6 / 52
5 三種の神器
しおりを挟む
次の日になると、お父さんとお母さんが長野の方から僕を迎えに来てくれた。
「和也、いったいどこに行っていたんだ?」お父さんは僕の顔を見ると真っ先にそう聞いた。
それはもっともな質問だったけれど、納得してもらえるような現実的な答えを僕は用意していなかった。
「美津子たちと……」
「どうやらお友達同士で家出ごっこをしていたみたいですね。それで化け物に襲われてしまったところを、うちの娘と出会ったみたいです」芹那のお父さんがそう言って助け舟を出してくれた。
「家出ごっこ? 二か月もの間か……」
「家出と言うのは、思春期の子供には憧れのようなものなんでしょう。反抗期や、親離れと言った、複雑で繊細な時期ですから、大人の思いもよらないことを思いつくようです。あ、いや、うちの娘もそう言う時期があったもので」芹那のお父さんが何を言っているのか僕にはよくわからなかったけれど、僕の味方をしてくれていることだけはわかった。
「それよりも和也、あなた美津子ちゃんと正人君がどこにいるかわかる?」とお母さんが唐突に聞いた。
美津子は、わかると言えばわかるし、わからないと言えばわからない……、けど、正人?
「正人がどうかしたの?」
「和也、一緒じゃなかったの? ちょうどあなたと美津子ちゃんがいなくなったころに、正人君もいなくなったのよ。学校の方から連絡があったの」
「わからないよ……」
「本当に?」
「うん。何も聞いてない」
「そう……、それなら仕方ないのだけど」
正人のことは、僕も気にしていたのだ。昨日の夜も何度かラインで呼び掛けてみた。けれど、一向に既読すら付く様子もなかった。一度、様子を見に行くしかない。けどもし、このまま僕はお父さんに長野の方に連れて行かれたら、もうこっちにいつ戻ってこれるかわからない。そんなことを考えていたら、「ところで和也君のお父さん、お母さん。もしよろしければの話なんですが……」と芹那のお父さんが、僕がまた元の学校に通えるよう、芹那の家に下宿してはどうかと提案してくれた。
「剣が欲しい……」
僕は結局、芹那の家に置いてもらえることになった。
学校までは少し遠いけど、バスを使えば通えないほどでもなかった。芹那ではないが、奈良県まで歩いたことを考えれば、バスと歩きで一時間の距離など、取るに足らない距離だった。
そしてその日の深夜、「これからの作戦会議をしましょう」と芹那が僕の部屋にやって来たので、僕はまず「剣が欲しい」と言ったのだ。
「剣?」
「うん。化け物を退治するために、剣がいるんだ。それに僕はもっと強くならなきゃいけない。そのためにも、練習しなきゃ」
「剣って、剣道の竹刀ならあるよ? 私、昔やってたから。すぐにやめちゃったけど」
「違うよ。本物の剣だよ。天叢雲剣があればいいんだけど、向こうの世界に置いてきちゃったから……」
「天叢雲剣? 草薙の剣だよね、あるよ?」
「へ?」
「その剣なら、熱田神社ってところにあるはずだよ」
「そ、そうなの!? どうして知ってるの?」
「だって三種の神器だもん」
「三種の神器?」
「そうだよ。知らないの? 持ってるくせに?」
「持ってる?」
「そうだよそれ、和也が首からかけてるの、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)でしょ?」
「え、こ、これが?」そう言って僕は首から八岐大蛇が化けた勾玉を取り出した。
「そうそう、それそれ。どうして和也が持ってるのか知らないけど、それってそうだよ。写真見たことあるもん」
「で、三種の神器ってなんなの?」
「日本に伝わる三つの宝だよ。天皇様が交代する時、皇位継承の一つとして受け継がれてきたんだ」
「三つって?」
「一つがその八尺瓊勾玉でしょ、もう一つが天叢雲剣、もう一つが八咫鏡だよ」
「じゃ、じゃあ、天叢雲剣は、天皇様が持ってるってこと?」
「ううん、持ってない」
「え?」
「本物じゃないってことだよ。レプリカなんだ」
「レプリカ?」
「そう。天皇様が持っているのは、本物に似せた偽物ってこと」
「じゃあ、本物はどこにあるの?」
「八咫鏡は三重県の伊勢神宮、天叢雲剣は愛知県の熱田神宮、そして八尺瓊勾玉は皇居……、にあるはずだけど、和也が持ってるからね。でもね、本物って呼ばれるそれらも、本当にそこにあるのかどうかはわからないよの」
「どう言うこと?」
「天叢雲剣は、壇ノ浦の戦いで海に沈められたまま見つけられず、いま天叢雲剣として保管されているものは別の剣だと言う話がある。八咫鏡にしても、何度も火事に遭ってて、今あるのは作り直されたものだと言われている。それにそもそも、天皇様でさえ本物を見ることは禁止されているの。だから確かめることすらできない」
「見た人がいないの?」
「そう。見ることが禁止されているの。天叢雲剣なんかは、それを見た人が祟られて、って話まであるわ」
「それじゃあいったい……」
「探すしかないわね」
「探すったって」
「まあまずは、熱田神宮にある天叢雲剣が本物かどうか確かめるって言うのはどうかしら」
「もし違ってたら?」
「そうね、わからないわ」
「はっきり言うね!」
「私の性格よ。けど、思い当たる場所はある」
「どこ?」
「壇ノ浦よ」
「壇ノ浦?」
「さっき話したじゃない。天叢雲剣は壇ノ浦の戦いで海に沈められたって。もし今あるのが偽物だとしたら、本物と入れ替わるのはそこしかないわ」
「海の底を探すのかい?」
「そうよ」
「どうやって?」
「わからない」
「そう言うと思ったよ」
「何とかなるわよ!」芹那はそう言ってにっこりと笑った。
「和也、いったいどこに行っていたんだ?」お父さんは僕の顔を見ると真っ先にそう聞いた。
それはもっともな質問だったけれど、納得してもらえるような現実的な答えを僕は用意していなかった。
「美津子たちと……」
「どうやらお友達同士で家出ごっこをしていたみたいですね。それで化け物に襲われてしまったところを、うちの娘と出会ったみたいです」芹那のお父さんがそう言って助け舟を出してくれた。
「家出ごっこ? 二か月もの間か……」
「家出と言うのは、思春期の子供には憧れのようなものなんでしょう。反抗期や、親離れと言った、複雑で繊細な時期ですから、大人の思いもよらないことを思いつくようです。あ、いや、うちの娘もそう言う時期があったもので」芹那のお父さんが何を言っているのか僕にはよくわからなかったけれど、僕の味方をしてくれていることだけはわかった。
「それよりも和也、あなた美津子ちゃんと正人君がどこにいるかわかる?」とお母さんが唐突に聞いた。
美津子は、わかると言えばわかるし、わからないと言えばわからない……、けど、正人?
