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エピローグ

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「おーいケイト! こっちも頼む!」
「わかった!」

バトラーと結婚して、五年が経った。

今や、村はどんどん大きくなり、かつての二十倍ほどの広さになった。
原因として、私の祈りが、作物を育てるスピードを、早めるというところにある。
優秀な研究者たちが、よりよい作物の種を、品種改良で作り上げるため、村を訪れたことがきっかけで、どんどん敷地を広げていったのだ。

仕事は忙しいけれど……。私の祈りで、作物がたくさん育てば、飢えは解消される。飢えがなくなれば、争いもきっと無くなるはずだ……。


「お疲れ様。ケイト」

一日の仕事を終え、私たち二人の家に帰った。

「ふぅ……。今日も疲れちゃったなぁ」
「お、おい……」

私は、体に力が入らないふりをして、バトラーにもたれかかった。
彼が薬指に付けている指輪は……。私が作った、魔法指輪だ。

魔力を元にしているから、そう呼んでいるけれど、実際は祈りを込めて作ったので、もっと違う呼び方の方がいいのかもしれない。

私の指にも、もちろん同じものが嵌められている。
二人が一生幸せで、仲良く、笑顔溢れる生活を送れますように――。
そんな祈りを込めて、作った指輪だ。

「そう言えば今日、遠くの国から、お礼の手紙が来たよ。胃の病気に効く薬草、飲んだら病気が治ったんだってさ」
「本当? 嬉しい……」

バトラーが、手紙を見せてくれた。
小さな女の子が、笑顔でピースしている写真が、一緒に添えられている。

品種改良で、傷を癒す薬草を、内臓により効くような作用を強めるように、研究を重ねていた。
五年かかってしまったけど、ようやく作ることができたのだ。

この調子で、あらゆる病気に効く薬を、それぞれ作っていけば……。病気で苦しむ人たちを、救うことができる。

「すっかり聖女様だよな。ケイト」
「そんなこと言ったら、バトラーだって、すっかり勇者だよ?」
「いや……。俺はただ、ケイトの傍にいるだけじゃないか」
「……それでいいの」

私はバトラーの胸に、顔を埋めた。一生懸命働いた、大好きな人の匂い。私はこれが、たまらなく好きだった。バトラーは嫌がるけど……。

「ケイト……。どうしてそうやって、匂いを嗅ぐんだよ」
「だって……。えへへ」
「全く……」

嫌がりながらも、バトラーは私の背中を優しく撫でてくれた。

「この写真の子みたいな笑顔をさ。たくさん作っていきたいよな」
「……うん。そうだね」
「よ~し。明日も頑張らないと。さっさと体を洗って、寝ないとな」

バトラーが立ち上がり、体を洗いに行った。

私はもう一度、写真に目を向ける。

世界中の子供たちを、笑顔に――。
それが私の、聖女としての使命だと思う。
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感想 33

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みんなの感想(33件)

ちーやん
2020.11.15 ちーやん
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冬吹せいら
2020.11.16 冬吹せいら

ご感想ありがとうございます!

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庵六
2020.10.03 庵六
ネタバレ含む
冬吹せいら
2020.10.03 冬吹せいら

ご感想ありがとうございます!

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伊予二名
2020.09.27 伊予二名
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冬吹せいら
2020.09.27 冬吹せいら

ご感想ありがとうございます!

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