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初恋の相手

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「はぁ……」
 
 婚約を破棄されてから、リゼッタはしばらく仕事に打ち込んだ。
 元々伯爵家の事務的な仕事をこなしていたリゼッタだが……。
  
 あのにっくき公爵令息のことを頭から消すために、より一層仕事に集中することにしたのだ。

 そんなリゼッタを心配して、両親はリゼッタを休ませることにした。

 リゼッタからすれば、親の気持ちは理解できても……。相当しんどい要求と言える。
 
 部屋を出ようものなら、メイドや執事に声をかけられ、仕事を持ち込まないように口酸っぱく言われてしまうのだ。
 仕方なく部屋に籠っているが、することがない。


 ため息をつきながら紅茶を飲んでいると、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 入ってきたのは、一人のメイド。

「お嬢様。客人です」
「客人……。助かりました。退屈で嘔吐してしまいそうでしたから」

 メイドはクスりともせず、お辞儀をした。
 その表情に、緊張が見られる。
 どうやら、ちゃんとした客人のようだ。

 リゼッタは服を直し、すぐに部屋を出る。
 メイドに案内された部屋で待っていたのは……。

「……オーレン様」

 イグリスト侯爵家の令息、オーレン・イグリストだ。
 金色の髪が短く切りそろえられた、鼻の高い美男子である。

 そして……。
 
 リゼッタの初恋の相手でもあった。
 
 一気に心拍数が上がり、まばたきの回数が多くなる。

「すまないね。急に押しかけてしまって」
「え、えぇ……。ど、ど、どうされたのですか?」

 明らかに動揺しているリゼッタに、オーレンが優しく微笑みかけた。

「少し、外を歩きながら……。話をしたいなと思ってね」
「……話?」
「誰の婚約者でもなくなった君と……ね」

 オーレンの言いたいことを、理解できないリゼッタではない。

 これまで、イグリスト侯爵家との婚約の話が上がったことは何度もあったが、お互いに時間が取れなくて、あまり関係が進展しなかったのだ。
 
 そんな中、いきなり公爵家の婚約話が跳び込んできて、両親は飛びついてしまった。
 それ以来オーレンとはほとんど会話していないが、お互いに気持ちは残り続けていたらしい。

「そ、その……。私は傷物ですから……。オーレン様には、もっと良いお相手が……」
「まぁまぁ。ずっと屋敷の中にいたんだろう? 久しぶりに森の空気でも吸いに行かないかい?」

 巧みに言い方を変えることで、リゼッタが首を縦に振りやすくなった。

「……わかりました。お気遣い、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、行こうか」

 オーレンが手を差し出す。
 その手を、控えめにではあるが握って……。

 二人は屋敷を出て、森へと向かった。
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