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第12話 伯爵令嬢完全敗北

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「残念だよ。グレン」
「ち、父上違うのです! これは……」
「言い訳無用。貴様は今日から一般人だ。もう部屋も片付けた。居場所はないぞ」
「そんな……」

 絶望したグレンが、その場に崩れ落ちた。
 ウリアは全身を震わせながら、すでに床に手をついている。

 終わった……。そんな絶望感に包まれ、目の前がちかちかと点滅していた。

「ウリアよ。貴様はとうとう許されぬことをしたな。無実の人間に刃を向けるなど、我が国民としてあり得ぬ話だ」
「あ、ぁあぁあ……」
「何か釈明があれば、聞き入れてやろう」

 ファガーナの横にいた騎士が、ウリアの顎を上げ、上を向かせた。
 涙がダラダラと流れている。鼻水も垂れっぱなしだった。
 ひっくひっくと、喉からか細い音を鳴らしつつ、ウリアは必死で脳みそを回転させた。

「何も言えぬのなら、ロハーナと場所を代えてもらうぞ」
「い、いあぁあ」
「であれば、何か申せ」
「ごめ、ごめんに、ぬぁあっ。なさぁあいいい!」
「我にではない。ロハーナに謝るのだ」
「え……」

 騎士が、ウリアの体を軽々と持ち上げ、ロハーナの方向に向けさせた。
 ロハーナは死んだ冷たい目で、ウリアを見降ろしている。
 すでに拘束は解き、立ち上がっている状態だ。

「ウリア様。謝れば牢屋。謝らなければ国外にポイ捨て。どちらか好きな方をお選びください」
「ううぅう……。ううう!!」

 体中の水分が抜けてしまいそうなほどに涙を流し、騎士によって顎を持ち上げられながら、ロハーナを見つめている。
 目線を逸らすこともできない。逸らしたら、何をされるかわからなかった。
 ようやくウリアは、ロハーナの恐ろしさを思い知ったのだ。

「牢屋であれば、毎日食事をすることくらいはできますよ。国外に捨てられれば、おそらくもって三日でしょうね」
「ううぅっ、いやぁあああ……」
「でしたら、謝って下さい」
「ごめんなさぁあいいい!!!」

 もはやウリアに、プライドは欠片も残されていなかった。
 ただ生き残りたい。動物の本能に即した行動。
 騎士の手に逆らうように、必死で頭を下げた。

「……国王様。そういうことだそうです」
「良かろう。この優しき令嬢に感謝せよ」

 ウリアとグレンをそれぞれ牢屋に入れてから、ロハーナたちは地下牢を後にした。


「ありがとうございます。国王様。もう少しで殺されるところでした」
「あの者たちに、そんな勇気はないだろう」
「わかりません。追い詰められた人間は、時にとんでもないことをしてみせますから」
「君の先祖が、我の先祖を窮地から救ったようにか?」
「何とも返答に困りますね……」

 二人は大きな声で笑い合った。
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