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1 〜雪〜
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都会の中に自己主張せず、ひっそりと佇むBAR『バッカス』。ココには常連客が多いのだが、たまに迷い込んでくる者もいる。
迷い込んで来るのは果たして『バッカス』の導きなのかーーー?
「マスター、道端に人転がってますけど、ど~しますか?警察呼びますか?」
常連客の雪がカウンターに座った瞬間、開口一番に言う。雪は学生の頃から通っていてかれこれ5年程の付き合いになる。お客の意味で。
「雪はいつものモヒートな」
モヒートのカクテルには『心の渇きを癒して』と言う意味があるらしいが、コイツはココに通い始めてからまだ、癒されてないらしい。
慣れた手つきで混ぜ合わせ、最後に炭酸で割りミントを飾る。すっと雪の前に出し、カウンターの外に出る。
「ちょっと見てくるから、店頼んだ」
「はいはぁ~い」
京はそのまま店を出て行く。店を頼んだと言われても雪はカクテルを作る訳では無い。ただ店でゆっくりカクテルを味わっているだけ。もし客が入ってきたら『マスターは少し外出』と伝えるだけだ。雪にしても他の客にしても、たまにそうした場面には出会うので慣れたものだ。
数分後、京は小さな黒い物体を肩に担ぎ帰ってくる。長身で一見華奢な身体に見えるが『脱いだら凄いんです』の京は担いできたものをドサリと長椅子に横たえる。
「顔が可愛かったから拾ってきた。あんな所に転がってたらヤバいだろうよ」
「俺、避けて歩いてきたから顔見てないや。どれどれって、女の子?」
「だな」
「大方悪い男に引っかかって、強い酒飲まされて、襲われそうになった所を逃げてきたって所かなぁ?ああ、色々打撲になってる」
「とりあえず様子見だな」
奥の部屋から毛布を持ってきてかけてやる。
3時間経ったが、その子は起きない。
「もしかしたら変な薬でも混ぜられたんじゃないの?救急車か警察じゃない?」
雪の声を他所に、京は電話をかけ始める。
「あ、リク済まないが来てくれないか?道端に倒れてる女の子拾ったんだけど、もしかしたら酒に何か混ぜられたかも。拾って3時間経ったが起きないんだ。ああ、頼む」
「リクさんの出番なんだね」
「ああ、警察へは本人次第にした方がいいだろ?」
リクは学生時代からの悪友で、今は副業で医者をしている。普通に医者に連れて行けないワケ有りをお願いするのに重宝している。
電話をしてから10分後、リクは早くやって来た。
「丁度、スタジオから部屋に帰る所だったからね」
本業ミュージシャンのリクは話しながら意識が無い女の子の採血をし、身体の状態を観察していく。
「アルコールに大量の睡眠薬って感じかなぁ?分解する点滴するからね、あと身体冷やさない様にカイロない?」
タオルで包んだカイロを足首や脇の下に挟み身体を冷やさない様にする。
「点滴終わったよ~。朝にはスッキリ起きてくれると思うけど。俺もその辺で寝ていい?しばらく寝てないんだよね~」
言いながら床に転がる。
ため息をつき、京は奥からまた毛布を持ってくる。
翌朝、雪は帰って行ったので京とリクの2人で朝食を食べながら、女の子が起きるのを待つ。すると、ふわりと目が開く。
「あ、起きた?気分は悪くない?大丈夫?」
リクが声をかけると、一瞬ビクッとした表情を見せたが、周りを見渡し昨日の記憶も戻って来たようで
「すみません、ご迷惑をお掛けしました」
長椅子の上でペコリと頭を下げる。
京が道端で倒れていてここまで運んだ経緯を話し、警察を呼ぶかどうか聞いた所
「相手は見ず知らずの初めて会った男で、名前も知らないんです。ただ、美味しいお酒を飲みたかっただけなのに。警察はいいです。あ、お世話になってホントにありがとうございます。私、美嘉っていいます。今度、このお店に飲みに来てもいいですか?」
「ああ、暇な店だからいつでもおいでよ」
リクが笑いながら言う。
「酒飲む以外、楽しくはないかも知れないが、いつでもどうぞ」
京はショップカードを渡す。
「ありがとうございます、必ず来ますねっ」
美嘉は笑顔で帰って行った。
その翌日夜、雪とリクがカウンターで飲んでいると、美嘉がやって来た。
「あ、皆さんこんばんは。先日はお世話になりました」
と言いながら、京に少し高級なチョコレートを渡す。
「こないだのお礼なんですが、皆さんで召し上がって下さい」
「あ、美嘉ちゃん。こないだはもう帰っていなかったけど、第1発見者の雪」
「雪さん、ありがとうございました」
にこりと笑う美嘉に、雪はどきりとする。
「体調戻って良かったね。一杯ご馳走するね。マスター、美嘉ちゃんにカシスソーダで俺にはモヒートお代わり」
『ニヤリ』
京は意味深は笑みを浮かべる。
カシスソーダのカクテルの意味には『貴方は魅力的だ』の意味がある。果たして雪の想いは伝わるのか?
