4 / 15
初恋の相手
しおりを挟む
「はぁ……」
婚約を破棄されてから、リゼッタはしばらく仕事に打ち込んだ。
元々伯爵家の事務的な仕事をこなしていたリゼッタだが……。
あのにっくき公爵令息のことを頭から消すために、より一層仕事に集中することにしたのだ。
そんなリゼッタを心配して、両親はリゼッタを休ませることにした。
リゼッタからすれば、親の気持ちは理解できても……。相当しんどい要求と言える。
部屋を出ようものなら、メイドや執事に声をかけられ、仕事を持ち込まないように口酸っぱく言われてしまうのだ。
仕方なく部屋に籠っているが、することがない。
ため息をつきながら紅茶を飲んでいると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、一人のメイド。
「お嬢様。客人です」
「客人……。助かりました。退屈で嘔吐してしまいそうでしたから」
メイドはクスりともせず、お辞儀をした。
その表情に、緊張が見られる。
どうやら、ちゃんとした客人のようだ。
リゼッタは服を直し、すぐに部屋を出る。
メイドに案内された部屋で待っていたのは……。
「……オーレン様」
イグリスト侯爵家の令息、オーレン・イグリストだ。
金色の髪が短く切りそろえられた、鼻の高い美男子である。
そして……。
リゼッタの初恋の相手でもあった。
一気に心拍数が上がり、まばたきの回数が多くなる。
「すまないね。急に押しかけてしまって」
「え、えぇ……。ど、ど、どうされたのですか?」
明らかに動揺しているリゼッタに、オーレンが優しく微笑みかけた。
「少し、外を歩きながら……。話をしたいなと思ってね」
「……話?」
「誰の婚約者でもなくなった君と……ね」
オーレンの言いたいことを、理解できないリゼッタではない。
これまで、イグリスト侯爵家との婚約の話が上がったことは何度もあったが、お互いに時間が取れなくて、あまり関係が進展しなかったのだ。
そんな中、いきなり公爵家の婚約話が跳び込んできて、両親は飛びついてしまった。
それ以来オーレンとはほとんど会話していないが、お互いに気持ちは残り続けていたらしい。
「そ、その……。私は傷物ですから……。オーレン様には、もっと良いお相手が……」
「まぁまぁ。ずっと屋敷の中にいたんだろう? 久しぶりに森の空気でも吸いに行かないかい?」
巧みに言い方を変えることで、リゼッタが首を縦に振りやすくなった。
「……わかりました。お気遣い、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、行こうか」
オーレンが手を差し出す。
その手を、控えめにではあるが握って……。
二人は屋敷を出て、森へと向かった。
婚約を破棄されてから、リゼッタはしばらく仕事に打ち込んだ。
元々伯爵家の事務的な仕事をこなしていたリゼッタだが……。
あのにっくき公爵令息のことを頭から消すために、より一層仕事に集中することにしたのだ。
そんなリゼッタを心配して、両親はリゼッタを休ませることにした。
リゼッタからすれば、親の気持ちは理解できても……。相当しんどい要求と言える。
部屋を出ようものなら、メイドや執事に声をかけられ、仕事を持ち込まないように口酸っぱく言われてしまうのだ。
仕方なく部屋に籠っているが、することがない。
ため息をつきながら紅茶を飲んでいると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは、一人のメイド。
「お嬢様。客人です」
「客人……。助かりました。退屈で嘔吐してしまいそうでしたから」
メイドはクスりともせず、お辞儀をした。
その表情に、緊張が見られる。
どうやら、ちゃんとした客人のようだ。
リゼッタは服を直し、すぐに部屋を出る。
メイドに案内された部屋で待っていたのは……。
「……オーレン様」
イグリスト侯爵家の令息、オーレン・イグリストだ。
金色の髪が短く切りそろえられた、鼻の高い美男子である。
そして……。
リゼッタの初恋の相手でもあった。
一気に心拍数が上がり、まばたきの回数が多くなる。
「すまないね。急に押しかけてしまって」
「え、えぇ……。ど、ど、どうされたのですか?」
明らかに動揺しているリゼッタに、オーレンが優しく微笑みかけた。
「少し、外を歩きながら……。話をしたいなと思ってね」
「……話?」
「誰の婚約者でもなくなった君と……ね」
オーレンの言いたいことを、理解できないリゼッタではない。
これまで、イグリスト侯爵家との婚約の話が上がったことは何度もあったが、お互いに時間が取れなくて、あまり関係が進展しなかったのだ。
そんな中、いきなり公爵家の婚約話が跳び込んできて、両親は飛びついてしまった。
それ以来オーレンとはほとんど会話していないが、お互いに気持ちは残り続けていたらしい。
「そ、その……。私は傷物ですから……。オーレン様には、もっと良いお相手が……」
「まぁまぁ。ずっと屋敷の中にいたんだろう? 久しぶりに森の空気でも吸いに行かないかい?」
巧みに言い方を変えることで、リゼッタが首を縦に振りやすくなった。
「……わかりました。お気遣い、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、行こうか」
オーレンが手を差し出す。
その手を、控えめにではあるが握って……。
二人は屋敷を出て、森へと向かった。
13
お気に入りに追加
1,514
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を取られてしまいましたが、あまりにも身勝手なのであなたに差し上げます
hikari
恋愛
ハワード王国の第二王子セレドニオと婚約をした聖女リディア。しかし、背が高く、魔法も使える妹のマルティナに婚約者を奪われてしまう。
セレドニオはこれまで許嫁の隣国の王女や幼馴染と婚約を破棄していたが、自分の母方祖母の腰痛を1発で治したリディアに惚れ込む。しかし、妹のマルティナにセレドニオを奪われてしまう。
その後、家族会議を得てリディアは家を追い出されてしまう。
そして、隣国ユカタン王国へ。
一部修正しました。
【短編】公爵子息は王太子から愛しい彼女を取り戻したい
宇水涼麻
恋愛
ジノフィリアは王太子の部屋で婚約解消を言い渡された。
それを快諾するジノフィリア。
この婚約解消を望んだのは誰か?
どうやって婚約解消へとなったのか?
そして、婚約解消されたジノフィリアは?
婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ
みやび
恋愛
ヤバいことをするのはそれなりの理由があるよねっていう話。
婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683
ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791
と何となく世界観が一緒です。
聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから
真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...
悪役令嬢は勝利する!
リオール
恋愛
「公爵令嬢エルシェイラ、私はそなたとの婚約破棄を今ここに宣言する!!!」
「やりましたわあぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!」
婚約破棄するかしないか
悪役令嬢は勝利するのかしないのか
はたして勝者は!?
……ちょっと支離滅裂です
婚約破棄?お黙りなさいと言ってるの。-悪役令嬢イレーナ・マルティネスのおとぎ話について-
田中冥土
恋愛
イレーナ・マルティネスは代々女性当主の家系に生まれ、婿を迎えることとなっていた。
そのような家柄の関係上、イレーナは女傑・怪女・烈婦などと好き放題言われている。
しかしそんな彼女にも、近頃婚約者が平民出身の女生徒と仲良くしているように見えるという、いじらしくそして重大な悩みを抱えていた。
小説家になろうにも掲載中。
失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます
天宮有
恋愛
水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。
それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。
私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。
それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。
家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。
お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。
私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる