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高校1年生
第16話 学校の怪談
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愛が求人部に入部して1週間が過ぎだ。
相変わらずだが、その間の部活内容は今までとは変わらなかった。
ただ変わったと言えば……そうだな…めんどくさい奴が増えたくらいだな。
六花と美月に付き合わされるのにもめんどくさいと思っていたが、さらにもう1人増えると過労死するのではないかと思うぐらい疲れる。
そう言われてもこの日記を読んでいる人には分からないと思うから、この1週間にあった出来事をここに記そう。
これは愛が入部してから翌日の出来事である。
いつもの通り、放課後何も変わった様子のない部室に足を運ぶ。
今日から愛も正式に俺たちと活動を開始するわけだが、六花の流れにはついていってほしくない。
一応言っとくけど、求人部っていう部活は別に恋人を探すだけじゃないからね!友人を探したり、まぁ、人と交流を目的とした部活動だから!
……なのに、なぜだろう。俺たちがやってきたことはすべて恋人を前提とした活動しかしてきていない。
俺は別にやりたくはないんだよ?ほんとだよ?
でも、いつも六花のペースに流されていくんだよなぁ。
「あれ?誰もまだ来てないのか」
そうこうしているうちに部室に着いた俺はドアを開けるなり、誰もいないことを確認。
……おかしいな。六花は先に来ているかと思ったんだけどな。
俺が教室を出る際、六花の姿をもうすでになかった。ちなみに美月はまだ教室にいた…というか寝ていた。終礼のときから。
「とりあえず宿題でもするか…」
俺は椅子に座り、長机の上に数学のワークと筆記用具を取り出す。
それにしてもこの数学の宿題どうにかならないのかな?ほぼ毎日のように出るんだけど。
「いや、そんなこと思うだけ無駄か」
なくなるわけでもないしね。
ということで他の奴らが来るまで宿題をやることにした……のだが……
「おーい…」
――あれ?どこから声がするんだ?
「しょーちゃん起きてー…」
――何を言ってるんだ?俺はこうして起きてるではないか。
「もう!起きないならこうだ!」
――……
「イテテテテテテ!何すんだよ!」
俺は摘ままれた頬を手で押さえながら隣に座っている幼なじみに抗議した。
「だって、気持ちよさそうに寝てたから?あたしを1人にするのは許さなんだから」
そんなキョトンとした表情で言われてもなぁ…
「てか、何の権利でお前に起こされなきゃならないんだ!1人でもいいだろ!」
ホント…何様のつもりだ?
「それよりさ…」
「あ…流すのかよ」
昔からそうだったが、愛は都合が悪くなると話を変える。
そのクセはまだ健在だったのか。
「ゴホン…それよりさ、部長と美月君はどうしたの?」
1回俺に話を遮られたことで再び咳ばらいをして仕切りなおした愛。
「え?まだ来てないのか?」
そのことに首肯する愛。
どういうことなのだろうか?
壁に立てかけられている時計を見ると、午後5時半を回ろうとしていた。
俺がこの部室に来て、2時間は経っている。
普段の部活開始時間は4時だから、もうとっくの前に来ていなければおかしい。
「愛、何か聞いて……るわけでもないか」
俺に聞いてきたぐらいだから知っているわけがない。
もちろん俺も知らないから愛に聞こうとした。
とりあえず一旦教室を見に行ってくるか。
「今から教室に行くけど、愛も一緒に行くか?」
「うん、あたしも心配だから行く」
ということで、俺と愛は六花たちが普段いる教室へと向かった。
教室に着くと、そこには誰もいなかった。
「六花たちいないみたいだな…一応確認のために机を見に行くか」
もしかしたら帰ったということも考えられる。
俺と愛はカバンがあるかないかを確認するために六花の机に近づいた。
「カバンはあるみたいだな」
では、どこに行ったのだろうか?