「正人がどうかしたの?」
「和也、一緒じゃなかったの? ちょうどあなたと美津子ちゃんがいなくなったころに、正人君もいなくなったのよ。学校の方から連絡があったの」
「わからないよ……」
「本当に?」
「うん。何も聞いてない」
「そう……、それなら仕方ないのだけど」
正人のことは、僕も気にしていたのだ。昨日の夜も何度かラインで呼び掛けてみた。けれど、一向に既読すら付く様子もなかった。一度、様子を見に行くしかない。けどもし、このまま僕はお父さんに長野の方に連れて行かれたら、もうこっちにいつ戻ってこれるかわからない。そんなことを考えていたら、「ところで和也君のお父さん、お母さん。もしよろしければの話なんですが……」と芹那のお父さんが、僕がまた元の学校に通えるよう、芹那の家に下宿してはどうかと提案してくれた。
「剣が欲しい……」
僕は結局、芹那の家に置いてもらえることになった。
学校までは少し遠いけど、バスを使えば通えないほどでもなかった。芹那ではないが、奈良県まで歩いたことを考えれば、バスと歩きで一時間の距離など、取るに足らない距離だった。
そしてその日の深夜、「これからの作戦会議をしましょう」と芹那が僕の部屋にやって来たので、僕はまず「剣が欲しい」と言ったのだ。
「剣?」
「うん。化け物を退治するために、剣がいるんだ。それに僕はもっと強くならなきゃいけない。そのためにも、練習しなきゃ」
「剣って、剣道の竹刀ならあるよ? 私、昔やってたから。すぐにやめちゃったけど」
「違うよ。本物の剣だよ。天叢雲剣があればいいんだけど、向こうの世界に置いてきちゃったから……」
「天叢雲剣? 草薙の剣だよね、あるよ?」
「へ?」
「その剣なら、熱田神社ってところにあるはずだよ」
「そ、そうなの!? どうして知ってるの?」
「だって三種の神器だもん」
「三種の神器?」
「そうだよ。知らないの? 持ってるくせに?」
「持ってる?」
「そうだよそれ、和也が首からかけてるの、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)でしょ?」
「え、こ、これが?」そう言って僕は首から八岐大蛇が化けた勾玉を取り出した。
「そうそう、それそれ。どうして和也が持ってるのか知らないけど、それってそうだよ。写真見たことあるもん」
「で、三種の神器ってなんなの?」
「日本に伝わる三つの宝だよ。天皇様が交代する時、皇位継承の一つとして受け継がれてきたんだ」
「三つって?」
「一つがその八尺瓊勾玉でしょ、もう一つが天叢雲剣、もう一つが八咫鏡だよ」
「じゃ、じゃあ、天叢雲剣は、天皇様が持ってるってこと?」
「ううん、持ってない」
「え?」
「本物じゃないってことだよ。レプリカなんだ」
「レプリカ?」
「そう。天皇様が持っているのは、本物に似せた偽物ってこと」
「じゃあ、本物はどこにあるの?」
「八咫鏡は三重県の伊勢神宮、天叢雲剣は愛知県の熱田神宮、そして八尺瓊勾玉は皇居……、にあるはずだけど、和也が持ってるからね。でもね、本物って呼ばれるそれらも、本当にそこにあるのかどうかはわからないよの」
「どう言うこと?」
「天叢雲剣は、壇ノ浦の戦いで海に沈められたまま見つけられず、いま天叢雲剣として保管されているものは別の剣だと言う話がある。八咫鏡にしても、何度も火事に遭ってて、今あるのは作り直されたものだと言われている。それにそもそも、天皇様でさえ本物を見ることは禁止されているの。だから確かめることすらできない」
「見た人がいないの?」
「そう。見ることが禁止されているの。天叢雲剣なんかは、それを見た人が祟られて、って話まであるわ」
「それじゃあいったい……」
「探すしかないわね」
「探すったって」
「まあまずは、熱田神宮にある天叢雲剣が本物かどうか確かめるって言うのはどうかしら」
「もし違ってたら?」
「そうね、わからないわ」
「はっきり言うね!」
「私の性格よ。けど、思い当たる場所はある」
「どこ?」
「壇ノ浦よ」
「壇ノ浦?」
「さっき話したじゃない。天叢雲剣は壇ノ浦の戦いで海に沈められたって。もし今あるのが偽物だとしたら、本物と入れ替わるのはそこしかないわ」
「海の底を探すのかい?」
「そうよ」
「どうやって?」
「わからない」
「そう言うと思ったよ」
「何とかなるわよ!」芹那はそう言ってにっこりと笑った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる