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第15話 挑戦状

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「飯の時間……」
「ああああああああ!!!」

 見張りの騎士は舌打ちをした後、隣の女性に指示を出した。
 この牢屋に連れて来られた時から、女性が口に運んだものしか食べないウリアだったが……。
 最近では、もはや食事すら受け付けなくなってしまった。

 仕方がないので拘束具を外すと、壁に必死で頭を打ち付け始める。
 どうしようもない状況だった。

「なぜそうまでして死にたがる……」
「……はぁ、はぁ」

 しばらく叫んだ後、少しだけ正気に戻るらしく、会話をすることができた。
 騎士が枷を外すと、ウリアは血走った目で睨みつける。

「反省するくらいならぁ……。死んだ方がマシなのよぉ……!」
「痛くないのか。あんなに拳や頭を壁に打ち付けて」
「痛いわよ。苦しいわよ。だけど解放されたくて……。必死で抗ってるんじゃない!」
「……そうか」
「……お腹が空いたわ。何か食べるものは?」

 騎士の合図で、女性が食べ物を口に運び始めた。

「あなたたち、枷をしているのは、私が舌を噛み切って死のうとすると思っているから……。でしょう?」

 騎士は何も答えなかったが、ウリアはそれを肯定と捉えた。

「心配しなくても、私はそんな死に方は選ばないわ。血の味が苦手なの」
「よくわからない基準だな……」
「正気を保っているうちに、全部食べないとね……」

 慌てた様子で食事を続けるウリア。
 そこへ、一人の騎士が現れた。
 見張りの騎士に耳打ちをする。
 そして、一枚の手紙を手渡した。

「何よそれ」
「……お前の父親からだ」
「……え」

 数日ぶりに、ウリアの目に光が戻った。
 
「お父様……?」

 騎士が手紙を開き、ウリアに見えるようにした。

 そこは、ここ数日のレンフローの暮らしが書いてあった。
 保護されて、ナースや医者に優しくされたこと。
 これからは反省し、作業員として再びゼロからやり直すことを誓ったこと。

 そして最後に、ウリアにはなんとしても生きてほしいとの願いが……。

「……どうせ、私に教育プログラムを受けさせるための罠でしょう?」
「そう思うならそれでもいい」

 ウリアはため息をついたが、手紙の最後にとある数字が書かれているのがわかった。
 それは、自分とレンフローしか知らない番号。
 数年前に廃棄にした、古い金庫の鍵を開けるための、四桁の数字だ。

 ……間違いない。本物の手紙である。

「ねぇあなた」

 ウリアは、立ち去ろうとする騎士に話しかけた。

「なんだ?」
「私が生きていたら、嬉しい?」
「……さぁな。だが、誰もお前の死を望んでいないことは確かだろう」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「勘だ」
「勘って……」

 騎士なりのジョークだったが、ウリアは全く笑わなかった。
 
「……もう少し、生きてみようかしら」

 しばらく叫び、涙を流したことで、体から何かが抜け落ちたような感覚になっていたウリア。
 不思議なことに、復讐心も今は落ち着いている。
 今なら……。真人間になることができるのかもしれない。
 ダメだったら死ねばいい。

「教育プログラムを受けるわ。……私を更生させられるっていうなら、してみなさいよ」

 ウリアからロハーナに向けての、挑戦状だ。
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