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さようなら

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ソリッド様の部屋の前に案内してくれた侍女が、浮かない表情をしている。

「……部屋には、リーファン様も一緒におられます」

……やっぱりそうか。

私はゆっくりと、ドアをノックした。
返事はない。

今度は少し、力を込めてみる。
やはり、反応はなかった。

「……入りますよ」

私はドアを開けた……。

「……」

ベッドの上で、二人がまぐわっている。
リーファンの方は、私に気が付いたが……。
ソリッド様は、必死でリーファンの胸に顔を埋めており、全くこちらに気が付かない。

そんなソリッド様の頭を撫でながら、リーファンは私を睨みつけた。

「悪趣味ね。人が愛し合ってる姿を、見に来るだなんて」
「……人っていうか、もう動物だよね~」

アルベールが、呆れるように言った。

「何とでも言いなさい。愛の形は人それぞれよ」

私は二人に近づいて行った。
何とも言えない、人臭い香りがする。

すぐ隣まで来て、ようやくソリッド様は、私に気がついた。

「あぁ……」

……あぁ。だけ?

「私、帰ってきました。祈りを捧げるために」
「……」
「ソリッド様。私が見えていますか? 肌も綺麗になりました。……あなたが愛してくれた時の、リンダと変わらない姿です」

ソリッド様の目は、半分程度しか開いていない。
私の顔を見るため、頭を上げようとしたが……。
それを、リーファンが抑え込んだ。

「……ソリッド様。見る必要はありませんよ」
「リーファン……。私はソリッド様と、会話しているのです」
「せめて、服を着させてちょうだいな。こんな姿では、まともに話など――」
「大丈夫です。たった一つ、質問をするだけですから」

私は、アルベールに目配せした。
アルベールは微笑みながら、頷いてくれた。

「……ソリッド様。私のことを、今どのくらい、好いてくれていますか?」

ソリッド様が、ゆっくりとこちらを向いた。
しかし、すぐにまた、リーファンの胸の方を向いてしまう。

「ソリッド様……。お答えください。この女に、騙されているだけではないですか? 果ててしまえば、冷静になって、私のことも、また愛して――」
「無理だ」
「えっ……」
「……君には、何の魅力も、感じないよ」

私のことを、見ることも無く。
リーファンの胸に、顔を埋めながら、そう言った。

確かに、言った。

アルベールが、私の肩に、手を置き……。

「じゃあ、リンダは僕がもらうよ。それでいいかい?」
「……」

ソリッド様は、何も答えなかった。

「それと、民の怒りはとんでもないことになってる。王族も、それからゴバーグ家も……。いずれ国外追放が決まってしまうよ。それでも、二人でいたいの?」
「……」
「ソリッド……」
「もう、良いでしょう? これが私たちの愛なの。……世界に、たった二人だけでも構わない。そう思えるくらい、強い気持ちで結ばれている。あなたたちは、本当の愛を知らないの。だから、そんな風に私たちを否定できるのね……」
「……僕は。――僕たちは、僕たちなりの愛を探す。お前たちみたいな、薄汚い、ただの動物の本能に従った愛じゃない。真っ当な道を……。この国の人たちと、歩んで行くよ」
「……そう。頑張ってちょうだい」

……終わってしまった。
これで、ソリッド様とは、お別れだ。

アルベールが、私の手を握ってくれた。

「行こう。リンダ」

その綺麗な青い瞳には、とても力が籠っていた。

「……さようなら」

だけど私は、涙が止まらなかった。
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