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8.溢れた血《5》
しおりを挟む鉄哉は帰り道も黙っている。新幹線では隣同士の席なのに、話しかけてくるなと言わんばかりに窓の外を向いていた。その頑固な態度にだんだん腹が立ってきたのと、沈黙を強いられることに嫌気がさしていたわたしは、新幹線を降りるなり彼にぶつけた。
「前から思ってたんだけど、どうしてあんたは自分の力を使おうとしないの? お金儲けしたり成績ごまかしたり、出来ることいっぱいあるじゃない。わたしはバカ力出したらみんなから怪獣みたいに思われるけど、あんたは違うでしょう」
鉄哉は立ち止まり、あわててホームを見回した。みんな先を急いでいるし騒音もあるので、会話を聞いている人はいない。鉄哉は小声で答えた。
「……金持ちになりたいわけじゃない」
「じゃ、なりたくなったら使う?」
「使わない」
「使う使わない以前の話か。自分の力を否定するのは何で?」
無表情を装っているが、あきらかにうろたえている。どうして突然こんなことを聞いてくるのかと思っているのだろう。
「答えたくないならいいけど」
「――俺の力は、今の時代に必要じゃないから」
答えてくれたのはいいが、そう考える根拠がわからなかった。
「必要じゃないって?」
「人間はいろんな願いや望みを叶えたくて努力してきた。飢えたくないとか寒い思いしたくないとか、病気を治したいとか長生きしたいとか。大昔なら俺の力は貴重だったと思う。エミちゃんだって力を隠す必要もなくて、神様みたいに大事にされたよ。
でも今はそうじゃない。俺がわざわざ見なくたって病気は病院に行けば見つかるし、天変地異も天が怒ってるせいじゃないってわかってる。エミちゃんが頑張らなくたって、ショベルカーやブルドーザーがあるわけだし。みんなで力を合わせれば、大概のことは何とかなるんだ。だから俺は力を使わない」
「この世の王にもなれるって言われて、その気にはならなかったの?」
「そんなの、せいぜい平安時代くらいまでの話だろ。今の時代に必要なリーダーは、俺みたいに天から降ってきたような力の持ち主じゃない。地から湧いてきたような生命力の持ち主なんだ。その人は物理的な悲惨さよりもっと根が深い、精神的な悲惨さを克服するために自分の命を使ってくれる。その人がもし俺の力を必要だって言ってくれるなら喜んで役に立つけど、そういう人はそんな力求めたりしないだろうし」
鉄哉は話は終わったというように歩きだした。そんなことを考えていたのか。わたしも黙り、切符を通して新幹線の改札を抜けた。駅の構内を移動しながら、頭の中で鉄哉の答えを反芻した。
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