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エピローグ

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「ここにいたか」

王宮の庭で、花を眺めていたら、ランバーがやってきて、隣に座った。

「……また、考えごとか?」
「ううん。何も考えてない」

私はランバーに、そっと体を預けた。

私が聖女の力を授かってから、何年経っただろうか。聖女としての務めは、日々苦労が多く、頭の中を、説明できない感情が、行ったり来たりしていて、やかましい。

あの日、闇は消え、国は平和になった。それなのに、私の頭には……。魂を消し去った――人を殺した。そんな記憶が、こべりついてしまって離れないのだ。

聖女であるから、人を殺していいなんてことはない。あの日私がしたことは、間違いなく命を奪う行為で……。民の祝福も、素直に受け止めることが、できずにいる。

「何も考えていない者が、そのような悲しい目をするか」
「……ふふ。そうだよね」

戦争が終わり、長らく続いた平和は……。今また、崩れようとしている。

アレンベートからの協力要請には、まだ返事をしていない。

どうして人は、負の歴史を繰り返すのだろうか。

……それはきっと、自分を正義だと思い込んでしまうから。

私はあの日、そうやって、多くの人の命を奪った。

勝利した側には祝福され、敗北した側には、人殺しと罵られる。

「大丈夫だ。戦になっても、私が必ず、君を守るよ」

ランバーの声は暖かい。どこまでも深く、私の心に沈み込んで、癒してくれる。

……私の祈りも、民を癒す薬になっているのだろうか。

その薬を得た民が、兵となり、戦に――。

「ランバー。戦を失くす方法は無いの?」
「……無い」
「……」
「ただひたすら、戦うだけだ」

この国には、王がいない。あの日消えた王の座には、誰も座りたがらなかった。王族の知る聖女は、闇を消す存在。それによって王が消えたという事実と、その後継になるという責任は、誰にも背負いきれなかったのだ。

当然、意見が割れる。国を出て行く民も増えた。私では……。それを止めることは、出来なかったのだ。

聖女とは、なんなのだろうか。

私が求めていたものは、どこにあるのだろうか。

そもそも一体、何を求めていたのだろうか。

「シーナ様!西の国で、再び戦が始まったそうです!支援に向かいますか?」

どたどたと、足音を立てながら、兵がやって来た。

……こんなことが、一日に何回もある。

「そうですね。西には友好国がたくさんありますから。状況を判断して、適切に――」

なぜ、聖女の私が、兵の動きを支持しているんだろう。

「……シーナ様?」
「……えぇ。あなたたちに任せるわ。私はここで、祈りを続けます」
「かしこまりました!」

……あぁ。

私の指示で、また人が死ぬ。

聖女とは、国を守ることを責任とする生き物。

誰がこの存在を裁くのだろう。

神か、それとも……。

「……どうした?」
「……ううん。大丈夫」

ランバーの目を見ながら、私は息を吐いた。
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みんなの感想(1件)

使い魔猫
2020.08.22 使い魔猫
ネタバレ含む
冬吹せいら
2020.08.22 冬吹せいら

ご感想ありがとうございます!

ペットの面倒は、ちゃんと見ないといけませんねw

解除

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