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第1話 伯爵令嬢の信じられない要求
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「あなたの領地は私のものよ!」
ケイトハーグ伯爵家の令嬢、ウリア・ケイトハーグは、舌ったらずな声で宣言した。
「……驚きました」
率直に感想を述べたのは、レンバルト男爵家の当主、バモット・レンバルトである。
「いきなり我が屋敷に、伯爵令嬢様がいらっしゃったので何事かと思えば……。なるほど、土地を譲れと申すのですね?」
「えぇそうよ。さっさと譲りなさい」
「ふふっ」
部屋の隅で小さな笑い声を出したのは、レンバルト男爵家の令嬢、ロハーナ・レンバルト。
ウリアはロハーナを睨みつけた。
「ロハーナ。何がおかしいの?」
「だって……。ご存じないのですか? 我がレンバルト家は、国王様直々にこの土地を任され、取り仕切っていますのに」
「そんなこと知ってるわよ。あなたの家が、無駄に王族から気に入られていることくらいね!」
「まぁまぁ……」
嫌味たっぷりに言い放ったウリアを、バモットが窘めた。
この二人は相性が悪い。できれば会話をさせたくないというのが、バモットの想いだった。
「男爵家なんかに任せてられないのよ! 我がザンベルブルグの港が、男爵家の領地などと知られれば、とんでもない恥なのよ!?」
「それは国王様に直接言えば良いのでは?」
「うるさい! 口答えするんじゃないわよ! 男爵家の令嬢如きが!」
「子爵家、侯爵家、公爵家からも、文句を言われたことなどありません。常日頃からちょっかいをかけてくるのは、ケイトハーグ伯爵家くらいのものです」
「なんですってぇ……!?」
「こ、こら。ロハーナ……」
「……申し訳ございません」
バモットは話題を切り替えることにした。
「しかしウリア様。その……。領地を譲れという話でしたら、当主様と共に来るべきかと思うのですが……。なぜウリア様お一人で?」
「社会見学よ。練習ってやつね。私も、もう十五歳。三か月後には結婚を控えているの。領民の税金の取り立てくらいは、一人でできるようになっておかないと……。ってなわけで、手始めに男爵家との交渉を始めたってわけ!」
バモットもロハーナも、頭の中が疑問符で埋め尽くされていた。
男爵家の領地を取り上げることが、なぜ領民の税金を取り立てる練習になると思っているのだろうか。
しばらく考え、ロハーナはようやく理解した。
「……そのように、横暴な態度で領民と接しているのですね」
そして、ため息をつく。
「横暴? 何を言っているのよ。領民は恐怖で支配するものじゃない。理由なんて必要無いの。搾取される側、する側。立場の違いなんだから。これがケイトハーグ家の教えよ」
「……そんな小さな背で、取り立てができますか?」
「はぁ!?」
ウリアが、手元にあった紅茶のカップを、ロハーナに向けて投げた。
中身こそ入っていなかったが、ロハーナが避けたことでカップが地面にぶつかり、割れてしまった。
「……弁償ですよ」
「うるさい! 男爵家の言うことなんて聞くもんですか! ……私を侮辱したことを後悔するがいいわ!!」
大声で喚きながら、ウリアは部屋をあとにした。
「……ロハーナ。君たちの相性が悪いことは知っているが、あの煽り方は酷いんじゃないか?」
「お父様。あれほどきつく言わないと、彼女はどこまでも傲慢な態度を取り続けます」
「はぁ……。しかし、厄介なことになったぞ。大人しく引き下がるとも思えん」
「何も心配いりません。……あの子程度がやることは、すでに予測済みですから」
ロハーナは不敵な笑みを浮かべた。
ケイトハーグ伯爵家の令嬢、ウリア・ケイトハーグは、舌ったらずな声で宣言した。
「……驚きました」
率直に感想を述べたのは、レンバルト男爵家の当主、バモット・レンバルトである。
「いきなり我が屋敷に、伯爵令嬢様がいらっしゃったので何事かと思えば……。なるほど、土地を譲れと申すのですね?」
「えぇそうよ。さっさと譲りなさい」
「ふふっ」
部屋の隅で小さな笑い声を出したのは、レンバルト男爵家の令嬢、ロハーナ・レンバルト。
ウリアはロハーナを睨みつけた。
「ロハーナ。何がおかしいの?」
「だって……。ご存じないのですか? 我がレンバルト家は、国王様直々にこの土地を任され、取り仕切っていますのに」
「そんなこと知ってるわよ。あなたの家が、無駄に王族から気に入られていることくらいね!」
「まぁまぁ……」
嫌味たっぷりに言い放ったウリアを、バモットが窘めた。
この二人は相性が悪い。できれば会話をさせたくないというのが、バモットの想いだった。
「男爵家なんかに任せてられないのよ! 我がザンベルブルグの港が、男爵家の領地などと知られれば、とんでもない恥なのよ!?」
「それは国王様に直接言えば良いのでは?」
「うるさい! 口答えするんじゃないわよ! 男爵家の令嬢如きが!」
「子爵家、侯爵家、公爵家からも、文句を言われたことなどありません。常日頃からちょっかいをかけてくるのは、ケイトハーグ伯爵家くらいのものです」
「なんですってぇ……!?」
「こ、こら。ロハーナ……」
「……申し訳ございません」
バモットは話題を切り替えることにした。
「しかしウリア様。その……。領地を譲れという話でしたら、当主様と共に来るべきかと思うのですが……。なぜウリア様お一人で?」
「社会見学よ。練習ってやつね。私も、もう十五歳。三か月後には結婚を控えているの。領民の税金の取り立てくらいは、一人でできるようになっておかないと……。ってなわけで、手始めに男爵家との交渉を始めたってわけ!」
バモットもロハーナも、頭の中が疑問符で埋め尽くされていた。
男爵家の領地を取り上げることが、なぜ領民の税金を取り立てる練習になると思っているのだろうか。
しばらく考え、ロハーナはようやく理解した。
「……そのように、横暴な態度で領民と接しているのですね」
そして、ため息をつく。
「横暴? 何を言っているのよ。領民は恐怖で支配するものじゃない。理由なんて必要無いの。搾取される側、する側。立場の違いなんだから。これがケイトハーグ家の教えよ」
「……そんな小さな背で、取り立てができますか?」
「はぁ!?」
ウリアが、手元にあった紅茶のカップを、ロハーナに向けて投げた。
中身こそ入っていなかったが、ロハーナが避けたことでカップが地面にぶつかり、割れてしまった。
「……弁償ですよ」
「うるさい! 男爵家の言うことなんて聞くもんですか! ……私を侮辱したことを後悔するがいいわ!!」
大声で喚きながら、ウリアは部屋をあとにした。
「……ロハーナ。君たちの相性が悪いことは知っているが、あの煽り方は酷いんじゃないか?」
「お父様。あれほどきつく言わないと、彼女はどこまでも傲慢な態度を取り続けます」
「はぁ……。しかし、厄介なことになったぞ。大人しく引き下がるとも思えん」
「何も心配いりません。……あの子程度がやることは、すでに予測済みですから」
ロハーナは不敵な笑みを浮かべた。
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