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ボロボロになって帰ってきた弟
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私の弟、キリア・モルバレスは、とても心優しい少年だ。
普通、一歳違いの姉と弟ともなれば、多少喧嘩をしたり、思春期に関係を拗らせたりするものだと思う。
私はニ十歳、キリアは十九歳になるけれど、未だに喧嘩をしたことは一度も無い。
穏やかで、気遣いもできて……。どこに出しても恥ずかしくない、自慢の弟だ。
☆ ☆ ☆
庭で花の手入れをしていたところ、キリアが帰ってきた。
「キリア!? どうしたの? その傷は!」
フラフラになりながら帰ってきたキルアは、頬に大きな傷を負っていた。
まるで、ナイフか何かで、切りつけられたような……。
さらに、服はボロボロで、まるで獣にでも襲われたかのような状態。
「だ、大丈夫だよ。姉さん……。ははっ、ちょっと山で、転んでしまって」
「嘘よ……。転んだくらいで、こんなことになるわけないじゃない!」
私は慌てて、回復魔法で、キリアの頬の傷を癒した。
しかし、私のような、ただの農民の娘が、少し齧ったくらいの魔法では、気休め程度だろう。
それでも、やらないよりはマシなはず……。
体全体にも、回復魔法を施していく。
「とりあえず、応急処置はこれで終わり……。すぐに病院に向かうわよ」
「い、いや……。それは……」
「何を言ってるの? 大けがを負っているのに」
「……お金が、かかるから」
「そんなこと気にしなくていいの!」
幼い時に両親を亡くした私たちは、ずっと二人で暮らしてきた。
当然、裕福ではないけれど、病院に行く金くらいはある。
……私が、おんぶして、連れて行こう。
「ほらキリア。私の背中に乗って?」
「……」
「キリア!」
「姉さん。話を聞いてくれるかな」
「病院に向かいながらじゃダメなの?」
キリアは、困ったように俯くだけだった。
「歩いてここまで、戻って来られたんだ。死ぬことは無いよ。この傷だって……。さっき、姉さんのかけてくれた魔法で、だいぶマシになったから」
「そんなわけないわ。強がっているだけでしょう?」
「ほら。こうやって、ジャンプもできるように……いたたっ!」
「ばかっ! なにしてるの!?」
「姉さん……。そんなに怒らないでよ」
怒る……。
私は今、怒っているの?
「ほら、落ち着いて? 僕は大丈夫」
キリアが、私の手を握ってきた。
暖かい手……。
そして、力強さを感じる。
「……さっきまでは、正直、歩くのすらしんどかったよ。でも、姉さんの魔法が、本当に効いてるんだ」
キルアの笑顔を見て、私は涙を流してしまった。
そんな私を、キルアが優しく抱きしめてくれる。
「家に入ろう。喉が渇いたんだ」
キルアと一緒に、私は家に入った。
その足取りが、しっかりしていたので、私はひとまず、安心することができた。
普通、一歳違いの姉と弟ともなれば、多少喧嘩をしたり、思春期に関係を拗らせたりするものだと思う。
私はニ十歳、キリアは十九歳になるけれど、未だに喧嘩をしたことは一度も無い。
穏やかで、気遣いもできて……。どこに出しても恥ずかしくない、自慢の弟だ。
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庭で花の手入れをしていたところ、キリアが帰ってきた。
「キリア!? どうしたの? その傷は!」
フラフラになりながら帰ってきたキルアは、頬に大きな傷を負っていた。
まるで、ナイフか何かで、切りつけられたような……。
さらに、服はボロボロで、まるで獣にでも襲われたかのような状態。
「だ、大丈夫だよ。姉さん……。ははっ、ちょっと山で、転んでしまって」
「嘘よ……。転んだくらいで、こんなことになるわけないじゃない!」
私は慌てて、回復魔法で、キリアの頬の傷を癒した。
しかし、私のような、ただの農民の娘が、少し齧ったくらいの魔法では、気休め程度だろう。
それでも、やらないよりはマシなはず……。
体全体にも、回復魔法を施していく。
「とりあえず、応急処置はこれで終わり……。すぐに病院に向かうわよ」
「い、いや……。それは……」
「何を言ってるの? 大けがを負っているのに」
「……お金が、かかるから」
「そんなこと気にしなくていいの!」
幼い時に両親を亡くした私たちは、ずっと二人で暮らしてきた。
当然、裕福ではないけれど、病院に行く金くらいはある。
……私が、おんぶして、連れて行こう。
「ほらキリア。私の背中に乗って?」
「……」
「キリア!」
「姉さん。話を聞いてくれるかな」
「病院に向かいながらじゃダメなの?」
キリアは、困ったように俯くだけだった。
「歩いてここまで、戻って来られたんだ。死ぬことは無いよ。この傷だって……。さっき、姉さんのかけてくれた魔法で、だいぶマシになったから」
「そんなわけないわ。強がっているだけでしょう?」
「ほら。こうやって、ジャンプもできるように……いたたっ!」
「ばかっ! なにしてるの!?」
「姉さん……。そんなに怒らないでよ」
怒る……。
私は今、怒っているの?
「ほら、落ち着いて? 僕は大丈夫」
キリアが、私の手を握ってきた。
暖かい手……。
そして、力強さを感じる。
「……さっきまでは、正直、歩くのすらしんどかったよ。でも、姉さんの魔法が、本当に効いてるんだ」
キルアの笑顔を見て、私は涙を流してしまった。
そんな私を、キルアが優しく抱きしめてくれる。
「家に入ろう。喉が渇いたんだ」
キルアと一緒に、私は家に入った。
その足取りが、しっかりしていたので、私はひとまず、安心することができた。
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