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案外、国外に出れば分からない

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家から出るとして、最も問題になるのが実家からの追っ手だ。
捕まって、脱走を警戒して閉じ込められてしまえば大した力のない私に逃げ出すすべはない。

何気なく外を眺め、ため息を着く。何を思ったのかヒソヒソ話をする人たち。遠い場所でどうにか一人になろうと思ってもこの都市国家の外には広い広い魔物の森に囲まれていてもう何年、何十年も他国と国交を持つことがなかった。

でも、私は知っている、森を出てひと月歩き続ければ他の人間ばかりの国に辿り着けることを。実際ゲームでは王都の陥落後聖女と王子が森をぬけてそこにたどり着いている。

問題は自分がそこにたどり着けるかだ。

ゲームではレベル30の4人パーティーで突破していたけれど、身代わりのタリスマンなど相当装備を充実させていた記憶がある。私は身一つでそこを突破しなくてはならない。

でも、私には腹案があった。ゲームでジュリエッタのみが持っていたスキル、魅了はモンスターにも有効だった。問題はこのスキルが人間にも効くためにバレれば良くて幽閉、悪くて処刑。現状は処刑一択だろう。鑑定士も警戒しなくてはならない。レベル61以上の人はなかなかいないけど。

魅了は未知数のまま行くしかない。やるしかないったらやるしかない。ここはぶっつけ本番をする他ないだろう。


王都には中心から王城、貴族街、商業区、農地というふうになっており1番外側に円環の長城がある。

スラムにゆくようなものは老若男女とわず前線に送られるためスラムらしいスラムはないと言われている。

18万の民衆の犠牲によって6000の貴族たちは贅沢に勤しみ、ハゲタカたちがその額を漁る。

さて、どのようにして王都を出ようか?
あまりに遠すぎて城壁の外に出る前に捕まってしまいそうだ。

食料と道具類、いわゆるサバイバルキットのたぐいを確保したい。

そういえば父は若い頃冒険者をしていたらしい。

功績を求めて戦場に出る。よくある話だ。

交渉は面倒な監視役の山と共に成功したとだけ述べておこう。














走る、走る、走る、走る。私は初めての上級モンスターと接敵した直後全力で森の奥へと駆け抜けた。後ろに聞こえる剣戟が十分に小さくなったあと、小瓶に懐に隠していた手紙を入れて目立つよう気にぶら下げる。これで自発的な失踪だと分かるはずだ。

これで、最後か。一度くらいゴージャスな晩餐を思う存分食べたかった。

迷いを振り切るようにさらに奥へと足を向けた。












ここまで来れば追手はきっと来ない。

日がだいぶ傾いた頃。幸運にも持ち出せたテントを取り出した。これは魔法で大きさを変えることが出来る。
残念ながら火種は持ち出せなかったため自力でどうにかする他ない。







私は荷物にもたれて仮眠をとることにした。

ガサガサ、騒がしさにそっと外を伺う、そこには狼がいた。
魅了を試す絶好の機会だ!

「この目は魔女の目。魔性の目。」

小さく、ゲーム通りの魅了を唱える。狼の目がこちらを向いて、そして、光を失った。

そっとテントを出る。大人しい。こうなれば死ぬまで逃がさない。ゲームでは。

荷物を片付けてその背に跨りさらに向こうを目指して走り出した。


しばらく様子を見て安全だと確信してからゆらゆらと眠りについた。










水場だ!
オオカミたちが飲んでいる。よく観察すると小さな生き物も含まれている事が分かった。
そっと浄水器を出す。少し穴を掘ろうとしたら狼たちが代わりにほってくれた。よく見ると彼らは天狼だった。明るい場所ならその毛皮が金色に輝く様がよく分かる。

掘った穴に浄水器を通した水を貯めていく、入れた水を周囲の魔素で浄化する魔道具だ、手持ちの水生成機の生成量に不安があるので大丈夫そうでほっとした。溜まったぶんは天狼達に与えて、蛇口から直接水筒にいくらかの水を貯めた。


りんごのような身が着いており狼たちがタックルして落とした実を食べている。私も食べる?食べよう。

特にお腹を壊すことも無くほっと一息。







なんだかんだ私が村にたどり着くのに二月かかった。
幸いにも魅了が解けることは避けることが出来た。
魅了のスキルレベルは12上がったがレベルは上がらなかった。
戦わなかったのだから当然といえば当然。


君、テイマーか?

そう聞かれたとき、上手く答えることが出来なかった。

なんだか強そうな槍使い。と魔術師の女。




上手く答えるどころかふた月も人と話すことのなかった私は首を傾げるのが精一杯だった。

こうして私は悪夢のような親から逃げることに成功した。



権勢を誇る実家から地の果てまで逃げて、とある少女は、、、





この先はまた、別のお話。
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