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第四章 昇進編

昇進編2話 堅物だって悩みはある

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オレは司令室を後にして中庭に向かう。


先客がいた。ホタルと30人の子供達。

精神に失調をきたしている子供達はすでに病院に搬送された。

あの子供達は明日、リグリットからの迎えが来るそうだ。

その後は養護施設に引き取られていくのだろう。


ローズガーデンは子供は苦手って言うマリカさんみたいな人が多いし、子供好きでもウォッカみたいに子供が見たら泣きそうなご面相のゴロツキばっかりで、どうなる事かと心配されたが問題はなかった。

ホタルが救世主になったからだ。

子供達の面倒を上手にみて、子供達からもなつかれた。

そのホタルは、今も中庭で子供達と遊んでる。

忍犬雪風と戯れてる男の子達に目を配りながら、女の子達にあや取りを教えている。

軍に入る前は保母さんでもやってたのかよ。

三つ編みの女の子がホタルに話しかけているみたいだ。

なにを話してるんだろう? ここからじゃ遠くて会話はよく聞こえない。

そうだ、指向性聴覚機能があったな。使ってみるか。

「お姉ちゃんとは明日でお別れなの?」

「そうよ、明日お迎えがくるから。もう恐い思いはしなくていいの。大事にしてもらえるから幸せになるのよ。」

「ハンナね、お姉ちゃんと一緒がいい。お姉ちゃんも一緒にいこうよ。」

「ゴメンね、お姉ちゃんはここでお仕事があるから、一緒にはいけないの。」

「イヤだ、ハンナはお姉ちゃんと一緒がいい!」

「ハンナ、お姉ちゃんも一緒にいきたいけどそれはできないの。ハンナは強い子だから大丈夫。出来るわよね。お姉ちゃんが好きなハンナは強い子よね?」

「うん、ハンナ、お姉ちゃんにお手紙かくね。」

「いい子ね。楽しみにしてるから。必ずお返事を書くからね。」

「ぜったいだよ。ぜったいだからね。お姉ちゃんのお返事まってるから!」

そんな会話をしているホタルは優しい笑顔をしていた。

決してオレには見せない顔だ。

ちぇ、どうせなら徹底的にイヤな女なら嫌われてもどうって事ないんだけどな。

子供に好かれてそんな優しい顔ができるんなら………

オレの心の中のぼやきはシュリの声で中断された。

「カナタ、待っていたんだ。刀の手入れは場所を変えよう。」

「だな、あの子達の前で武器は見せたくない。」

シュリは我が意を得たとばかりに頷いた。



オレとシュリは格納庫近くの空き地に移動した。

ザビザビになったダンビラーを抜いて、シュリに一から研ぎ方を教えてもらう。

シュリは根気よく丁寧に教えてくれる。

「マグナムスチール製のダンビラーⅡをここまで傷めるのは大したものだよ。」

「それ褒めてんの? 貶してんの?」

「褒めてるんだ。カナタの念真撃は、正規採用刀では荷が重いほどの威力があるって事だよ。」

「司令から報奨金を貰ったんだ。刀を買うべきなのかな?」

「僕ならそうするよ。やっぱりメインウェポンは大事だからね。カナタは特に念真強度が高いんだから武器はいいものを使うべきだ。高精製マグナムスチール製の武器がお勧めだよ。念真撃の威力も上がるから。」

戦って経験を積んで浸透率レベルを上げて、報奨金で武器を買う、か。

まるでロールプレイングゲームだな。

「高精製マグナムスチール製の刀ね。後でウェポンショップを覗いてみるよ。」

「刀を変えるなら研いでも無駄になっちゃうね。研ぎ方の練習と思えばいいのか。」

「そんな事はない。この刀のお陰で生き残れたんだ。武器を変えるにせよ、手入れはちゃんとするべきだ。」

「カナタの言う事が正論だね。モノにだって敬意を払わないと。カナタにお小言を言われるとは思わなかったよ。おっぱいにしか興味がないのかと思ってた。」

おっぱいだけじゃねえよ。お尻にだって興味がある。

「刀か、まいったな。オレは目利きなんか出来ねえぞ。」

「分からない間はウェポンショップのおマチさんのお勧めを聞けばいい。おマチさんの見立ては確かだから。」

「そうなんだ。そのおマチさんって人、店に都合のいい商品を売ったりしないの?」

「それは二流のやることなんだそうだ。客に太ってもらうのが一流の商人あきんどなんだとさ。太い客はさらに高価な商品を買ってくれる。客にモノを売るだけじゃなく、客を育てるのが真の商人道なんだってさ。」

