貴方の手のひら

ゆきりん(安室 雪)

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 操作の説明を終えた青木さんは隣の席に戻っていく。

 ふぅ、ドキドキしたのは私だけだよね。青木さん、いつもの顔だし。教えてもらった操作を活用し、図面を仕上げて行く。

 

 終業後、帰り支度をすると出口で青木さんと一緒になる。駅まで仕事以外の事を話しながら向かう。バイク乗りらしい、実は私も乗っていたと話すと話が盛り上がる。私は街乗りだったけど、青木さんは旅にでたりもするようで、聞いていて楽しい。

 同じ電車に乗るが、青木さんは用事があるからと繁華街のある駅で降りて行く。

 そうだよね~、今日は金曜日だし彼女と待ち合わせかなぁ?羨ましいなぁ、彼女さん。



「青木さん、何で彼女作らないの~?」

 突然そんな話が耳に入る。青木さんの向こうに座ってる清田さんの声だ。

「ね~、渡部さん、ど~思う?」

 話題を振られる。

「え、青木さん、彼女いないんですか?モテそうなのに?」

 金曜日は友達と会ってたって事かな?

「まあ、俺モテないし」

 ははっ、と笑う。

「渡部さん、もしフリーだったらどお?」

「はぁ?フリーですけど、お断りされそうだからこの話は無かった事で~っ」

 と会話から離脱する。

 ホント断られたら気まずいでしょ。案外この仕事気に入ってるんだから、風波立てないでほしいなぁ。



 その日の帰り、またまた青木さんと一緒になる。駅までの道のり、ちょっと気まずいなぁ。何話そうかなぁ?

「さっきの話し」

 青木さんが切り出す。

「え?」

「渡部さん、彼いないの?」

「いないね~」

「作らないの?」

「うん、まあ。持病があって。よく体調崩すんだ。そうするとデートのドタキャンする事多くって。で、長続きしなくてね。何だか面倒くさくなって、1人の方が気が楽かなって」

「俺もね、足に持病があるんだけど。ま、持病は一生付き合って行くしかないからね~。持病仲間で、俺と付き合わない?俺、まだあんまり渡部さんの事知らないけど、ゆっくり知っていきたい。俺の事も知ってもらいたい。好きなんだ」

 いつの間にか両肩をガッシリ捕まれ、真剣な眼差しで見つめられる。

「えっ、でも私の持病ちょっと厄介で」

「大丈夫、それごと受け入れる。俺と付き合って欲しい」

 再度真剣に言われる。

「はい。お願いします」

 緊張しながら答える。

「ありがと、ゆきの」

 いきなり名前を呼ばれドキドキしていると、青木さんはゆっくり顔を近づけ軽く『チュッ』とキスしながら大きな掌で頭を撫で回すのだった。



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