うけど………

そんなコトを考えていたが、ポケットのハンディコムのコール音で我に返る。

「カナタ、貸衣装の合わせがあるから二階のサービスルームに来な。」

「貸衣装? 仮装大会でもあるんですか?」

「似たようなもんだ。イスカは財閥の総帥でもあるからね。今夜はホテルの最上階を貸し切ってのパーティーさ。そこに出席しろとよ。」

ええ、ヤダなぁ。だいたいそんなエレガントでノーブルな場に、一介の曹長のオレが出てどうすんだよ。

「………ご遠慮願うのって無理ですかね?」

「お前の必要らしい。意味がよく分からんが出ておけ。イスカは無意味な事はしない。」

「………あんまりしないってコトはたまにはやるんですね?」

「ドレスアップしろってのは意味がないからな。軍人はパーティーでも軍服で通るはずだ。正装させるのはお稚児さんみたいな格好をしたカナタを見て笑ってやろうって魂胆だろう。」

「魂胆が見え透いてるんなら止めてくれたって良さそうなモンなのに………」

「アタイも笑いのタネに飢えててね。諦めてサッサと降りてきな。」

笑わせるのは一番隊のコメディスターとして望むところなんだけど、笑われるのはヤだなあ。

四の五の言ったところで逆らえるワケもなし、諦めてサービスルームへ向かいますかね。



サービスルームにはコンシェルっぽいダンディーなミドルとマリカさんがいてオレをお待ちかねだった。

「この方が剣狼殿ですか。なかなか精悍なお顔をされておられます。コーディネートし甲斐がありますな。」

リップサービスもあるんだろうけど、アギトのツラがイケメンなのは確かなんだよな。

も少しタッパがあれば完璧なんだろうけど。

「夜会に相応しい装いを見繕ってやってくれ。まず燕尾服、それから装飾品の類は銀で頼む。採寸しながら夜会のマナーも教えてもらえりゃ助かる。」

「承知致しました。さ、こちらへ。」

オレは言われるがままにコンシェルさんの指示に従い、採寸されたり、髪を整えてもらいながら夜会でのマナーなんかを教えてもらったりした。



一時間後、鏡に映っていたのはドレスアップされたイケメンペンギンだった。

髪を長くしていたのでオールバックにしてもらい、見るからに高そうな生地の燕尾服に渋い銀の腕時計と落ち着いた格好にしてくれた。

「燕尾服を着たペンギンだね。馬子にも衣装で皇帝ペンギンに見えなくもない。」

マリカさんに褒められ……てるのか?

「イワトビペンギンと言われなかっただけマシと思っておきますよ。」

「じゃあ皇帝ペンギン、折角おめかししたんだから、アタイと一緒にホテルのショッピングモールでも回ってみるか?」

「イエス、マム。エスコート致しましょう。」

オレは恭しくお辞儀してマリカさんの手を取った。

ひゃっほい、マリカさんとショッピングだぁ!



オレはマリカさんと一緒にホテル内のショッピングモールを回ってみた。

一流ホテルだけにテナントも一流ブランドばかりみたいで、どれもビックリするほどいいお値段だ。

マリカさんは何点かお買い物をしてたが、オレが買ったモノはと言えば鮮やかな赤のスカーフ一枚だけである。

今はブランド品よりも生き残る為に金を使いたい、無駄遣いは極力避けるべきだろう。

マリカさんはオレが女物のスカーフを買ったのが意外だったらしく、

「アタイは赤が似合う女だけど、アタイへのプレゼントって訳じゃなさそうだねえ。」

「いくらオレでも贈る相手の前でプレゼントを買うほど野暮じゃないですよ。」

「けど贈る相手がリリスだったらミスチョイスだよ? あのちびっ子に赤は似合わない。黒か銀………青もアリかもな。あの娘は造形は完璧に近いから、赤でもそれなりの見栄えはするだろうが。」

リリスにじゃない、リグリットにいる間はどうせイヤというほど買い物に付き合わされるに決まってんだから。

「雪風先輩にですよ。いつも赤いスカーフを首に巻いてますからね。」

「なかなか感心な心掛けだ。パーティーまでまだ少し時間がある。珈琲でも飲んでから最上階の会場に向かおうか。」

「そうですね、メシはパーティー会場で頂きましょう。司令が主催のパーティーならさぞかしメシも豪華でしょうから。」

キャビアは確実にありそうだよな。酒もいいものが取り揃えてあるに違いない。

上流階級の人間に混じってパーティーなんて正直気は進まないが、食いもんだけは楽しめるだろう。



オレは真紅のドレスを纏ったマリカさんと一緒にエレベーターに乗って、パーティー会場に向かう。

馬子にも衣装なオレと違ってマリカさんはホント綺麗ですよ。いい女ってやっぱり得ですな。

サンピンさんの話じゃアギトはその本性を知らない女性将兵達からは人気があったらしいから、立ち振る舞いも堂に入ってたんだろう。

となるとオレが馬子にも衣装なのは場慣れの問題なのかね。

エレベーターを出て最上階のパーティー会場に入ろうとした時にマリカさんに腕を掴まれた。

「ん? タイでも歪んでますか?」

「いや、腕を出しな。レディをちゃんとエスコートしてこそジェントルだよ。」

なんとオレはマリカさんと腕を組んで会場に入る栄誉を賜ったようだ。

無論断る理由なんかない、役得には素直にあやかろう。

パーティー会場の中は映画の世界でしか見た事がない光景が広がっていた。

………人生何が起こるか分かんねえなぁ。

本来、オレのいる世界じゃないのだろうけど、今だけはここの住人なんだよな。

ん? 燕尾服ってオレだけじゃないか? 他の男性客はみんなタキシードだぞ?

そんな疑問をよそに会場が拍手と歓声に包まれる。

主催者の司令がクランド中佐を伴って壇上に現れたからだ。

中佐が来賓に感謝の言葉を述べ、司令がパーティーの開催を宣言して乾杯が始まった。

オレもボーイさんからシャンパンを貰い、マリカさんと乾杯する。

「よぉ同志、楽しんでるか?」

タキシード姿の同志アクセルが、黒いフロントスリットのドレスでおめかししたタチアナさんを連れてやって来た。

髪も結い上げてますね、帽子に作業ツナギ姿を見慣れてるせいかスゴく新鮮に感じます。

でもフロントスリットはいいとしても、胸元のアピールが足りませんぞ。

タチアナさんの武器でしょ、超巨大なおっぱいは!

「タチアナさん、もっと大胆なドレスでも良かったんじゃないですか?」

「オレもそう言ったんだけどよ。恥ずかしいらしい。」

「恥ずかしいなんて言わずに見せびらかすべきだと思うけどなぁ。」

「………今から恥ずかしい思いをするのはカナタだけどね。」

は? オレがなんで? タチアナさんの言ってる意味が分かんねえ。

「なにかあるんですか?」

「カナタだけが燕尾服じゃないか。そういう事だろ、マリカさん?」

「ああ、そういう事だ。カナタ、アタイと一緒に壇上に上がるぞ。」

「へ? まさかパーティーの余興に一曲歌えってんじゃないでしょうね?」

マリカさんとデュエットしたいのは山々だが、ボッチ生活の長かったオレはカラオケは×技能なのだ。

「バカ、ンな訳あるか。アタイと一緒に勲章を貰うんだよ。その為の燕尾服だ。」



勲章をもらう? オレが? 聞いてないよ、そんなサプライズ!




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