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 割れたグラスの上に倒れ混みそうになったセイラを、騒ぎを聞きつけた長身の男性が抱えこみ、怪我が増えるのを防いだ。

「あ・・・、ああ、大丈夫かしら・・・?」

 グラスを投げつけた令嬢がセイラに近寄り、手を握りしめる。

「救護室に運ぶから、どいてくれないか?」

 セイラを抱えた男性が、令嬢に冷たく言い放つと、さっと立ち上がり、しっかりした足取りでセイラを運んでいく。

 ニヤリと笑った令嬢の顔を見たものは1人も居なかった。既に、セイラに難癖を付けていた者達は姿を消していた。




 令嬢はサッとその場から立ち去り、ある人の元へと向かった。そして、

「順調に進みましたわ。こちらをー」

 手に握りしめていたものを、その人物に手渡した。

 2人は、ニヤリと微笑んだ。




 救護室に運ばれたセイラは意識が戻らないままに、手当を受ける。王子の婚約者である為、今の所、国唯一の治癒魔法師が呼ばれる。セイラはまだ勉強中の為、治癒魔法師としては活動してはいないが、お互いに面識はある。

「まあ、セイラさんっ!!何て事に・・・」

 すぐさま治癒魔法師であるミリーは、セイラに向けて治癒魔法を発動した。王宮で働く治癒魔法師のミリーは主に王族やソレに準ずる者の為に働く。市民達には、治癒師と呼ばれる治癒魔法師よりも力の発動が少ない全く別の力の者達が治癒に当たっている。

 ほんわりとセイラの身体が光、身体に付いた傷が塞がって行くが、衣服に付いた血はそのままだ。

 セイラの怪我が治った事を確認したあと、長身の男性がセイラに手を翳すと、血で汚れ、グラスの破片で切れていたドレスが元通り綺麗になる。

「流石ロレンツォ様ですね。巻き戻りの魔術は久しぶりに拝見しました。しかし、セイラさんに何が起こったのですか?王子の婚約者であるのに」

 ミリーは眦を下げ、眠ったままのセイラを見つめた。

「マリウスはどうしてしまったのだろうな?あいつが望んだから、セイラ嬢はしなくてもいい苦労をして来たと言うのにな」

 ロレンツォは呟いた。





 目を覚さないセイラは、その後ロレンツォの手により、伯爵家に運ばれた。




 ゆっくりと意識が浮上して目が覚める。

 いつもの自分の部屋だ。

 え?自分の部屋!?

 ベージュを基調とした落ち着いた部屋。両親、兄、メイド達にもピンク色を勧められても、落ち着いた色を選ぶ傾向がある。

 未婚の令嬢らしからぬ、レースもフリルも控えられた部屋の様子はセイラの好みだ。

 ガバッと起きた途端に、グルグルと頭が痛くなる。

 だ、ダメだわ。もう一度、横になりたいわ。

 


 

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