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ミゲルの最期

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「……もう、ダメだ」

ミゲルはその場に崩れ落ちた。

「お兄様!? どうして諦めるのですか!」
「そうだよ! 私たちが力を合わせれば、あんなモンスターすぐにやっつけられるって!」

フレイアとレオノンの励ましは、もはやミゲルの耳には届いていない。
兵がほとんど逃げ、モンスターたちの侵攻の速度は上がっている。

このままでは――。全滅だ。
ゼファーノ家の歴史が終わってしまう。

「……私は、父上を守るため、この王宮に残る。二人は今すぐ逃げてくれ」
「なにをおっしゃるのですか! 私も残ります! まだ今週は結界を張れていませんから、力は余っているはずです!」
「私も! 全然魔法使ってないし、ドカーンって、大きいのが唱えられる自信あるよ!」

ミゲルはわかっていた。
もうとっくに、自分たちに、力は残されていないと。

剣神も、聖女も、賢者も……。ここにはいない。

「フレイア。レオノン……。よく聞いてくれ。今からこの国を出たら、西の方角に真っすぐ進むんだ。そしたら友好国のレジャーノラに辿り着く。だいたい三時間くらいの道のりだが、ここにモンスターが集まっているから、きっといつもよりは危険は少ないはずだ」
「ま、待ってください! ですから、私たちは」
「私の言うことを聞いてくれ!」

ミゲルが、二人に対して怒鳴ったことは、今まで一度もなかった。
突然の出来事に、二人は涙を浮かべる。

「……すまない。だが、時間の問題だ」

ミゲルがそう言った瞬間。叫び声が聞こえた。
もう王宮に、モンスターが押し寄せている。

「裏口から逃げればまだ間に合う……。頼むから、私の言うことを聞いてくれ!」
「……」
「フレイア!」
「……必ず、生きて、後で合流すると誓えますか?」
「当たり前だろう? 私を誰だと思ってるんだ」
「……絶対だよ? お兄様」
「レオノン……。フレイアと仲良くするんだぞ」

ミゲルは、二人の頭を優しく撫でると……。剣を抜いた。

「行け! 私は下に降りて、モンスターを追い払う!」
「はい! 行こうレオノン!」
「う、うん」

フレイアが、レオノンを連れ、裏口へと向かった。

その背中を見届けてから、ミゲルは、ふぅと息を吐いた。

「……短い人生だった」

剣をしっかりと握り、階段を降りていく。

ちょうど踊り場で、兵が死んでいるのを見つけた。
おそらく、モンスターに怪我を負わされ、上に逃げようとしたところで、息絶えたのだろう。

自分も、あのようになるのか……。
ミゲルは泣きそうになったが、すぐに下へ降りて行った。

「ミゲル様! ここはもうダメです! 国王とお逃げになってください!」
「諦めるな! 剣神が来たぞ!!!」

なんとか兵を奮い立たせようと、ミゲルは大きな声を出したが……。それがいけなかった。
モンスターの注目を、全て集めてしまったのだ。

大きな棍棒を持った、ミゲルの三倍ほどの大きさのモンスターを筆頭に、強力なモンスターが、雄たけびを上げながら、ミゲルに襲いかかった。

剣神であれば、きっとこの状況を覆すこともできただろう。しかし――。

「うおおおおお!!!」

今のミゲルは、一般兵よりも劣る存在だった。

決死の思いで振り下ろしたその剣は……。モンスターに掠ることも無く。

空を切ったせいで、体勢を崩し、ミゲルは豪快に転んでしまった。

「あ、ああぁああ……」

大きなモンスターが、口を開け、ミゲルを……。かみ殺した。

死の間際、ミゲルは悟った。

――ベネットとの婚約を破棄したのは、間違いだったと。
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