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富も名声も力も持たざる者の大航海

効率厨になろう

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「大体ですねぇ、ユーマくんは魔法の使い方がヘッタクソなんですよ。無駄に大技使って消耗してダウンとか、恥ずかしくないんですかおろろ」


「船酔いが抜けなくてゲロ吐くとかいう恥を晒してる奴がなに言ってんの」


ベッドの上でごろ寝している俺は、魔力の使いすぎ、及び暴走によって頭痛に襲われている。
オールレンジから無数の万力で締め上げられているような、そんな痛み。


「あんな大技使えるなら、半分の魔力で相手の海水奪って、レーザーにして撃てば勝てますよ。私ならおろろそうしまおろろ」


「そろそろ次のバケツ持ってこいよ」


断面ぐっちゃぐちゃのヘビの頭は、適当な街できれいなトロフィーに加工して飾るんだそうな。
胴体の方はなんとか引き上げられたらしく、一部を食料にして海に還したそうな。


「ぶっ壊れちゃった物品とか、甲板とかは、皆さんが総出で直してるみたいです。港に着くのは何日か遅れるそうですよ」


「お客さんとかどうなの?怒らねぇのかそれ」


「事前に承諾させてるそうです。トラブルで遅れたり、壊れたり、最悪品物が届かなくても、文句言わないようにって」


「随分と強気だな。でもあんな怪物とか海賊とかが出てくるんだし、何割かがまともに届くだけでも御の字なのか」


すっかり船に慣れた俺は、頭痛で死にそうになりながら治まるのを待つ。
まさか、エルがこんなに船に弱かったとはなぁ……と思っている間にも、エルは新しいバケツにおろおろし始めた。


「ユーマくん、今後もこんな戦い方してたら、マジで死んじゃいますからね。今日はあと一回魔法使っただけで、ユーマくんは脳ミソが爆裂して死にますからね。きったねぇ花火になりたくなかったら、効率考えましょうおろっろろ」


エルによると、もっと強くなればいきなり風の槍をぶち当てるだけでも首の一つや二つはもぎ取れるらしい。
竜巻起こして、水巻き上げて、凍らせて、ドカン、こんなに行程重ねて魔力の浪費をしていてはいかんというのは、自分でも分かっている。


「見た目は派手でしたけどね、氷の巨大ドリル。あれを発動できるから強い、じゃないんです。あんなことしなきゃ勝てないから、弱いんです。分かりました?」


「うす」


流石のエルも、頭痛に悶え苦しんで死にそうな俺に、今から魔力の講義をしよう等とは言い出さなかった。
……自分に余裕がないだけかもしれないが。

それから二日も経つと、俺とエルは二人とも全快した。
もう、エルにバケツは必要ない。


「あ、ユーマくん。クラリスさんがあなたに渡すものがあるとかなんとか」


「……ラブレターかな」


「はいちょっとぶっ殺しますねー」


「やめてくださいしんでしまいます」


甲板に上がると、曇天の中で大海原を見つめるクラリスさんがいた。
その手には、見覚えのある刀剣が握られていた。


「待ってたわ、ユーマ。はいこれ、修繕できたわ」


彼女の手渡してくれた刀剣、それは――


「あぁっ!俺のムカデソード!」


――森の中で燃やしてしまった、あの武器だった。


「打ち直しとかになるとこの船では無理だったけど、刀身そのものはススを落として軽く研げば問題なかったわ。もう燃やしちゃダメよ?」


「そーですよユーマくん。そうならないためにも、魔法の制御の仕方とか覚えないといけません」


「うす」


そう言うと、エルは大海原に手を掲げた。
すると、螺旋を描きながら、あの時の大槍に匹敵するサイズの海流の槍が飛び出した。


「わざわざ凍らせて掘削しなくても、風の魔力に頼らなくても、これくらいの芸当は簡単にできます。……あのヘビ相手では、多少威力は殺されますけどね。それでも、私なら五秒で食肉加工できます」


簡単であることを証明したいのか、槍が剣山のようにポンポン飛び出してくる。
サイズこそいくらか落としているようだが、俺には出来なかったりする。


「多分、水を巻き上げて槍にするとか、斬撃にして飛ばすとかならできると思うんです。欲しいのは、あのヘビくらいなら三秒で三枚に下ろせるだけの威力、速さ、精度ですね」


「お前より強くなれと」


「そのためにあなたがここにいるわけですし」


自分も試してみると、海水の槍の形成、攻撃まではそんなに難しくはない。
魔力は足りているし、魔力の発動に必要な、魔力の流れや魔法の発動イメージも完璧だからだろう。
でも、威力は人間を一人を飲み込めるかどうかが限界で、そこまでしようとすると槍の鋭さを維持できない。


「ユーマくんの、火事場の馬鹿力ってやつなんですかね……。そもそも今、本気でやってます?喧嘩売ってます?買いますよ?」


「売ってません。手を向けないでください。百歳まで生きる予定です」


でもやっぱり、どれだけ本気で打ち込んだとしても、本番のマジで生き死にが関わってるような場面には至れなかった。


「お二人さん。練習するのもいいけれど、そろそろ中に戻りましょう?……今日の天候は荒れそうよ」


「え゛っ」


エルのそんな声は初めて聞いた気がした。

中に入って数分と経たずに揺れがひどくなり、エルはまたしてもバケツのお友だちになってしまった。
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