上 下
37 / 49
波瀾万丈の王都生活

逃避行は続くよどこまでも~死んでもろて編~

しおりを挟む
    復活した巨大スライムは、先程までと同じ機敏な動きを見せる。
多少は学習能力があるのか、他の生存者を盾にしたり、襲う素振りを見せて生存者側の動きを制限したりと、優馬達が手を出しにくい状況を作り出す。


「見た目だけではなく、性根もとことんまで汚い生物だな!実に不愉快だ!」


「原生生物のクセに、調子に乗るなよ……」


    唯一の救いは、攻撃力はさほど変わっていないことと、優馬と共に立つ剣豪が疲れを知ることもなく戦い続けていることだろう。

    魔法、剣術、それらをバランスよく扱い、被害者を出すことも怪我をすることもなく、スライムを攻める。
なおかつ、優馬や生存者への指示も下しているのだ、戦場に指揮官として居た期間は決して短くないだろう。


「十時方向の二人は物陰へ!四時方向の三人は今のうちに移動を!そう簡単に、愛すべき民は殺させないッ!」


    壁に生存者を押し潰し、そのまま吸収しようとしていたスライムは、勢いよく壁に突っ込み、激突。
ダメージになったかは微妙だが、小さくはない隙が生まれる。


「触手男とは違い、電撃が通るならば……!」


    彼は剣に込めた魔力を雷に変換し、先端へと凝縮させ、それをスライムに突き入れた。
体内で迸る数千万、あるいは数億にも及ぶ電圧の雷。
スライムは青白く輝き、まるで痙攣するかのように体表の触手が硬直、弛緩を繰り返す。


「お前は滅ぼす!この国を支える者として、必ず!全てを打ち砕く天よりの輝きを受けるがいい!『轟雷連斬ごうらいれんざん』ッ!!」


    常軌を逸した高圧電流により、身動きの自由を奪われたスライムを、彼は幾度も幾度も斬りつける。
その度に眩い閃光が辺りを包み、落雷が如く轟きが響き渡る。
そしてその斬撃が十に及んだとき、紅く輝く業火の剣を手にした優馬が、スライムへと飛びかかる。


「あのラフレシアの時のように……いや、それ以上の火力で、極大汚物を消毒してやる!」


「熱き業火、輝く雷光、その力を持って消し去らん!」


    今一度、人類が軽く触れればその瞬間に弾け飛ぶほどの電流を、彼は剣に迸らせる。
そして高く飛び上がり――


「『炎龍息吹えんりゅういぶき』ッ!!」


「『#絶滅に猛る雷神の鎚____#エクスティンクトールズスレッジ』ッ!!」


    少年と大臣、否、二人の猛者の渾身の一撃が、穢れの塊に叩き付けられる。
まさに雷神の御業と言うべき雷に体を変質、粉砕され、吹き飛んだ体は全て灰塵に帰すような業火に飲み込まれ、焼失する。


「大臣さんと比べるとショボいですけど……ユーマくん、ちゃんと育ってますね。この戦いは……及第点ってところですか」


    生存者達とは違い、エルは彼らの繰り出す技の応酬、そして最後の一撃までしっかりと見届けていた。
そして、彼女は人知れず、小さく拍手を送る。


「……やったかッ!?」


「少年よ!その言葉は、討てなかったばかりか反撃を受けて散っていく者の言葉だ!こういう時は……こう言うのだッ!」


    生体反応を失い、残った体が液状化していくスライムに剣を突き立て、彼は叫ぶ。


「ここにッ!我々は勝利したッ!!」


    生存者達は、まだこの戦いが終わっていない、まだ脱出できていない、それを踏まえた上でも、少しだけ安堵した。


「や、やったあああっ!かっ、かっ、勝ったあああっ!!たすか、た、たす、助かったあああっ!!」


    否、このヤブ医者だけは何故か全てに打ち勝ったかのような喜びようだった。
彼はあまりにうるさかったので、エルに後頭部を殴られ、失神させられた。


「ユーマくん、今回はどうでした?やりきった感あります?」


    完全に液状化したスライムをゴミを見る目で見つめながら、エルは問う。


「正直言うと、あんまり。こちらの剣豪将軍の圧倒的な力と比べれば、俺なんてたいしたことはないよ」


「そこまで卑下すること無いですよー。ユーマくんがちゃんとタイミングを合わせた。火力も出せた。そうじゃなかったらまだ生きてますよ、この汚物」


「そうだぞ、ユーマ!君は素晴らしい戦士だ!きっといずれは、私よりももっと強く、大きな男に成るだろう!」


    明るく笑いながら、バシバシと優馬の肩を叩く。
少年ではなく、戦士として名を呼んでくれた、その事実に優馬は笑みを浮かべる。


「さて、行きますよ。階下に、ケガレモノの気配が集まっています。それを全滅させれば、恐らくここは解放されます」


    二人の猛者と、一人の少女は、他の生存者を残して進む。
生きる道を掴むために。


「汚物がどうなるべきか、腐った脳天に叩き込んでやる」


「うむ、その意気だぞユーマ!」


「あ、私は基本見学ですからね。手負いですし。お二人で頑張ってください」


「いや戦わんかい」


    階下に降りていく三人を、集ったケガレモノとその首魁が見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

処理中です...