とりあえず、そのことは後回しにして、美月の机も確認しに行こうとしたとき、シャツの袖を引っ張られた感触が伝わった。
その引っ張られたであろうところを見ると、愛がちょこんと摘まんでおり、その手は小刻みに震えていた。
「どうしたんだ?」
愛の顔を見ると青ざめており、何かに怯えている様子だ。
そして、愛は俺の問いに答えるかのようにシャツを摘まんでない方の手で六花の机の上を指さした。
「っ?!」
声が詰まるということはこういうことなんだろうか。
俺はあまりの驚きに声が出ず、頭の中が一瞬にして真っ白になった。
愛は一層恐怖が強くなったのか、俺の腕を力いっぱい胸に抱しめている。
――やばい。愛の豊満な胸の弾力が腕に直接伝わってくるよ!これがラッキースケベというやつか…
「って、こんなときに何を考えてるんだ俺は!」
「こ、これって……血だよね?」
「分からない。でも、これはやばいかもな…」
六花の机の上には血と思われる液体の手形がいくつかあった。
俺はこの状況を知っている。
それはどこの学校でも必ず1つはあるであろう学校の怪談。
この学校にもいくつか怪談が存在しており、その中の1つに今の状況と似た話がある。
それは、ある日の放課後であった。
1人の女子生徒が教室で宿題をしているときだった。
あまりにも大量な宿題だったため女子生徒は最大限の集中で取り組んでいると、背後から奇妙な声が聞こえた。
だが、女子生徒は大量の宿題に追われていたためそのことには全然気づかなかった。
次第に奇妙な声がどんどんと大きくなり、次の瞬間……女子生徒は忽然と教室から姿を消した。
そして、女子生徒が座っていた席に机には血と思われる液体の手形が複数。
それ以降、その女子生徒の行方は分からずじまいで、この出来事はいつの日か学校の怪談として伝わっていった。
俺が説明したこの怪談に似ていると思いませんか?
もし、この怪談が事実となれば、六花も同じように何者かに連れ去られたということになる。
「愛、大丈夫か?」
「うん、それより…美月君の机も確認しよ?」
そうだった。
すっかり忘れていた。
まぁ、美月は大丈夫だろう。ああ見えてトラブルには巻き込まれにくい体質だからな。
「美月君の机も同じだよ…」
「えええええええ?!」
愛の言葉が本当なのか確認の意味も込めて見に行くと、六花と同様に机には血らしき液体の手形が無数あった。
――まさか、美月までとは……
「でも、なんかおかしくないか?」
「え…なにが?」
愛には分からないようだが、俺にはこの状況にどこか違和感を覚えていた。
その違和感は…なんと説明すればいいだろうか…とにかく違和感がある!
そして、その違和感の正体はすぐに判明した。
「一応、美月の引き出しの中とか見てみるか。何か手掛かりになりそうなものがあるかもしれない」
俺は美月の机の引き出しを覗き込んだ。
「ん?なんか入ってるぞ」
そこには1枚のルーズリーフが折りたたんだ状態で置かれていた。
それを何となく手に取り、折りたたまれた紙を広げて見ると、
「……なんだこれ」
「どうしたの?」
愛も俺の反応を見て、気になったのか覗き込んできた。
「……なんだこれ」
愛も同じ反応。
それもそのはず、この紙に書かれていたのは次のようだ。
”学校の怪談でドキドキ?恐怖体験♡
1.六花と美月がいろいろ試行錯誤して神隠しにあったとみせる!
2.部活に来ないことを心配したしょーくんたちが探しに来る!
3.その間にいろいろな心霊現象!しょーくんと愛ちゃんの仲はラブラブ♡”
「「……」」
俺と愛は声すら出なかった。ただひたすら真顔。
無事でよかったという安堵感もあれば、くだらないことで心配させやがってという怒りの感情が複雑に絡み合っている。
「…どうする?帰るか?」
どのくらい沈黙していたのか分からないが、とりあえずこのままずっとは身がもたない。
「うん…そうだね…でも、見つけよ?そして、半殺しにしよ?」
声色は普段通りだが、表情がヤバいですよ、あーちゃん!
目は死んだように光を失っており、闇であふれている。表情は時折、笑顔を俺に見せてくれるが、目が笑ってないせいかその笑顔ですら殺意を感じる。
――本当に殺しかねないな……逃げてぇー!六花と美月!