「へえ、ならお勧めに従ってみるか。」

「それがいい。…………話を変えるけど、ホタルがキミに冷たくあたってるみたいだね。すまないと思っている。」

「シュリには関係ないだろ。謝る必要はないさ。」

「ホタルは本当は優しくて気の利くいいコなんだよ。」

「それはさっきの中庭の様子で分かるよ。」

「僕とホタルは同じ日に生まれて、一緒に育った幼馴染みなんだ。今はホタルが僕をどう思っているかは分からないけど、僕はホタルを他人だと思ってない。」

「生まれた日までおんなじかよ。完璧な幼馴染みだな、そりゃ。」

「アギトさんに容貌が似てるからって理由でカナタに冷たく当たるなんて間違ってる。だから責任を感じてるんだ。」

アスラ部隊の嫌われ者だったアギトにも、さん付けするあたりが生真面目なシュリらしいよ。

「ラセンさんがいい事を言ってた。人は背負える荷物だけ背負えばいいんだって。思うにシュリはなんでもかんでも背負いすぎだ。もっと気楽に生きたほうがいい。」

「僕もそう言われた事があるよ。でも僕は背負いたいんだ。例え自分の力に合わない荷物でも、背負い続けていれば、背負えるだけの力がつくと信じてる。」

「シュリはホント不器用で損な性分してんなあ。………ところでホタルがどう思っているか分からないけどって言ったな。つまり前はそうじゃなかったって事だ。なにかあったのか?」

「………カナタのそういうところは見習いたいよ。僕はどうにもそのあたりが鈍いみたいだ。昔は僕とホタルは本当に仲が良かったんだけどね。今は自信がないんだ。」

「なにが原因なんだ? ぱっと見じゃ仲が悪いようには見えないぞ。」

「仲が悪い訳じゃないよ。………でも、そうだな、2年ほど前から僕とちゃんと目を合わせなくなった。どこかよそよそしいんだ。以前にはなかった壁が突然できたって感じかな。僕の融通がきかない上に面白みもない性格に嫌気が差したのかと思ってるんだけどね。」

「シュリっていくつだっけ?」

「カナタと同じ二十歳だよ。」

「20年も付き合いがあるのか。にしちゃおかしいぞ。シュリって昔からそんな性格だろ?」

「軍に入ってから小言は増えたけど、僕は昔からこんなだったと思うよ。」

「その性格に18年も付き合ってても、関係は良好だったんだよな? なのに2年前から突然嫌気が差すとか考えにくい。なにかあったと考えるべきだ。問題はオレがホタルとの関係が最悪だって事だな。糸口を掴もうにも………」

シュリはクスクスと笑い出した。

「なにが可笑しいんだよ。オレは真面目に………」

「だってカナタだってラセンさんの言う事を守ってないじゃないか。どう見たって余計な荷物を背負い込もうとしてるようにしか見えないよ。」

………言葉もねえ。ボッチの反動かな。なにもオレが余計な節介を焼くような話じゃない。

「オレは学習しない男らしいな。余計な節介だった。」

「余計なお世話だなんて言ってない。いいじゃないか、仲間の為にお節介を焼いたって。仲間ってそういうものさ。」

「………かねえ。仲間の間にも適度な距離感はあっていいのかもよ?」

「そういう考えも否定はしないけどね。まあ、僕とカナタは友達だからいいんじゃないか?」

………は?…………友達?

「え、友達なのかオレ達?」

シュリは真顔で答えた。

「違うのか? 僕はカナタがキッドナップ作戦で、実験ポッドに入れられてる子供達も連れていくと言った時から友達だと思っている。あの子達も助けたいと思っていたのに、僕は諦めかけた。でもカナタは折れなかった。だから尊敬もしている。」

コイツ臆面もなくそういう事言えるのかぁ。スゲえな。オレも尊敬するよ。

「………そうだな。今、分かったよ。オレ達は友達だ。シュリはアスラ部隊で出来たオレの最初の友達だったんだ。」

「アクセルさんやウォッカは友達じゃないのか?」

「仲はいいよ。でもあの2人は友達って言うより、世話の焼ける弟分の面倒をみている兄貴分って感じなんだよな。」

「年も上だしそうなのかもね。あ、言っとくけどカナタがおっぱいおっぱい言ってるのを認めた訳じゃないからね!あれは部隊の名誉を毀損し、品位を低下させて、百害あって一利なしって言う諺の通りに………」

オレはクドクド続くシュリのお小言を黙って聞くことにした。



だってオレとシュリは友達だもんな。


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