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ナンナの体。

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ナンナの体になって、二週間くらい経った。

ナンナとは、たまに話すことはあっても、普段あの子がどんな生活をしているかまでは、あまり知らなかったのだ。そのせいで私は、毎日しんどい思いをしている。

まず、朝の四時。彼女の弟子である魔法使いたちが、やかましく窓を叩き、起こしてくる。どうやら毎日、夜行性である魔法使いのために、早起きして魔法を教えていたのだとか。

私に魔法の知識はほとんどない。だから、ただ魔法使いたちが練習してきた魔法を、見ているだけになってしまう。たまにちょっとそれっぽい発言をすると、みんな喜んでくれるから、これでいいのかなと思っていたが……。

ある日とうとう、いつまで経っても自分で魔法を使ったり、直接的な指導をしない私に疑問を感じ始めたらしく、心配をされてしまった。私は、体調が悪いから、しばらく魔法の練習はやめにしよう。そう告げて、この朝の日課は、なんとか失くすことができた。

魔法を使うためには、知識と鍛錬が必要になる。私は知識が皆無だから、残念ながら、この体の重ねた鍛錬を活かすことはできないのだ。
逆にナンナも、どれだけ知識があったところで、私の体が鍛錬を全く積んでいないので、魔法を使うことはできないだろう。かわいそうなことだ。

私はただ、泣きそうな顔をしながら体調が悪いと呟けば、だいたいのことを許してもらえる。それだけでも恵まれていると思った。

さて、魔法使いとの日課を失くしたところで、まだいくつか、日々こなさなければいけない課題があった。例えば、諸国との手紙のやり取りだとか、教会への挨拶だとか……。しかし、少しずつ、同じように失くしていっている。

私は部屋から動くつもりはない。動くとすれば……。隣国に住んでいる、婚約者のリオロ様に会いに行く時くらい。

「リオロ様!」
「あぁナンナ。来てくれたんだね」

リオロ様は、国での様々な仕事を抱えているため、こちらから向かわないと、なかなか会うことができない。私は勘違いをしていた。結婚さえすれば、ずっとそばにいるものだと……。
どうやら、ナンナが断ったそうなのだ。お互い国で自分の生活を優先し、落ち着いてから一緒に暮らそう。そういう計画らしい。全く余計なことをしてくれた。

「リオロ様にどうしても会いたくて、来てしまいました」
「そうかい?照れるなぁ」

リオロ様の真っ赤な髪を撫でると、甘い香りがした。こんなにかっこいい男の人なのに、どうしてこんなにも良い匂いがするのか、私は不思議で仕方がない。思わず顔を埋めてしまった。

「ナ、ナンナ。どうしたんだい?」
「今日は……。そういう気分なんです」
「あはは……。珍しいな。ナンナがこんなにも甘えてくるなんて」

そう言いつつも、私の頭を撫でてくれるリオロ様は、やっぱり優しい。

「ところで……。ちょっと小耳に挟んだのだが、最近体調を崩しているみたいだね。大丈夫なのかい?」
「あっ……。はい!大丈夫です」
「そうかい……?なんとなく、顔も赤い気がするよ?」
「こ、これはその……」

これまでの人生で、異性と関わることなんて、ほとんどなかった。あんな容姿じゃ当たり前だ。それがいきなり、こんなに美しい王子の妻だなんて……。顔が赤くならない方がおかしい。

だけど、あまりこれまでのナンナと違う顔を見せすぎると、疑われてしまう。気を付けないと……。

「あまり無理はしないでくれ。君はいつも頑張りすぎるから」
「えぇ。ですから、しばらくお休みを頂いて……。すぐに復活するつもりですから、ご心配なく」
「うん。ナンナは強い人だから、きっと大丈夫」

ナンナは、強い人……。確かにそうだ。
ここへ来る前、外で運動している姿を見た。少しではあるが、体の肉が少なくなっていたように思える。

……まさか、あんな姿になってまでも、真っ当に生きることを諦めないとは。

だけど所詮、あれはダメな体だ。何年も使っていた私が言うのだから、間違いない。

……何をしたって、上手くいくわけないのだ。
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