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魔法使い
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兵たちによって、私は森に捨てられた。
ここがどこなのかなんて、全くわからなかったけれど……。
幸い、果物が豊富に実っている。
しばらくは、それを食べるだけでも、生きていけそうだ。
……一年間、ずっと毎日、働きっぱなしだった。
休暇と思って、のんびりと過ごそう。
いくつか果実を取り、どこか、体を休める場所はないかと、彷徨っていたところ……。
「……すごい」
古びた館を見つけた。
なぜこんな、森の中に、館が……?
疑問はあったし、恐怖も感じたけれど、聖女になったことで、白魔法がいくつか使えるようになっていたので、いざとなればそれを使えばいいと思って、中に入ってみた。
すると……。意外なことに、明かりが灯っていたのだ。
誰か住んでる……?
いやまさか。こんなところに?
「ノックもしないで人の家に入るなんて、感心しないなぁ~」
「ひぇっ!?」
いきなり背後から声がした。
慌てて振り返ると、そこには――。
真っ赤な長い髪の少年が、立っていた。
フードを被っており、目元はよく見えない。
「ご、ごめんなさい。てっきり、廃墟かと思って……」
「まぁいいさ……。せっかく来たんだから、ゆっくりしていきなよ」
「あなたは誰? どうしてこんなところに?」
「落ち着いて。どうやらお腹が空いているみたいだ。食事にしよう」
……どうしてわかるんだろう。
少年に促されて、食堂のような場所に向かった。
「僕はアルベール。ここでひっそりと暮らしてる魔法使いだ。君は?」
「私はリンダ。一応……聖女」
「へぇ~! 聖女様かぁ」
「様なんて、そんな……」
「で、何が食べたい?」
「えっ……」
すぐに思い浮かばなかった。
だって、この一年間、あんまりちゃんと食事をしてこなかったから。
聖女としての力なのか、空腹になっても、死ぬことなく働くことができたのだ。
「特にないなら、僕と同じ物を食べよう」
アルベールが、軽く手を振った。すると……。
いきなり、机の上にご馳走が並んだ!
「すごい……! あなたの魔法なの?」
「そうだよ。さぁ食べな。冷めないうちにね」
「ありがとう……」
久々に感じる、料理の匂い。そして、暖かさ。
私は食べながら、涙を流してしまった。
すると、隣に座っていたアルベールが、私の背中を優しく撫でてくれた。
「辛かったんだね……。うん。わかるよ。君の心の中を、少し覗かせてもらった」
「心を?」
「……うん。あぁなんて酷い王子なんだろう。金持ちって、自分のことしか考えていなくて、傲慢で……。僕も嫌いなんだ」
「……」
「……君も、そうだろう?」
「うん……」
だけど、ソリッド様が、私に向けて来てくれた笑顔が、全て嘘だったなんて、思いたくない気持ちもある。
きっと、あのリーファンという女にそそのかされて、魔が差しただけだって。
「君さえよければ、気が済むまで、この館にいてくれ。一人だとどうも暇でね……。寂しくはないんだけど、とにかく時間が過ぎていかない。聖女様だけが使える、白魔法も気になるからね」
「ありがとう……」
アルベールの笑顔が、とても心に染みた。
ここがどこなのかなんて、全くわからなかったけれど……。
幸い、果物が豊富に実っている。
しばらくは、それを食べるだけでも、生きていけそうだ。
……一年間、ずっと毎日、働きっぱなしだった。
休暇と思って、のんびりと過ごそう。
いくつか果実を取り、どこか、体を休める場所はないかと、彷徨っていたところ……。
「……すごい」
古びた館を見つけた。
なぜこんな、森の中に、館が……?
疑問はあったし、恐怖も感じたけれど、聖女になったことで、白魔法がいくつか使えるようになっていたので、いざとなればそれを使えばいいと思って、中に入ってみた。
すると……。意外なことに、明かりが灯っていたのだ。
誰か住んでる……?
いやまさか。こんなところに?
「ノックもしないで人の家に入るなんて、感心しないなぁ~」
「ひぇっ!?」
いきなり背後から声がした。
慌てて振り返ると、そこには――。
真っ赤な長い髪の少年が、立っていた。
フードを被っており、目元はよく見えない。
「ご、ごめんなさい。てっきり、廃墟かと思って……」
「まぁいいさ……。せっかく来たんだから、ゆっくりしていきなよ」
「あなたは誰? どうしてこんなところに?」
「落ち着いて。どうやらお腹が空いているみたいだ。食事にしよう」
……どうしてわかるんだろう。
少年に促されて、食堂のような場所に向かった。
「僕はアルベール。ここでひっそりと暮らしてる魔法使いだ。君は?」
「私はリンダ。一応……聖女」
「へぇ~! 聖女様かぁ」
「様なんて、そんな……」
「で、何が食べたい?」
「えっ……」
すぐに思い浮かばなかった。
だって、この一年間、あんまりちゃんと食事をしてこなかったから。
聖女としての力なのか、空腹になっても、死ぬことなく働くことができたのだ。
「特にないなら、僕と同じ物を食べよう」
アルベールが、軽く手を振った。すると……。
いきなり、机の上にご馳走が並んだ!
「すごい……! あなたの魔法なの?」
「そうだよ。さぁ食べな。冷めないうちにね」
「ありがとう……」
久々に感じる、料理の匂い。そして、暖かさ。
私は食べながら、涙を流してしまった。
すると、隣に座っていたアルベールが、私の背中を優しく撫でてくれた。
「辛かったんだね……。うん。わかるよ。君の心の中を、少し覗かせてもらった」
「心を?」
「……うん。あぁなんて酷い王子なんだろう。金持ちって、自分のことしか考えていなくて、傲慢で……。僕も嫌いなんだ」
「……」
「……君も、そうだろう?」
「うん……」
だけど、ソリッド様が、私に向けて来てくれた笑顔が、全て嘘だったなんて、思いたくない気持ちもある。
きっと、あのリーファンという女にそそのかされて、魔が差しただけだって。
「君さえよければ、気が済むまで、この館にいてくれ。一人だとどうも暇でね……。寂しくはないんだけど、とにかく時間が過ぎていかない。聖女様だけが使える、白魔法も気になるからね」
「ありがとう……」
アルベールの笑顔が、とても心に染みた。
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