「何をぼーっとしてるの?早く探しに行くよ」
「あ、あぁ…」
気が付けば、先ほどまで俺の横にいたはずの愛が廊下側にいた。
俺も愛の後をついていく感じで2人を探しに向かった。
「で、どこを探すんだ?」
「そうだね…まずは保健室から行きましょ」
ということで、六花たち2人の捜索が開始されたわけだが、先ほど教室を出る際に壁に掛けられている時計を見たら、もう午後6時半を過ぎていた。
他の部活はそろそろ今日の活動が終わりを迎えるころだろう。俺たちも午後7時前には学校を出ないと、見回りの先生に怒られちゃう。
「別に怒られてもいいから探し出して殺すわよ!」
「な、なんで俺の心が読めた?!てか、さっきより過激になってない?」
先ほどまでは「半殺しにしてやる」とか言ってたのに、たった10分で「殺してやる」である。
時間が経てば経つほど怒りが強くなってきているようだ。
――俺はこういうことには慣れたから別に……いや、怒ってないわけではないからね?
「いないわね…次行くよ」
「ちょ、ちょっと…」
いつの間にか保健室に着き、1分もかからないうちに中に人がいないか確認を終わらせた。
そして、急ぎ足で愛は学校中の教室などを見て回り、スマホで時間を確認をすると、もう午後7時半を過ぎていた。
「いないわね…ホントどこに隠れてるのよ!」
地団太を踏む愛。
…もうそろそろ帰りませんかね?
「一旦、部室に戻らないか?見回りの先生に見つかるとヤバいし」
「……それもそうね」
一瞬考えたものの俺の提案に首肯してくれた。
…はぁ…もう、帰りたい…
部室に戻ると探しに行ったときと変わらない状態だった。
もしかしたら六花たちはここにきているのではないかと考えたが、そうではなか……
「ガオオオオオオオオオオ!」
訂正。そうであったらしい…というか、そうでした。
部室のドアを開けるなり、いきなりコスプレをした美少女2人が襲い掛かってきた。
1人は声もそうだし、容姿から見ても六花で間違えない。
では、もう1人は……誰?
「…ほら、美月も脅かさないと」
「そ、そうだね…よし…わあああああああ!」
「「……」」
あのー、2人ともひそひそ話していましたが、おもいっきり俺たちに聞こえていましたよ?
それは愛も同じだったらしく、暗くてみんなの表情は分からないが、たぶん呆れている。
一方で、六花と美月は俺と愛の無言を恐怖からなるものと誤解し、2人して喜んでいた。
「ゴツン!…」
「いったあああああああああああああ!」
今何か鈍い音がしなかった?それと同時に六花が悲鳴を上げたけど…。
と、一瞬思っていたが、俺の拳が六花の頭に置かれているのを確認して拳骨をぶち込んだことを理解した。
――女子に暴力をふるうのはどうかと俺は思うよ?でも、今のは仕方がないよね?だって無意識だったんだもん。
「な、ななな何をするの?!」
六花の声は多少震えていた。泣いてるのかな?
「すまんすまん。手が滑った」
「ああ、そっかぁー…じゃないよ!」
今納得しかけたよね?それともそういうネタですか?
「とりあえず部長、お話があるのですがよろしいでしょうか?」
暗くて表情は見えないけど、怒りのオーラがビュンビュン出てますよあーちゃん!
「ん?お礼は別にいいぞ!」
そのことに気づかない六花。このあとが想像するだけで震えが止まらなくなるよ!
「てか、サラッと流してたけどお前の格好なんなんだ?」
美月の格好はなんといえばいいのだろうか……とにかく女装!
でも、容姿が女子っぽいから案外似合ってるんだよなぁ。
この格好でハロウィンのときに東京の渋谷とか行けば、ナンパ間違いなしだな。
「これ、六花ちゃんがくれたんだ!可愛いでしょ?」
何を女子っぽいことを言ってるんだこいつは?
しかも、胸のところ少し膨らんでるけど、そこまで女子を再現してるのか?
