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第12話 十年後

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 土地の浄化が始まり、十年が経過した。

「全く……。リーダーっていうのは疲れるわね」
「そうですか」
「あなたもメイドのリーダーみたいなものでしょう? 疲れるんじゃない?」
「どうでしょう……。メーシャ様ほど働いていませんから」

 セオリンは、笑いながら言った。
 メーシャの肩を優しく揉みながら、日ごろの勤労を労わるように。

「にしても。こんなに時間がかかるなんてね。私が記憶を取り戻してから、もう七年経ったのよ?」
「その件なんですけど」
「どうしたの?」
「私はメーシャ様よりも、三歳年下ですよね?」
「そうね」
「しかしメーシャ様は三年間、記憶を失くしておられた」
「えぇ」
「つまり、私たちは同い年になるというわけですよ!」

 メーシャはクスりと笑った。

「それを言うために、わざわざここへやってきたの?」
「……はい」
「ふふっ。あなたらしいわね」
「ありがとうございます」
「さて、と」
「あっ、メーシャ様? もう行かれるのですか?」
「当たり前よ。休んでなんていられないわ」
「しかし……」
「セオリン」

 メーシャが、セオリンの頭を優しく撫でた。
 この十年で、随分背が伸びたメーシャを見上げ、セオリンは頬を赤く染める。

「メーシャ様……。嬉しいです」
「ちょうど良い位置に、頭があったからよ」
「もっと、ツンツンした感じで言ってくださると、十年前を思い出すことができそうです」
「そんな必要ないでしょう?」

 二人は微笑み合い、そして別れた。
 セオリンは王宮に戻り、山積みの仕事を片付けなければいけない。
 メーシャは再び、土地の浄化を始める。

 ◇

「もうお戻りになったのですか?」
「えぇ。なんだか元気になったのよ」
「無理はなさらず……。メーシャ様は、ただでさえ魔力を消耗しておられるのですから」
「ありがとう。でも大丈夫よ。あなたたちもいるしね」

 各国から選りすぐりの浄化魔法の使い手を呼び寄せたことで、旧エスメラルダ領の浄化は、八割方進んでいた。
 もうあと二年もすれば、土地を完全に浄化することが可能だろう。

 浄化が終わった後は、領地全体に木を植えなければならない。
 
 人は、自分たちの住むための場所を作りすぎたのだ。
 数百年前、旧エスメラルダ領は、木々が生い茂る森林だった。
 自然を破壊し、我がものにしようとする人間に、神が憤慨したのだろう。

「……神様は、私たちを許してくれるかしらね」
「きっとお許しになるでしょう。これだけ時間をかけて、土地を癒しておりますから」
「そうね……。きっとそう」

 メーシャは右耳のピアスに触れてから、浄化魔法を唱え始めた。
 
 それは、記憶が戻った日に……。ラリッサがプレゼントしてくれた、メーシャの一番の宝物だった。
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