上 下
9 / 15

退学

しおりを挟む
「そんなぁ! お父様ぁ!」
「……決まったことだ」
「嫌です! 私、まだまだ頑張れます! 必死でやりますから!」
「もう、これ以上君が、どう頑張ったところで……。カルホーン家の、名前を汚すことにしか、ならないよ」

私は、膝から崩れ落ちた。
あの模擬戦から、三日ほどたった今日。

いきなりお父様に……。
私を退学させたという、知らせを受けた。

信じられない。
まだ、正式な入学前だというのに。

「オーロラが不正をしていたという事実も、これで完全に、君の嘘だとわかった。……残念だよ。本当に」
「退学なんて……。考え直してください! お父様!」
「ディアナ……。受け入れなさい。毒林檎の件も、許されることじゃない。裏切られた気分だよ」
「ごめんなさい……。もう二度と、勝手な真似はしません。どうか、退学だけは……」
「……そうは言っても。あれだけ生徒が見ている前で、醜態を晒したわけだ。ディアナ、君を普通の人間として扱ってくれる人は、もうあの学園にはいないだろう」

お父様は、ため息をついた。
そして、私に哀れみの視線を向ける。
いつも厳しく、私を指導してくれたお父様。

それなのに……。
まるで、全て諦めたかのような態度。

それは、私がカルホーン家の娘ではなく。
……ただの娘として、扱われるようになったことの、証だった。

「嫌だ……。こんなところで、終わりたくないです! お父様!」
「正直、才能が無いなと思っていたんだ。カルホーン家の血を引いていれば、もっと圧倒的な力を示せるはず……。最後まで、それは見られなかった」
「あ、あれは、あの女が、異常だっただけです!」
「君が、本当に、彼女に次いで、あの学園で優秀なのであれば……。まだ考えたさ。だけど、そうじゃない。圧倒的に実力が無い。無能だ。でも……。他に仕事があるよ。幸い、妻に似て、美人だからね。秘書を目指したらどうだろう」
「秘書……?」

秘書は、魔法を使うことなんて、きっとないだろう。
私の個性を、完全に否定されてしまった。

「……まだ、あれから三日だ。もっと休むといいよ。どうせ、魔法を使うことは、二度と無いのだから」
「お父様! 嫌です! 嫌ぁ!」
「……」

お父様の合図で、ルエールが部屋に入って来た。
そして、私を羽交い絞めにして、ベッドに戻そうとする。

「お父様ぁ……。うぅ……」

涙が止まらなかった。
それと同時に、腹痛も。
じっくりしこんだ魔法を、まともにくらってしまったせいで、未だに私は、一日の半分を、トイレで過ごす羽目になっている。

身も心も、ボロボロだ……。

……全部、あいつのせい。
文句を言ってやりたい。
だけど、部屋からは、出してもらえない……。

「ディアナ様。午後から、ナイザー様がお見えになるそうです」
「ほ、本当?」
「はい。ですから……。身なりを整えましょう」
「そうね。わかったわ」

ナイザー様……。来てくれるのね。
こんなことになってしまった私だけど。
きっと、彼なら優しく慰めてくれる。

少しだけ、沈んだ気持ちが、前向きになった。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。

雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」 妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。 今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。 私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。 バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。 五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。 バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。 だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。

婚約破棄ですか?あなたは誰に向かって口をきいているのですか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、マリアンヌ・バークレーは王宮の誕生日パーティーでいきなり婚約破棄を言い渡された。は!?婚約破棄ですか?あなたは誰ですの?誰にモノを言っているのですか?頭大丈夫ですか?

初めまして婚約者様

まる
恋愛
「まあ!貴方が私の婚約者でしたのね!」 緊迫する場での明るいのんびりとした声。 その言葉を聞いてある一点に非難の視線が集中する。 ○○○○○○○○○○ ※物語の背景はふんわりしています。スルッと読んでいただければ幸いです。 目を止めて読んで下さった方、お気に入り、しおりの登録ありがとう御座いました!少しでも楽しんで読んでいただけたなら幸いです(^人^)

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉

菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。 気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。 姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。 全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

「そんなの聞いてない!」と元婚約者はゴネています。

音爽(ネソウ)
恋愛
「レイルア、許してくれ!俺は愛のある結婚をしたいんだ!父の……陛下にも許可は頂いている」 「はぁ」 婚約者のアシジオは流行りの恋愛歌劇に憧れて、この良縁を蹴った。 本当の身分を知らないで……。

勘違いも凄いと思ってしまったが、王女の婚約を破棄させておいて、やり直せると暗躍するのにも驚かされてしまいました

珠宮さくら
恋愛
プルメリアは、何かと張り合おうとして来る令嬢に謝罪されたのだが、謝られる理由がプルメリアには思い当たらなかったのだが、一緒にいた王女には心当たりがあったようで……。 ※全3話。

処理中です...