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サヨナラ現世、オハヨウ異世界

起きるとそこにあったもの

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小鳥のさえずりが聞こえてくる。
朝からスズメは元気だな。
少し肌寒い朝、もう少し寝たい俺は布団をたぐり寄せる。


「……んぉあ?」


ない。
布団が。


「んぁぁんだよもぅ、布団はぁっ?!」


寝起きで早々、俺はひどくイラつきを感じる。
風邪を引いたらどうするんだ、皆勤賞狙いなのに。


「あぁ、ったく、布団どこだよ」


寝起きでボヤける視界の中で、どこかにあるであろう布団を探す。
そして、俺は違和感を感じた。


「……あれ?ここ、外か?」


不思議なこともあるものだ。
俺は昨夜、飯食って風呂に浸かって宿題サボって、布団に潜ったはずだ。
しかし俺は、屋外にいる。


「いやどこだよここ。森じゃねぇかよ」


ボヤけた視界と思考が少しずつハッキリしてくる。
どこかもわからない森の中で、俺は眠っていたらしい。
布団もなしに、裸足で、パジャマ一丁で。


「いやいやいやぁ……寝起きドッキリにしても度が過ぎてるでしょ……」


何年も前に偶然目にしたバラエティ番組が思い出されていく。
とあるお笑い芸人が眠っている間に野球のグラウンドのど真ん中に連れていかれ、むくりと起き上がった瞬間に、試合中に寝るな!ちゃんと守れ!……などと叱られる、そんな色々と問題だらけな内容だった。
ハタから見ていると面白かったが、当事者になると全く笑えない。


「もしもーし、おはよーございまーす。お元気ですかー?」


そうだ、これはきっと夢だ。
ドッキリにしたって、仕掛人くらいはいるはずだ。


「あれ?お耳が遠い?」


もう一度目を閉じよう。
そして、ゆっくりと目を開けたらそこには……ほら、見慣れた天井と爽やかな朝が――

ボカッ。


「いぃっってぇぇぇっ!!」


「あ、痛覚はあるみたいですね。おはよーございまーす!」


――訪れるかと思った瞬間にこれだ。
後頭部を激しく殴打され、コブの出来た頭を押さえて転げ回る。
なんなん、マジで?


「誰だお前!?いきなり殴ることないだろ!」


「だってぇ、挨拶したのに無視するから……」


殴ったであろう人物は、鈍器として十分な枝を持ち、楽しそうに笑っている。
中世ヨーロッパ風ファンタジーに出てきそうな、聖職者のような白を基調とした服装。
……あれ、実際は全然中世ヨーロッパじゃないらしいけど、面倒くさいから中世ヨーロッパでいいや、もう。
女の子……ではあるが、誰なんだこいつ。


「起きぬけで申し訳ありません。私はエル、あなたの案内人です」


そう答えると、髪から服から全体的に白っぽい女の子は、可愛らしい笑みを浮かべる。
うーん、百点。


「……とでも言うと思ったかぁ!?いきなり殴るようなワケわからん女は0点だ!0点!」


「安心してください!私だって、殴られるまでシカトするような男の人は0点です」


聞こえてはいた、いたんだ。
だがどうせ夢の中の声、今から起きるんだから無視しても構わんだろうと思った結果がこれだ。
今度からはちゃんと応対しよう、そうしよう。


「突然ですが、ユーマくん。あなたは男子の憧れ、異世界転生を成し遂げました!……まぁ正確に言うと転移なんですけど、そこはそれ!拍手~!」


それにしてもこの女、さっきからやり取りが一方的だ。
キャッチボールしろ、会話の。


「……なに?異世界?俺飛ばされたの?ただの高校生なのに?いきなり異世界に左遷?」


「あれ?憧れてないんですか?異世界をリストラ先みたいに言う人初めてです」


「全男子高校生が憧れているだなんて思うなよ?」


あんまり好みじゃないからよく知らないが、トラックに轢かれたり雷に打たれるとばかり思っていた。
俺は寝てただけ、死ななきゃダメって訳でもないのか。


「……で、異世界に飛ばされた俺になにしろって?チート能力くれるんだろ?で、ほいほいよってくる美少女集めてハーレムか?そんな生活より普通の生活の方が良いんだよ俺は」


なんとなーくのテンプレだけは知っているマンな俺。
そんな能力はマジで要らないので、さっさとおうちに帰りたい。


「チート?ハーレム?……あはは、そんなのあるわけないじゃないですか!そんな中二病罹患者みたいなこと言わないでくださいよ」


「中二病世界の住人みたいな格好のやつに言われたくない」


ボカッ。


「あだだだだっ!!?」


またしても殴打。
そしてエルと名乗った女は俺の胸ぐらを掴み上げた。


「あなたみたいな平々凡々で代わりのいくらでもいる高校生が、そうそう簡単にチーレム生活送れるわけないじゃないですか。異世界ナメてるんですかぁ?憧れるのは勝手ですが、あんまり都合よく考えないでくださいね。私はあなたのママやパパやグランマやグランパじゃないんです、甘えんなぁ?」


長文でボコボコに殴られ、俺は病んだ。
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