「ん?なんかリアルだな……」
人間というのは気になり始めたら、それがなんなのか追求したくなるものだ。なので、美月の胸に触れてみた。
感触は小さいながらも、ふわふわマシュマロみたいで柔らかい。本物かと思うレベルだ。
「ん……あ……」
「何変な声出してんだよ」
なぜか触れば触るほど美月が変な声を出す。
「も、もう僕行かなきゃ!」
「お、おい……」
美月は勢いよく部室を出ると、教室がある方角へと走り去って行った。
一瞬、月明かりで顔が見えたけど、顔が真っ赤のようだった。
「具合でも悪いのか?……」
こうして学校の怪談は終わったのだが、愛の怒りはまだ収まりそうにないようで、
「しょーくん、助けてぇえええ!」
誰かが助けを求める声が聴こえたが……気のせいだろう。
相変わらずだが、その間の部活内容は今までとは変わらなかった。
ただ変わったと言えば……そうだな…めんどくさい奴が増えたくらいだな。
六花と美月に付き合わされるのにもめんどくさいと思っていたが、さらにもう1人増えると過労死するのではないかと思うぐらい疲れる。
そう言われてもこの日記を読んでいる人には分からないと思うから、この1週間にあった出来事をここに記そう。
これは愛が入部してから翌日の出来事である。
いつもの通り、放課後何も変わった様子のない部室に足を運ぶ。
今日から愛も正式に俺たちと活動を開始するわけだが、六花の流れにはついていってほしくない。
一応言っとくけど、求人部っていう部活は別に恋人を探すだけじゃないからね!友人を探したり、まぁ、人と交流を目的とした部活動だから!
……なのに、なぜだろう。俺たちがやってきたことはすべて恋人を前提とした活動しかしてきていない。
俺は別にやりたくはないんだよ?ほんとだよ?
でも、いつも六花のペースに流されていくんだよなぁ。
「あれ?誰もまだ来てないのか」
そうこうしているうちに部室に着いた俺はドアを開けるなり、誰もいないことを確認。
……おかしいな。六花は先に来ているかと思ったんだけどな。
俺が教室を出る際、六花の姿をもうすでになかった。ちなみに美月はまだ教室にいた…というか寝ていた。終礼のときから。
「とりあえず宿題でもするか…」
俺は椅子に座り、長机の上に数学のワークと筆記用具を取り出す。
それにしてもこの数学の宿題どうにかならないのかな?ほぼ毎日のように出るんだけど。
「いや、そんなこと思うだけ無駄か」
なくなるわけでもないしね。
ということで他の奴らが来るまで宿題をやることにした……のだが……
「おーい…」
――あれ?どこから声がするんだ?
「しょーちゃん起きてー…」
――何を言ってるんだ?俺はこうして起きてるではないか。
「もう!起きないならこうだ!」
――……
「イテテテテテテ!何すんだよ!」
俺は摘ままれた頬を手で押さえながら隣に座っている幼なじみに抗議した。
「だって、気持ちよさそうに寝てたから?あたしを1人にするのは許さなんだから」
そんなキョトンとした表情で言われてもなぁ…
「てか、何の権利でお前に起こされなきゃならないんだ!1人でもいいだろ!」
ホント…何様のつもりだ?
「それよりさ…」
「あ…流すのかよ」
昔からそうだったが、愛は都合が悪くなると話を変える。
そのクセはまだ健在だったのか。
「ゴホン…それよりさ、部長と美月君はどうしたの?」
1回俺に話を遮られたことで再び咳ばらいをして仕切りなおした愛。
「え?まだ来てないのか?」
そのことに首肯する愛。
どういうことなのだろうか?
壁に立てかけられている時計を見ると、午後5時半を回ろうとしていた。
俺がこの部室に来て、2時間は経っている。
普段の部活開始時間は4時だから、もうとっくの前に来ていなければおかしい。
「愛、何か聞いて……るわけでもないか」
俺に聞いてきたぐらいだから知っているわけがない。
もちろん俺も知らないから愛に聞こうとした。
とりあえず一旦教室を見に行ってくるか。
「今から教室に行くけど、愛も一緒に行くか?」
「うん、あたしも心配だから行く」
ということで、俺と愛は六花たちが普段いる教室へと向かった。
教室に着くと、そこには誰もいなかった。
「六花たちいないみたいだな…一応確認のために机を見に行くか」
もしかしたら帰ったということも考えられる。
俺と愛はカバンがあるかないかを確認するために六花の机に近づいた。
「カバンはあるみたいだな」
では、どこに行ったのだろうか?
