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『ヒール192』

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『ヒール192』


 俺はムジカを少し信じたが、間違いだった。

 サリオスと同じ人間だ。

 サリオスが言うにはムジカが沈めたらしいから、おぞましい人間だ。

 それによって信じられない力を手にしたムジカやサリオスは、そこからSランクパーティーにまで上りつめたとなるな。

「トレイルは精霊の加護を知らなかったのよね、精霊の泉の件から、Sランクパーティーになるわけだ。てことはサリオスもムジカもジェンティルも実はSランクの力はないとなるし、もっと言うと、Aランクにも満たない素質かも。Bランクが限界な冒険者だったのかもよ」

「俺も考えていた。サリオスは偽りの勇者だってことを。俺はサリオスを過大評価していたのかも」

 言いたくはないが言わざるを得なかった。

 それくらいサリオスの強さを認めるしかなかったから。

 俺が自分の考えを言うとサリオスは、

「おいトレイル。よく言ったな。オレを過大評価していただと。ふざけるなよ、確かに加護はあった。それは勇者への背中を押してもらうくらいの力だ。オレを低く見るのは許せない」

「精霊神の話とは違うな。サリオスは自分を天才だと言った。自分が勇者の素質もあると。しかし本当は素質もないし、天才でもなく凡人なのではと思えるな」

「てめえ、てめえ、てめえ、雑用係が調子にのるな、単なる雑用係なんだよ、てめえは、勘違いふるな、世界に必要なのはオレ様なんだよ!!!!」

 サリオスは怒りで俺を敵視していた。

 以前ならサリオスに敵視されたら、世界の終わりだと思ったな。

 しかし加護がないのもあり、怖さは弱い。

 以前のような迫力は薄らいでいる。

 サリオスの持った、あの圧倒的な気迫が弱いのだ。

 俺への圧力が弱いのを知ったのかシシリエンヌが、

「トレイルが正しい、サリオスは勇者の素質ないと以前から思っていたもん。トレイルに話を聞いていた。トレイルを殺そうともした。元々勇者の素質すらなかったんだぴょん」

「黙れ、兎!」

「兎よ、その耳を切ってやろうか!」

 ムジカがシシリエンヌに言われてムキになったのは、言われたのが図星だったからだ。

 俺の憧れだったサリオス達は実はBランク程度の冒険者だったとなる。

 それはかなりショック。

 カリスマの冒険者の力は偽りだったとなるからな。

 それも他の冒険者を殺して得た加護によるもの。

 俺も加護は受けているが、別にそれによって勇者になりたいとかない。

 サリオスと違うのは断言できる。

「勇者サリオス、ムジカ、ジェンティルは今はSランクではないのは精霊神の話したことからわかる。もう偉そうにするのも最後だ」

「ドワーフ、調子に乗るな。大魔導士の私に侮辱は許さない」

「もう大魔導士じゃない、あなたは。中級魔導士です」

 ローズはジェンティルに中級と言った。

 いつもなら俺は恐怖に包まれているところだが、今はそれほど怖くないのは不思議だ。

 やはり加護がなくなったのを知ったからだろう。

 ローズも以前より怖がっていないからな。

「よくも、私を、怒らせたな猫人」

「怒らせたけど、怖くないもん」

「ならば、この場で凍らせてやろうか!」

 ジェンティルがローズに魔法しそうだ。

 待て待て、なぜ森の王とここで戦うのか、全く戦う必要ないだろうに。

「ドワーフよ、先程はよくも剣士をバカにしてくれたな。懲らしめてやろう!」

「剣士にこだわるなあ~、もう剣も持てないくせに、ドワーフをバカにするなっ!」

 ミヤマはムジカとぶつかりあいになりそう。

 竜神様との戦いから、急に俺たちの方に剣を向けてきた。

 サリオス達は加護がなくなったのをバカにされたのが許せなかったと思われる。

 ステータスは元に戻っても、プライドはSランクのままだ。

 だから侮辱されると以前のようにキレてしまう。

「ねえ、トレイル、戦いになるぞ、いいのか?」

「俺も戦いは避けたい、だがムジカとジェンティルは、ヤル気だ!」

「バカ、早く止めろ、バカ!」

「そんなこと言っても難しいぞ!」

「あははははははははは、これは面白い面白い、元Sランク森の王と成り上がりのCランク竜の守りが戦いそうだ。城を壊すよりも、このたたかいを見ていたいし、面白いな」

「竜神様、私も見学しましょう。ゲオルギウスの加護を持つトレイルの戦いは見てみたいですから」

「そうか、精霊神も見学するか。一緒に見学しよう」

 なんと竜神様と精霊神は、仲良くしていて、俺の戦いを見学すると。

 それよりも助けて欲しい。

 神様なのだから、戦いを止めるの普通ではないか。

 神様として、戦いを楽しむてどうなのよ?

「氷の月を受けて寒くしてあげますローズ、シシリエンヌ」

「来るわよシシリエンヌ!」

「はい、わかったぴょん!」

 氷の月かよ!

 マズイな、今のジェンティルか氷の月が使えたなら、ローズとシシリエンヌは大きな犠牲を払う。

 ローズは爪と短剣を用意。

 シシリエンヌも剣を。

 ジェンティルの魔法とやり合う。

 氷の月が先に来るだろう。

 ジェンティルの詠唱速度は、恐ろしく早いからだ。

 世界でもジェンティルより魔法詠唱の早い人はいるかどうかだ。

「氷の勢いが弱いですトレイル、これなら戦えます!」

「大丈夫かローズ?」

 ローズとシシリエンヌに俺も加勢しようとしたら、

「おおおっとトレイル、お前の相手はオレ様だ。オレが相手してやる」

「サリオス!」

 ジェンティルとの戦いに行かせないと、サリオスが邪魔してきた。

 竜神様が暴れるのを防ぐために来たのに、展開が変わってしまった。

 竜神様から森の王に変わった瞬間だった。

 もう引き下がれない感じだ。

 俺たちの中にも、特に俺は森の王に反発があった。

 みんなも反発していて、今の話でみんなの気持ちが爆発したみたいだ。

 戦いを避ける気はなく、いつでも相手してやるくらいの気持ちがある。

 サリオスが俺を標的にしたなら、ジェンティルはローズとシシリエンヌに任せたい。

 サリオスとジェンティルの両方はむりだからな。

 ここはローズとシシリエンヌを信じる。
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