バッカスのみぞ知る。
迷い込んで来るのは果たして『バッカス』の導きなのかーーー?
「マスター、道端に人転がってますけど、ど~しますか?警察呼びますか?」
常連客の雪がカウンターに座った瞬間、開口一番に言う。雪は学生の頃から通っていてかれこれ5年程の付き合いになる。お客の意味で。
「雪はいつものモヒートな」
モヒートのカクテルには『心の渇きを癒して』と言う意味があるらしいが、コイツはココに通い始めてからまだ、癒されてないらしい。
慣れた手つきで混ぜ合わせ、最後に炭酸で割りミントを飾る。すっと雪の前に出し、カウンターの外に出る。
「ちょっと見てくるから、店頼んだ」
「はいはぁ~い」
京はそのまま店を出て行く。店を頼んだと言われても雪はカクテルを作る訳では無い。ただ店でゆっくりカクテルを味わっているだけ。もし客が入ってきたら『マスターは少し外出』と伝えるだけだ。雪にしても他の客にしても、たまにそうした場面には出会うので慣れたものだ。
数分後、京は小さな黒い物体を肩に担ぎ帰ってくる。長身で一見華奢な身体に見えるが『脱いだら凄いんです』の京は担いできたものをドサリと長椅子に横たえる。
「顔が可愛かったから拾ってきた。あんな所に転がってたらヤバいだろうよ」
「俺、避けて歩いてきたから顔見てないや。どれどれって、女の子?」
「だな」
「大方悪い男に引っかかって、強い酒飲まされて、襲われそうになった所を逃げてきたって所かなぁ?ああ、色々打撲になってる」
「とりあえず様子見だな」
奥の部屋から毛布を持ってきてかけてやる。
3時間経ったが、その子は起きない。
「もしかしたら変な薬でも混ぜられたんじゃないの?救急車か警察じゃない?」
雪の声を他所に、京は電話をかけ始める。
「あ、リク済まないが来てくれないか?道端に倒れてる女の子拾ったんだけど、もしかしたら酒に何か混ぜられたかも。拾って3時間経ったが起きないんだ。ああ、頼む」
「リクさんの出番なんだね」
「ああ、警察へは本人次第にした方がいいだろ?」
リクは学生時代からの悪友で、今は副業で医者をしている。普通に医者に連れて行けないワケ有りをお願いするのに重宝している。
電話をしてから10分後、リクは早くやって来た。
「丁度、スタジオから部屋に帰る所だったからね」
本業ミュージシャンのリクは話しながら意識が無い女の子の採血をし、身体の状態を観察していく。
「アルコールに大量の睡眠薬って感じかなぁ?分解する点滴するからね、あと身体冷やさない様にカイロない?」
タオルで包んだカイロを足首や脇の下に挟み身体を冷やさない様にする。
「点滴終わったよ~。朝にはスッキリ起きてくれると思うけど。俺もその辺で寝ていい?しばらく寝てないんだよね~」
言いながら床に転がる。
ため息をつき、京は奥からまた毛布を持ってくる。
翌朝、雪は帰って行ったので京とリクの2人で朝食を食べながら、女の子が起きるのを待つ。すると、ふわりと目が開く。
「あ、起きた?気分は悪くない?大丈夫?」
リクが声をかけると、一瞬ビクッとした表情を見せたが、周りを見渡し昨日の記憶も戻って来たようで
「すみません、ご迷惑をお掛けしました」
長椅子の上でペコリと頭を下げる。
京が道端で倒れていてここまで運んだ経緯を話し、警察を呼ぶかどうか聞いた所
「相手は見ず知らずの初めて会った男で、名前も知らないんです。ただ、美味しいお酒を飲みたかっただけなのに。警察はいいです。あ、お世話になってホントにありがとうございます。私、美嘉っていいます。今度、このお店に飲みに来てもいいですか?」
「ああ、暇な店だからいつでもおいでよ」
リクが笑いながら言う。
「酒飲む以外、楽しくはないかも知れないが、いつでもどうぞ」
京はショップカードを渡す。
「ありがとうございます、必ず来ますねっ」
美嘉は笑顔で帰って行った。
その翌日夜、雪とリクがカウンターで飲んでいると、美嘉がやって来た。
「あ、皆さんこんばんは。先日はお世話になりました」
と言いながら、京に少し高級なチョコレートを渡す。
「こないだのお礼なんですが、皆さんで召し上がって下さい」
「あ、美嘉ちゃん。こないだはもう帰っていなかったけど、第1発見者の雪」
「雪さん、ありがとうございました」
にこりと笑う美嘉に、雪はどきりとする。
「体調戻って良かったね。一杯ご馳走するね。マスター、美嘉ちゃんにカシスソーダで俺にはモヒートお代わり」
『ニヤリ』
京は意味深は笑みを浮かべる。
カシスソーダのカクテルの意味には『貴方は魅力的だ』の意味がある。果たして雪の想いは伝わるのか?
バッカスのみぞ知る。
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