とりあえず、そのことは後回しにして、美月の机も確認しに行こうとしたとき、シャツの袖を引っ張られた感触が伝わった。
その引っ張られたであろうところを見ると、愛がちょこんと摘まんでおり、その手は小刻みに震えていた。
「どうしたんだ?」
愛の顔を見ると青ざめており、何かに怯えている様子だ。
そして、愛は俺の問いに答えるかのようにシャツを摘まんでない方の手で六花の机の上を指さした。
「っ?!」
声が詰まるということはこういうことなんだろうか。
俺はあまりの驚きに声が出ず、頭の中が一瞬にして真っ白になった。
愛は一層恐怖が強くなったのか、俺の腕を力いっぱい胸に抱しめている。
――やばい。愛の豊満な胸の弾力が腕に直接伝わってくるよ!これがラッキースケベというやつか…
「って、こんなときに何を考えてるんだ俺は!」
「こ、これって……血だよね?」
「分からない。でも、これはやばいかもな…」
六花の机の上には血と思われる液体の手形がいくつかあった。
俺はこの状況を知っている。
それはどこの学校でも必ず1つはあるであろう学校の怪談。
この学校にもいくつか怪談が存在しており、その中の1つに今の状況と似た話がある。
それは、ある日の放課後であった。
1人の女子生徒が教室で宿題をしているときだった。
あまりにも大量な宿題だったため女子生徒は最大限の集中で取り組んでいると、背後から奇妙な声が聞こえた。
だが、女子生徒は大量の宿題に追われていたためそのことには全然気づかなかった。
次第に奇妙な声がどんどんと大きくなり、次の瞬間……女子生徒は忽然と教室から姿を消した。
そして、女子生徒が座っていた席に机には血と思われる液体の手形が複数。
それ以降、その女子生徒の行方は分からずじまいで、この出来事はいつの日か学校の怪談として伝わっていった。
俺が説明したこの怪談に似ていると思いませんか?
もし、この怪談が事実となれば、六花も同じように何者かに連れ去られたということになる。
「愛、大丈夫か?」
「うん、それより…美月君の机も確認しよ?」
そうだった。
すっかり忘れていた。
まぁ、美月は大丈夫だろう。ああ見えてトラブルには巻き込まれにくい体質だからな。
「美月君の机も同じだよ…」
「えええええええ?!」
愛の言葉が本当なのか確認の意味も込めて見に行くと、六花と同様に机には血らしき液体の手形が無数あった。
――まさか、美月までとは……
「でも、なんかおかしくないか?」
「え…なにが?」
愛には分からないようだが、俺にはこの状況にどこか違和感を覚えていた。
その違和感は…なんと説明すればいいだろうか…とにかく違和感がある!
そして、その違和感の正体はすぐに判明した。
「一応、美月の引き出しの中とか見てみるか。何か手掛かりになりそうなものがあるかもしれない」
俺は美月の机の引き出しを覗き込んだ。
「ん?なんか入ってるぞ」
そこには1枚のルーズリーフが折りたたんだ状態で置かれていた。
それを何となく手に取り、折りたたまれた紙を広げて見ると、
「……なんだこれ」
「どうしたの?」
愛も俺の反応を見て、気になったのか覗き込んできた。
「……なんだこれ」
愛も同じ反応。
それもそのはず、この紙に書かれていたのは次のようだ。
”学校の怪談でドキドキ?恐怖体験♡
1.六花と美月がいろいろ試行錯誤して神隠しにあったとみせる!
2.部活に来ないことを心配したしょーくんたちが探しに来る!
3.その間にいろいろな心霊現象!しょーくんと愛ちゃんの仲はラブラブ♡”
「「……」」
俺と愛は声すら出なかった。ただひたすら真顔。
無事でよかったという安堵感もあれば、くだらないことで心配させやがってという怒りの感情が複雑に絡み合っている。
「…どうする?帰るか?」
どのくらい沈黙していたのか分からないが、とりあえずこのままずっとは身がもたない。
「うん…そうだね…でも、見つけよ?そして、半殺しにしよ?」
声色は普段通りだが、表情がヤバいですよ、あーちゃん!
目は死んだように光を失っており、闇であふれている。表情は時折、笑顔を俺に見せてくれるが、目が笑ってないせいかその笑顔ですら殺意を感じる。
――本当に殺しかねないな……逃げてぇー!六花と美月!
