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第二章 入隊編
入隊編6話 読んでてよかった、格闘マンガ
しおりを挟むここはアスラ部隊本拠地ローズガーデン食堂内特設リング。
新入り歓迎無差別級エキシビションマッチの舞台だ。
オレはアマガケカナタ、階級は伍長。念真強度100万n、戦闘細胞浸透率51%
ボッチの因果律から解き放たれる為の戦いを決意した男だ。
おっぱいへの執着と同様に、やると決めたら妥協はしない………つもりの男だ。
重量級がタフなのはよく分かった。
全力でストンピングを入れても、右足首を掴まれた状態とはいえ渾身の顔面への蹴りも、深刻なダメージにはなっていないようだ。鼻は曲げてやったけど。
ウォッカもそれに気付いたらしく、右手で鼻を摘まんでゴキッと真っ直ぐに戻した。
マンガじゃよくやるけど実際に出来るもんなんだなぁ。ちょっと感心。
格闘技の経験はないが、格闘マンガはあらかた読破したオレの頭脳がコイツに勝つ為の方法を探す。
………コイツをノックアウトするには、蹴りだ、しかも急所への蹴り。
「アンタ、鼻が曲がってたほうが男前だったぜ?」
「抜かせ!もう医務室じゃすまさん。医療ポッドに送ってやらあ!」
「そこは墓場に送ってやるって言いなよ。意外と優しいのね、顔に似合わず。」
オレは両手を上げて指を開く。
「なんだ? バンザイか?」
「バーカ、手四つだよ。力比べだ。」
「バカかテメエ!俺は重量級だぞ!」
「怖いんならそう言えよ。パワーだけが取り柄のアンタが、オレみたいなチビ助にパワー負けとか洒落になんないから勘弁してくださいってな。」
「上等だ!やってやらあ!」
そしてオレ達は互いの両手を掴んで、パワー比べと相成った。
スゴい握力とパワーだな。でも劣勢とはいえ、なんとか対抗は出来てる。
そして挑発も忘れない。
「ガタイの割にはパワーがないね。ちゃんとメシ食ってる?」
「抜かせチビ助、へし折ってやらぁ!」
圧力に押されてオレの背中が少しずつ弓なりに反ってゆく。
ウォッカが勝利を確信してニヤリと笑う。
だまし討ちみたいで悪いけど勝負するのはここだ!
優勢と勝利は似ているようで全く違う。
優勢は過程でしかないが勝利は結果だ。
勝ってもいないのに勝利を確信した瞬間が、人間の最も油断する時なんだ!
オレは両手を掴み合ったまま、逆上がりするように両足を揃えてウォッカの顎に全力キックをお見舞いする。
パワー比べに熱中していたウォッカは、予想外のオレのキックに反応できなかった。
モロにくらって、たたらを踏んでテーブルに寄りかかる。
マジで頑丈だな!これでもダウンしねえのかよ。
いや、足にはきてる。顎先を斜めに蹴り上げた甲斐はあった。
ノックアウト出来なくても脳を揺らすのには成功した。このチャンスを逃す訳にはいかない。
マリカさんにボコボコにされた時に自分で体感したけど、バイオメタルは平行感覚を取り戻すのも生身の人間より遥かに早い。
オレが追撃をかけるべくダッシュしようとした時に、マリカさんの声が食堂内に響いた。
「そこまでだよ!」
ウォッカは首を左右に振って感覚の回復に努めながら喚いた。
「俺はまだやれますぜ!」
「んなこたぁ分かってんよ。けどもうカナタはやれるところを見せたろう。ウォッカ、おまえは新入りをいたぶりたいだけなのかい? アタイの部下にそんなケツの穴のちいせえヤツはいないよねえ?」
ドスのきいた声ってこういうの言うのな。
ウォッカは固めた拳をほどいて肩をすくめた。
「やれやれ、とんだかませ犬になっちまったもんだ。今日は厄日だぜ。」
ウォッカはテーブルの上の酒瓶を手にとってラッパ飲みする。
そして酒瓶を持ったままオレに近付いてきて、
「やるじゃねえか、新入り。オレはイワン・ゴバルスキー軍曹。ウォッカでいい。」
「よろしくウォッカさん。本当にタフですね。オレの打撃は効きませんでしたか。」
「あたぼうよ、って言いたいところだがな。最初のペチペチは全然だったが、ローキックとストンピングは結構きたぜ。最後の両脚キックはマジで効いた。いいもん持ってんじゃねえかオメエ。」
あれ、この人、意外といい人なのかな?
