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聖女の光
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サンティーカの国王の長男、リーマスは困り果てていた。
エルモバルアの国王の娘、シーシアは聖女である。そう聞いて、無理矢理父親により結婚させられたが、全く気持ちが通じ合わない。
シーシアはわがままばかりで、自分勝手。聖女とは思えないほどの横暴な振る舞いと、雑な祈り。
幸い、サンティーカは豊かであったし、聖女を必要とした理由も、戦意向上のためであるから、大きな損失は生まれていなかったが……。
「……なぜ誰も、文句を言わないのだろう」
リーマスだけが、シーシアの存在を疑問に思っていた。そもそもこの国において、戦争に反対意見を持っているのは、リーマスだけだった。
好戦的な父と違い、リーマスは穏やかな母に似た。母もまた、この国では生きづらく思っている。
――もし、母とこの国を抜け出すことができれば。
そう思いながらも、リーマスは行動することができなかった。
「シーシア様、入ります」
リーマスは、シーシアの部屋を訪れた。このわがままな聖女は、祈りの時以外は、自分の部屋から出ないのだ。
そして、祈りのために必要だと言って、必ずリーマスに食事を運ばせる。愛するものとの触れ合いが、祈りをより確かにするという理由らしい。
「あらリーマス……。こっちへ来て?」
リーマスは非常に凛々しい顔立ちをした、美少年であった。体つきもしっかりしており、シーシアの好みの男性のタイプと、完全に一致していた。
(ふふっ……。この国に嫁ぐことができてよかったわ。ダントレイの王子は、美少年だけど、ちょっと情けなさそうだもの)
シーシアは、そのように考えていた。
そして、今日もリーマスに対して、様々な要求をする。
「リーマス。頭を撫でて?」
「頭、ですか?」
「愛を持って、優しく撫でてほしいの……」
「……わかりました」
リーマスの表情は険しかった。シーシアは、体つきこそ魅力的であったが、その面倒くさがりな性格故か、風呂にほとんど入らなかったのだ。
髪を撫でた後の指には、何とも言えない、生々しい香りが残り、なかなか落ちない。近づくことさえ嫌だった。
しかし、祈りのため言われれば、断ることはできない。口で呼吸しながら、リーマスは苦行に耐え続けた。
「リーマス、私の口に、食事を運んでほしいの」
「……はぁ。食事を、ですか」
「母親が赤子に、食事を与えるでしょう?聖女も同じですの。夫が母のような気持ちで、優しく包み込むように接することが、大事なのですわ」
……信じられなかった。聖女がそのように、わがままであるはずがない。
「どうしました?リーマス。私の心を乱すのですか?祈りが……」
「わかりましたから。落ち着いてください」
こうして、要求をはねのけようとすると、泣きそうな表情を向けてくる。これをされると、夫である身分として、受け入れざるを得ない。
リーマスは、複雑な感情を抑え込みながら、シーシアの口へ、料理を運び続けた。
その時。
「……ん?」
リーマスは、窓の外の景色に目を向けた。
大きな光が、空に向かって伸びている。
「……ダントレイ?」
「どうしました?」
「あの光……。ダントレイの方向です」
「何か爆発でも起きたのかしら」
「いいえ違います。それならば煙が見えるはず……。あの光は……」
――サンダルシア・ルーカス。
彼女が、ダントレイの聖女として目覚めたことを、示す光であった。
エルモバルアの国王の娘、シーシアは聖女である。そう聞いて、無理矢理父親により結婚させられたが、全く気持ちが通じ合わない。
シーシアはわがままばかりで、自分勝手。聖女とは思えないほどの横暴な振る舞いと、雑な祈り。
幸い、サンティーカは豊かであったし、聖女を必要とした理由も、戦意向上のためであるから、大きな損失は生まれていなかったが……。
「……なぜ誰も、文句を言わないのだろう」
リーマスだけが、シーシアの存在を疑問に思っていた。そもそもこの国において、戦争に反対意見を持っているのは、リーマスだけだった。
好戦的な父と違い、リーマスは穏やかな母に似た。母もまた、この国では生きづらく思っている。
――もし、母とこの国を抜け出すことができれば。
そう思いながらも、リーマスは行動することができなかった。
「シーシア様、入ります」
リーマスは、シーシアの部屋を訪れた。このわがままな聖女は、祈りの時以外は、自分の部屋から出ないのだ。
そして、祈りのために必要だと言って、必ずリーマスに食事を運ばせる。愛するものとの触れ合いが、祈りをより確かにするという理由らしい。
「あらリーマス……。こっちへ来て?」
リーマスは非常に凛々しい顔立ちをした、美少年であった。体つきもしっかりしており、シーシアの好みの男性のタイプと、完全に一致していた。
(ふふっ……。この国に嫁ぐことができてよかったわ。ダントレイの王子は、美少年だけど、ちょっと情けなさそうだもの)
シーシアは、そのように考えていた。
そして、今日もリーマスに対して、様々な要求をする。
「リーマス。頭を撫でて?」
「頭、ですか?」
「愛を持って、優しく撫でてほしいの……」
「……わかりました」
リーマスの表情は険しかった。シーシアは、体つきこそ魅力的であったが、その面倒くさがりな性格故か、風呂にほとんど入らなかったのだ。
髪を撫でた後の指には、何とも言えない、生々しい香りが残り、なかなか落ちない。近づくことさえ嫌だった。
しかし、祈りのため言われれば、断ることはできない。口で呼吸しながら、リーマスは苦行に耐え続けた。
「リーマス、私の口に、食事を運んでほしいの」
「……はぁ。食事を、ですか」
「母親が赤子に、食事を与えるでしょう?聖女も同じですの。夫が母のような気持ちで、優しく包み込むように接することが、大事なのですわ」
……信じられなかった。聖女がそのように、わがままであるはずがない。
「どうしました?リーマス。私の心を乱すのですか?祈りが……」
「わかりましたから。落ち着いてください」
こうして、要求をはねのけようとすると、泣きそうな表情を向けてくる。これをされると、夫である身分として、受け入れざるを得ない。
リーマスは、複雑な感情を抑え込みながら、シーシアの口へ、料理を運び続けた。
その時。
「……ん?」
リーマスは、窓の外の景色に目を向けた。
大きな光が、空に向かって伸びている。
「……ダントレイ?」
「どうしました?」
「あの光……。ダントレイの方向です」
「何か爆発でも起きたのかしら」
「いいえ違います。それならば煙が見えるはず……。あの光は……」
――サンダルシア・ルーカス。
彼女が、ダントレイの聖女として目覚めたことを、示す光であった。
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