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あなたはここにいる《後》1

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 何か、自分と繋がっている気がしてならないものがこちらへ近付いてくる。
 それが目に入ってきたとたん、心臓のあたりがしめつけられるように痛んだ。何だろう? 視界が悪いのでよくわからない。もっとよく見ようと目を細めているうちに、それが俺の胸に飛び込んできたので勢いあまって仰向けに倒れた。
 久しぶりに感じるこの気配。俺が感じることの出来る唯一の匂い。
「エミさま! よかったです、来て下さって!」
 モグラ男が騒いでいる。……これが? 本当にそうなのか? おそるおそる目を向けてその姿を確かめた。
 確かに彼女には違いないが、何かが違う。全然違うとも言えるし、何も違っていないとも言える。目の焦点が合うと、こちらを見上げる顔がようやくはっきり見えた。
 夢に出てきていたあの人と面影が似ているが、元のままのエミちゃんでもあった。髪の色は淡くなり、最後に会ったときは切り落として短かったのに、ほとんど元の長さに戻っている。瞳は黒というより紺に近かった。
 そして俺が知っている小さくて細い体ではなく、ひと回り背が高くなり、強く押しつけられた体の女らしさが布地越しに感じられてとてつもなく当惑した。
 それにしても俺の本能もたいしたものだ。まだ誰なのか認識していないのに、身のほうが先に気付くのだから。
 俺は近くで見ているモグラ男に聞いた。
「どうなってんだ? 何か……微妙に違うんだけど。成長してるし……。こっちじゃ十四日しかたってないんじゃないのか?」
「そうですけど、本体の近くにいるんですから元の形に近くなるのは当然でしょう。何を動揺されてるんですか? ダメですか、元に似てたら」
「ダメじゃない。ダメじゃないけど……これはこれで、問題だ!」
 昔疫神に、「この子はあなたの想像を絶するほど長く生きるかもしれない」と言われたとき、背中に汗が流れたほど嫌な気分になった。的中を予感したせいだが、実際途中でまったく彼女の成長が止まってしまったときはガッカリして涙が出た。絶対不老、超長寿が確定したからだ。
 成熟には老化が含まれているため、おそらく十五歳ぐらいの外見でかなり長い年月を過ごすことになるだろうと予測はしていたが、現実にそれを目の当たりにするとやはり受け入れるのに覚悟がいった。
 これで実年齢相応になってくれたのはいいが、独身男には目にも体にもいろいろ害がある光景と感触だ。それに俺が知っている彼女はどんなに久しぶりだろうが、軽々しく他人に抱きつくようなことはしなかった。しかも相手俺だぞ? 悲しく混乱しているとエミちゃんが「あれっ?」と言ってぱっと離れた。
「何か……何だろう」
「何がでございますか?」
「鉄哉、変だよ。何か……おじさんになってない?」
 おじさんか。俺は苦笑した。
「そりゃそうだよ。だって俺、もう三十一だから」

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