「何をぼーっとしてるの?早く探しに行くよ」
「あ、あぁ…」
気が付けば、先ほどまで俺の横にいたはずの愛が廊下側にいた。
俺も愛の後をついていく感じで2人を探しに向かった。
「で、どこを探すんだ?」
「そうだね…まずは保健室から行きましょ」
ということで、六花たち2人の捜索が開始されたわけだが、先ほど教室を出る際に壁に掛けられている時計を見たら、もう午後6時半を過ぎていた。
他の部活はそろそろ今日の活動が終わりを迎えるころだろう。俺たちも午後7時前には学校を出ないと、見回りの先生に怒られちゃう。
「別に怒られてもいいから探し出して殺すわよ!」
「な、なんで俺の心が読めた?!てか、さっきより過激になってない?」
先ほどまでは「半殺しにしてやる」とか言ってたのに、たった10分で「殺してやる」である。
時間が経てば経つほど怒りが強くなってきているようだ。
――俺はこういうことには慣れたから別に……いや、怒ってないわけではないからね?
「いないわね…次行くよ」
「ちょ、ちょっと…」
いつの間にか保健室に着き、1分もかからないうちに中に人がいないか確認を終わらせた。
そして、急ぎ足で愛は学校中の教室などを見て回り、スマホで時間を確認をすると、もう午後7時半を過ぎていた。
「いないわね…ホントどこに隠れてるのよ!」
地団太を踏む愛。
…もうそろそろ帰りませんかね?
「一旦、部室に戻らないか?見回りの先生に見つかるとヤバいし」
「……それもそうね」
一瞬考えたものの俺の提案に首肯してくれた。
…はぁ…もう、帰りたい…
部室に戻ると探しに行ったときと変わらない状態だった。
もしかしたら六花たちはここにきているのではないかと考えたが、そうではなか……
「ガオオオオオオオオオオ!」
訂正。そうであったらしい…というか、そうでした。
部室のドアを開けるなり、いきなりコスプレをした美少女2人が襲い掛かってきた。
1人は声もそうだし、容姿から見ても六花で間違えない。
では、もう1人は……誰?
「…ほら、美月も脅かさないと」
「そ、そうだね…よし…わあああああああ!」
「「……」」
あのー、2人ともひそひそ話していましたが、おもいっきり俺たちに聞こえていましたよ?
それは愛も同じだったらしく、暗くてみんなの表情は分からないが、たぶん呆れている。
一方で、六花と美月は俺と愛の無言を恐怖からなるものと誤解し、2人して喜んでいた。
「ゴツン!…」
「いったあああああああああああああ!」
今何か鈍い音がしなかった?それと同時に六花が悲鳴を上げたけど…。
と、一瞬思っていたが、俺の拳が六花の頭に置かれているのを確認して拳骨をぶち込んだことを理解した。
――女子に暴力をふるうのはどうかと俺は思うよ?でも、今のは仕方がないよね?だって無意識だったんだもん。
「な、ななな何をするの?!」
六花の声は多少震えていた。泣いてるのかな?
「すまんすまん。手が滑った」
「ああ、そっかぁー…じゃないよ!」
今納得しかけたよね?それともそういうネタですか?
「とりあえず部長、お話があるのですがよろしいでしょうか?」
暗くて表情は見えないけど、怒りのオーラがビュンビュン出てますよあーちゃん!
「ん?お礼は別にいいぞ!」
そのことに気づかない六花。このあとが想像するだけで震えが止まらなくなるよ!
「てか、サラッと流してたけどお前の格好なんなんだ?」
美月の格好はなんといえばいいのだろうか……とにかく女装!
でも、容姿が女子っぽいから案外似合ってるんだよなぁ。
この格好でハロウィンのときに東京の渋谷とか行けば、ナンパ間違いなしだな。
「これ、六花ちゃんがくれたんだ!可愛いでしょ?」
何を女子っぽいことを言ってるんだこいつは?
しかも、胸のところ少し膨らんでるけど、そこまで女子を再現してるのか?
「ん?なんかリアルだな……」
人間というのは気になり始めたら、それがなんなのか追求したくなるものだ。なので、美月の胸に触れてみた。
感触は小さいながらも、ふわふわマシュマロみたいで柔らかい。本物かと思うレベルだ。
「ん……あ……」
「何変な声出してんだよ」
なぜか触れば触るほど美月が変な声を出す。
「も、もう僕行かなきゃ!」
「お、おい……」
美月は勢いよく部室を出ると、教室がある方角へと走り去って行った。
一瞬、月明かりで顔が見えたけど、顔が真っ赤のようだった。
「具合でも悪いのか?……」
こうして学校の怪談は終わったのだが、愛の怒りはまだ収まりそうにないようで、
「しょーくん、助けてぇえええ!」
誰かが助けを求める声が聴こえたが……気のせいだろう。
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