「効いてるようには見えなかったんで正直焦りましたけど。」
「顔に出るようじゃ半人前よ。そんなハンパもんは1番隊にゃいねえ。ま、飲め。」
「いや、オレはアルコール分解アプリはインストしてないんで………」
「ああん? 俺の酒が飲めねえってのか?」
こういう体育会系のノリはホント苦手なんですけど。
そして野次馬達が一気コールで煽ってくれる。
呑まないと場の雰囲気が壊れそうだよなぁ。
呑むしかないな、ボッチの因果律を打破するためのこれは儀式なんだ。そう思おう。
オレは酒瓶を受け取ってラッパ飲みにチャレンジする。
初めてのお酒が衆人環視の一気飲みかよ。大学の新歓コンパってこんな感じなんだろうか。
味うんぬんより喉がスゲえ焼け付く。そして目が回る。
ウォッカさんは文字通り、オレにウォッカを飲ませたのだった。
キリキリバターン。初めてのお酒はオレをノックアウトに成功した。
起きたら自室のベットの上だった。
誰かがオレを部屋まで運んでくれたらしい。
スゴい吐き気がして洗面所でリバースタイム。
一通り吐いたら少しスッキリしたが、頭もズキズキする。これが二日酔いってヤツか。
アドレナリンコントロールを起動して頭痛を軽減しよう。ふぅ、少し落ち着いたぜ。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して口にする。
うめえ。二日酔いの朝に飲む冷水が、こんなに美味いなんて知らなかった。
そういや昨日は気絶したからアラーム機能入れられなかったんだよな。
今何時だろう。瞳に時間表示させると09:46と表記される。
ヤバイ、今日は10:00時に支給品の受け取りがあったはず。
顔は洗った、軍服は昨夜から着たまま、もうこのまま行こう。
オレは基地内の支給品受取所へ向かった。
支給品受取所のオバチャンから軍装を受け取る。
刀と銃にナイフ、その他もろもろ。
ナイフはランボー御用達のサバイバルナイフ。刃部分の反対側がギザギザになってる例のアレだ。
柄の部分のキャップを外せばコンパスもついてるけど多分使わないな。
コンパスは体内についてるし。
刀は同盟軍の正規採用刀ダンビラーⅡ。
開発部門だけじゃなく同盟軍自体のネーミングセンスがおかしかったのかよ!
なんだよダンビラーⅡって。まんまじゃねえか。
スーパー海女ちゃんとかダンビラーとか………大丈夫なのかよ同盟軍?
銃はアレス重工製、マンイーターカスタム。これも正式採用銃だ。
海女ちゃんとかダンビラーの後だとスゴくまっとうな名前に思える。
44口径で10発装填、セミオートマチックタイプでFCSとのリンク可能。
これらを受け取ったオレは食堂に向かった。
食欲はないが食事はバイオメタルにとって重要だ。
軍人としては食事も仕事のうちだろう。
10:25時ともなると食堂は閑散としていた。
何人か軍人が珈琲を飲みながら談笑していたが、その中に知った姿はない。
軍服も違うし、なんとなく品がある人達ばっかりだ。
ああ、この人達が司令の親衛部隊の0番隊の人達だな。
リバースしちゃったので胃は空っぽのハズだし、無理してでも頑張って食べよう。
何を食べようか?………そうだ、茶漬けにしようそうしよう。
食堂のコックさんに茶漬けって出来る?って聞いたら、ウチで出来ないのは満漢全席ぐらいだってイカした答えが返ってきて茶漬けを作ってくれた。
これだよ、これ。やっぱ日本人はこれがないと。
海苔の風味、香ばしく焼いてある鮭、梅干しのすっぱさが荒れた胃に染みわたる。
オレが幸せを堪能していると知った顔が入ってきた。ウォッカさんだ。
「重役出勤だな、坊主。」
「坊主はやめてください、カナタです。」
「酒飲んでぶっ倒れたくせに生意気な、あの後、俺が部屋まで運んでやったんだぞ。」
顔はイカツイけど、いい人だった。
「それはどうも、でもウォッカさんのせいでぶっ倒れた訳ですからチャラですよね。」
「名前で呼んで欲しけりゃさんを取れ。そうすりゃ俺もカナタって呼んでやる。」
「じゃあ、え~と、ウォッカは何しに食堂に?」
「ここでボーリングでもやるって言うのかよ? メシを食いにきたに決まってんだろ。」
ローズガーデンのボーリング場閉鎖に、この人は加担してるよな絶対。壊すの得意そう。
「じゃあコックさんに料理を頼まなくていいんですか?」
「俺の顔みりゃビーフボウルを作り始めてるよ。おっ、出来たみたいだ。とってくらぁ。」
ウォッカは洗面器みたいなデカさの牛丼持って戻ってきた。見ただけで胸焼けしそうだ。
特大牛丼をシャモジみたいなスプーンで豪快に食べる。
「ウォッカも遅い朝メシなんだね。」
「んなわけねえだろ。ちゃんと08:00に食べたさ。」
「はいぃ?」
「重量級は大概こんなもんだ。俺は生身の頃から大食いだったがそれを4倍してみな。」
博士が重量級は消費カロリーがスゴいって言ってたけどガチでスゲえな。
「4人前食うが10人前の戦果を挙げる、それがこのウォッカさんよ。」
「食堂のない戦地ではどうすんの?」
「不知火で出撃することがほとんどだから問題ない。いざとなったら最後の手段もあるしな。」
「不知火って?」
「1番隊の陸上戦艦さ。兵員や車両、食料弾薬、そいつを山ほど搭載できる俺らの母艦。格納庫で整備中だから時間があれば覗いてくるといい。」
「見てみたいなそれ。最後の手段ってのは?」
「………ペットボトルに入れたガムシロップを一気飲みする。」
「うぇ、気持ち悪くないの、それ?」
「悪いに決まってんだろ!だから最後の手段なんだよ!だがバイオメタルってのは栄養素とか関係なく、カロリーさえ取れれば生身の人間の数倍の早さでエネルギーに変換できる。糖分を急速に摂取しても低血糖にもならねえ。だからいざって時に備えてチョコやキャラメルはカナタも持っとけよ。」
「わかった、ありがとう。オレはそろそろ行くよ。」
「おう、格納庫にいくのか?」
「陸上戦艦っていうのを早く見てみたいんだ。これからお世話になる船みたいだし!」
戦艦とか戦闘機とかには、いつの時代も男のロマンが詰まっている。
攻撃衛星群に無力化されて、戦闘機がないのは残念だけど、陸上戦艦かぁ。
元の世界にはそんなものなかった。一刻も早く見てみたい!
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