上 下
81 / 232

『ヒール69』

しおりを挟む
『ヒール69』



 ミヤマの言い方に不満があったのかジェンティルはガッチリとミヤマをにらみつけた。

「私もサリオスに話があります」
「なんだい猫人」
「あなたは騎士団幹部と領主を使い、金を支払い、竜の守りを潰そうとしてましたね」
「なんのことかな。全く身に覚えがないな」

 明らかにとぼけた言い方だ。

「幹部のフォルコメンから直接に聞きました。サリオスから金を貰い受けたと。そして逆らえなかったから従ったと」
「知らない。おいおいやめてくれよ猫人。俺達は森の王なんだぜ。世界でも有数のパーティーなんだ。変な言いがかりはよしてくれ」
「そうよ、猫人。それに誰が信じるかしら。猫人の言う事と森の王の言う事と比べたら。たいていの人は森の王を信じるのよ。誰も猫人の言う事なんか信じないって覚えておきなさい。トレイルが森の王に戻りたいのかなと思ってきたの。昔みたいにまた一緒にどうかなて」
「断る」

 俺は即答した。
 何の迷いもない。

「あら、せっかくのチャンスなのに」

 確かに森の王の言う事を信じる人が多数だろうな。

「勇者らしくないぴょん」
「なんだこの兎人は。また増えたのか。トレイルは獣人がお好きか、あはははははははは!」

 ムジカが笑いを込めて言った。
 シシリエンヌを見るのは初めてだからだが、この笑いには俺はムカつく。

「笑うなムジカ。あんたの笑いは聞きたくない」
「うるせえ、最弱回復術士が」
「違うわよ、最弱なんかじゃないわよトレイルは。とても強いのよ。殺し屋シャークウォーニンもトレイルが倒したんだから。体ばかり大きい誰かとは違うのバカ!」
「バカとは何だ、このエルフ。黙ってれば!」
「やめてムジカ。ここは料理店。お静かに」
「ああ、わかった」

 ジェンティルに言われて静かに下がる。
 ムジカを下がらせる女はジェンティルしか存在しない。

「あの殺し屋をトレイルが倒したと俺も聞いていた。シャークウォーニンは最低でもCランクはあるからな。Bでもいいがギルドが認めていない。FやEランクのトレイルには無理だ。どうやって倒した。理由を教えろ」

 シャークウォーニンを倒したのを既に知っていたようだ。
 その理由を知りたくて来たか?
 話すのは簡単だが、全てを話すのは嫌だな。
 別に教える必要もないし、教えたくもないが、サリオスの圧が半端ない。

「教える必要あるか?」
「森の王にいた時は、Fランク程度の冒険者だったのは確かだ。あれから月日はわずかしか経っていない。超短期間で成長したと考えられる。その秘密を知りたい。言え」
「言いたくない。俺は話もしたくないのであるし、森の王には戻らないからな。それだけは言っておく。聞くところによると、他にも冒険者を募集したらしいな。それでどうしたよ?」
「全員クビにした。超使えねえからな」
「一日でクビ。だって私のサポートするどころか、邪魔ばかりするもん。使えねえから、魔法で殺そうかと思ったけど、サリオスに止められたわ」

 軽く話すジェンティルだが、俺もそうして殺しかけただろうが。
 よくもぬけぬけと言えるものだ。
 どんな性格してるんだ。

「今でも募集してる。アタッカーは必要ないのは3人居たら十分だ。俺とサリオスとジェンティルでいい。後は荷物持ちや、食事や、宿屋や、魔石の回収、解体やら雑用を担当してくれたらいい。しかし採用した奴らの出来の悪いこと。トレイルが懐かしくなったぜ。トレイルなら俺が苛立つことはなかったからな。今思えばパーティーで続けさせたらと思っているぜ」

 こいつも口の減らない奴だ。
 ムジカは平然と俺に誘いの言葉を言う。

「まぁそうだろうな。クビになるだろうし、自分からパーティーを辞めたいと思うだろう。これがあの森の王なのかと幻滅するさ」
「トレイルが今は戻りたくないのはわかった。そこはわかった。しかし殺し屋シャークウォーニンを倒したのは納得いかない。倒せるわけない相手だ。偶然にも倒せる相手じゃない。つまりは俺に隠している秘密があるてことだ」

 サリオスの言い方では、魔王竜の加護が俺にはあるのを知らないようだ。
 まぁ気づくはずもないか。
 あの時、殺されかかった時に魔王竜が俺に加護をくれた。
 わかるはずもない。
 俺がどんな気持ちであの時居たかを。
 一緒のパーティーメンバーだとばかり思っていたら、必要ないからと殺されかけた瞬間を、お前たちは理解できないだろう。
 俺がどれだけ絶望したか。

「トレイルは強くなったのよ。今にサリオスやジェンティルよりも強くなるわよ、このバカ男」
「トレイル、お前らのところのエルフは口が悪いみたいだぜ」
「そうらしいな。でも嘘じゃない。竜の守りは今日でDランクに上がったんだ」
「ほお~Dにか。ずいぶんと短期間で上がったな。ますます秘密があるな。いずれにせよ竜の守りは森の王には遠く及ばない。そのへんのところは理解しておくことだな。じゃあなトレイル」
「じゃあね私のトレイル!」

 ウインクしてくるジェンティル。
 色気があるから余計に怖かった。

「次に会うのが楽しみだ。ランクが上がっているかな」

 ムジカは俺に向けて言った。
 それは期待があって言ったのか。
 それとも上がるはずもないと意味で言ったのか、どちらにも聞こえた。
 椅子から立ち上がり、店を出ていったサリオス。
 歩くたびにお客は反応する。
 サリオスとジェンティルに握手を求める。
 サリオスはお客の握手にも面倒くさがらずに握手した。
 ジェンティルは男客から熱い。
 握手してくれと求めれる。
 断ることなくジェンティルも握手していた。
 やはり人気はあった。
 竜の守りの人気とは違う。

「凄い人気ぶりぴょん」
「森の王とわかれば、みんな握手したいらしいな」
「国の英雄ですもん。中身はみんな知らんけど」
「バカっじゃないの。あんな女に握手したくなるって。私の方が人気あるわよ」
「ジェンティルよりもパピアナが人気あるかな。どう考えても負けるわよ」
「うるさい猫。魔法だって負けない」
「大魔道士に魔法で勝ち負けするとはパピアナは大胆だな」

 俺はパピアナの怖い物知らずには呆れるのを通り過ぎて尊敬すら感じた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...