わたしとあなたの世界は重なることがない

３．わたしたちを見ている人《３》

　今の朱眉の祖母にあたる先代の朱眉は生まれつき視力を失っていたが、相当以上に透視能力のある人だった。わたしは儀式のとき一度だけ彼女を見たことがある。おばあさんというよりおじいさんのような風貌、態度は高圧的で、わたしが物を言うと不快そうに顔をしかめていた。鞍橋の発展と維持に躍起だったのは、彼女がそこしか世界を知らなかったせいかもしれない。宗教的指導者というよりワンマンの経営者のようだった。
　朱眉というのは鞍橋という家から主に出る、特殊な力を持つ女性の名称だ。鞍橋にはかつて傍系の家が四つあり、それぞれ木島、常藤、白瀬、生島といった。生島は最も格下の家だったが、木島と常藤が明治大正にかけて家系が絶えてしまったので、現在は白瀬に続く第三位の家となっている。といっても全部で三つしかないから格上げされたとは言えないが。
　力を保つために、鞍橋は鞍橋か傍系の家としか婚姻関係を結んでこなかった。他の家もそれに近いことをしていたらしく、それを長く続けるうちに子供が生まれにくくなり、生まれても育ちにくくなっていった。もはや三つの家は人数的にも風前の灯だ。