婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。

冬吹せいら

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哀れな元婚約者

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 ブリジット家と同時に、大打撃を受けた家がもう一つ。
 かつてキャロと婚約していたライアンの家、オーゼフ家だ。

 オーゼフ家は、隣国キーターンとの取引を盛んに行っていた。
 キャロの婚約のニュースが明るみになったことで、すぐにライアンの悪評も広まることになり……。

「はぁ……」
「やめてよ。ため息ばかり」
「仕方ないじゃないか。仕事が山積みなんだ」

 ライアンは、部屋で大量に手紙を書いている。
 まだかろうじて取引のある会社に、断りの連絡が来る前に、謝罪の文を送るためだ。
 しかし、書いている内にも、取引中止を言い渡す手紙は止まらない。
 
 そこへ、さらに謝罪の文を送り、なんとか取引の継続を依頼せねばならないという。
 その仕事から手が離せないということもあってか、婚約者のカティは、構ってもらえず、イライラしていた。

 ライアンの部屋で、退屈そうに紅茶を飲んでいる。

「……君はいいな。暇そうで」
「はぁ?」

 その言葉が、引き金となった。
 カティは立ち上がり……。ライアンが書きかけている手紙を、ビリビリに破いた。

「なんてことするんだ!」
「うるさいわね! ライアンが全然構ってくれないからよ!」
「今はどう考えてもそんな状況じゃないだろう!? 家の危機なんだ!」
「仕事の方が、私より大事だって言うの!?」
「そんなことは言ってない!」
「酷いわ。あんなに愛しあっていたのに……」

 ライアンは、思わず舌打ちしそうになった。
 カティは、婚約してから、まるで子供のようにわがままな女になってしまったのだ。
 気品のある、美しい女性だと思っていたのに、がっかりである。
 すぐに泣くし、言うことを聞かないし……。

「……キャロと別れるんじゃなかった」
「……え? 今、なんて?」

 カティが、鬼の形相で、ライアンを睨みつける。
 しまったと思い、撤回しようと考える前に、平手打ちされた。

「もういい! 私、あなたと別れる!」
「ま、待てカティ! 僕が悪かった! この騒動が終わったら、必ず君に尽くすから! 待てってば!」

 ライアンの言葉を無視して、カティは出て行ってしまった。
 
 入れ替わるようにして、執事が入ってくる。
 その手には……。大量の手紙。

「ライアン様。こちらの企業への謝罪文を――」
「ああぁぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!!!」

 大声で叫んだライアンは、その手紙をビリビリに破って、部屋中にあるものを壁に向かって投げ始めた。
 執事は逃げるように、部屋を出る。

 こうして……。オーゼフ家は、あっという間に全てを失った。
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