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第95話

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『ギシャアァァーーッ!!!』

 街を襲っている巨大なモンスター。それは、今視界に入っている西洋風な城と同じくらい巨大なものであった。
 禍々しい黒と紫の建造物を背負う甲殻類のヤドカリは、ハサミを使って建物を破壊して回っている。

「……ねぇさくたん。よく見たらさぁ、あのヤドカリが背負ってんのってじゃない?」
「えっ? ……た、たしかによく見てみたらそれっぽい気がしてきた……」

 よく目を凝らして見てみると、ヤドカリが背負っている建造物は城の特徴を持っているし、悪魔のような人物の顔があったりと。魔王城と言われたらそうにしか見えないものだった。
 「魔王を倒すという正攻法は不可能近い」と言っていたが、隠しボスらしきモンスターに本拠地が乗っ取られているのだ。僕とルハは彩芭さんを白い目で見たのだが、彼女は既に白目を剥いていた。

◆騙されたなサクたん!
◆どちらかというと彩芭に騙されてんだよなぁ……
◆魔王城ヤドカリどうやって倒すつもりなんw
◆デカァーーイ! 説明不要ッ!!
◆隠しボスだけあって圧えっぐww
◆〝無敵要塞〟っていう異名もあるぞい
◆脚チクチクで削るのかね
◆地味な絵面になりそうだねぇ

「とにかく倒しに行こう! 多分あれはボスだし、僕の体質も影響しないかもしれないから気をつけてこ!!」
「わかった。さっきの戦闘で経験値稼げて【忍術】とか【ワイヤー術】とかがだいぶ上がってるけど……倒せるか微妙な気がする」
「ちょ、ちょっと待ってよーー! ワタシを置いていかないでちょうだい!!!」

 街に向かって走っていると、警告音とともに半透明のプレートが現れる。

〈【特別クエスト】隠しボス:シロウバイから街を救え! このクエストを受注しますか? YES/NO〉

 シロウバイというのがあのモンスターの名前だろう。街で装備とかも買いたいと思っていたし、受ける以外ない。僕はYESのボタンをタップし、クエストを受注した。
 街に近づくにつれて人々の悲鳴や轟音が大きくなる。さらにモンスターの大きさが改めて実感できるが、これはあまりにも大きすぎる気がした。

「テイムしたモンスターでも倒せるくらいの火力出せるかなぁ……」
「正直、厳しい戦いになる気がするね」
「あばばばばばば! デカすぎでしょこのヤドカリ!! ワタシ甲殻類アレルギなのにーーっ!!」
『ギギギ……ギシャアアアアア!!』

 ヤドカリは脚元にいる僕たち気がつき、戦闘が始まる。スピードはあちらが上らしく、ルハに一本の鋭い脚が伸びて先制攻撃を仕掛けられていた。
 貫くつもりだったらしいが、ルハは指先からワイヤーを放出して対応する。

「〝煉華殺法れんげさっぽう〟――【嵐喰子アラクネ】」

 ――ズババババババッ!!

 迫ってきていた脚はルハのワイヤーによってバラバラにされ、ヤドカリにダメージが入った。
 だが、緑色の体力バーはほんの少ししか削られておらず、斬り刻まれた脚も脱皮で再生しそうな予感がする。

◆【速報】サクたん一行大ピンチ
◆久々に手に汗握る戦いしてるなぁ
◆ボスだからサクたんにも敵対するんやね
◆サクたん伝説もここでおしまいか?w
◆おいバカフラグを立てるな!
◆馬鹿デケェ脚を斬り刻めるのも大概化け物ェ……
◆お前ら、顎を外して座して待て

「あ、あんなの倒しようがないじゃないの!!」
「あはは! 流石におっきすぎますよね~」
「なんでこの状況で笑ってるのよ!?」

 彩芭さんと呑気に話している中、ルハはジッとこの街にある大きな城を見つめていた。そして、こんなことを言ってくる。

「二人とも、一つやってみたいことがある。少し時間とお金がかかるかもなけど、それまで耐えててほしいんだけど……」
「わかったよ! ここは僕たちに任せて!!」
「うぅ……死なない程度に頑張るわよぉ……!」
「ん、二人ともありがと。恩に着るっ!!」

 シュバッと音を立てて戦線から離脱した。
 直後、「ルハが戦闘から退却した」というアナウンスが脳に響く。ここからは、僕と彩芭さんだけでこのモンスターの攻撃を凌ぐしかないということだ。

「さて、こっからどうしましょーか!」
「作戦とかないの!?」
「まぁ敵が大きすぎますし、〝鍵〟もないわペットたちもいなわで全力出せませんからねぇ……」
「ワタシも〝カセットテープ〟があれば全力を出せるのだけれど……。お互い難儀ってやつね!」
「そうですね!」

 ――ギギギ、ギチギチギチ……!!

 そんな話をしている中、ヤドカリの方から変な音が聞こえ始める。
 顔をそちらに向けると、自分のハサミを大きく振り上げて横に薙ごうとしているように見えた。

「「あばばばばばばばば!?!?」」

 そういえばまだ相手のターンだったと気がつき、僕らは抱き合ってガタガタと震え始める。

「どどどっ、どうしましょう!? よ、避けないといけないですよね!?」
「そそそっ、そうね! とりあえずワタシの背中に乗りなさい! あなたはスピードが遅いし、何より子供は大人が守るものよっ!! ほら、遠慮せずに早く!!」
「彩芭さん……! ありがとうございます!!」

◆なんでコイツ悪役やってんの?(n回目)
◆素が出れば出るほど良い人度上がんの草
◆彩芭ラプソディーはままならない
◆二人とも仲良しだね^^
◆ラプサクてぇてぇだと……!?
◆↑どこぞの氷結モフキメ美少女配信者が嗅ぎつけてきそうだからやめとけw

 まるで悪役とは思えない圧倒的善人な発言をする彩芭さんに感銘を受けながら、僕は彼女の背に乗っかった。
 そして、彩芭さんは踏ん張って高く跳躍する。次の瞬間、ハサミが横に薙いで地面を抉った。巻き込まれていたら一瞬で死んでいたかもしれない。

『グギギ、ギギギシャァーー!!』
「嫌ぁーー!! それだけで攻撃終わりじゃないの!?」

 ヤドカリは自由落下している僕たち目掛け、ハサミで掴もうとしてきていた。

「っ……! メタルもちりんたち! 【鉄壁防御】!!」

 手のひらからテイムしたメタルもちりんたちを大量に召喚し、僕たちを包んでハサミの猛攻を耐え凌ぐ。
 メタルもちりんは防御力には自信があるモンスターらしいが、隠しモンスターの攻撃だけあって中々のダメージが通っている。

 必死に攻撃を耐えている中、突然プレートが現れて次のようなことを映し出してきた。

〈ルハは99999ゴールドを支払った!〉

◆ルハたそ散財してるww
◆そんな子に育てた覚えしかありませんっ!
◆仲間ほっぽって遊んでるんか~?w
◆いや逆にカンストするほどの買い物って何!?
◆ちょっと怖くなってきたんだが
◆ヤベーもん持ってきそうだな!
◆この三人の中で一番のアウトロー、ルハ

 何を買ったかめちゃくちゃ気になるけれど、多分必要経費なんだろうと信じている。

 ルハの散財に気を取られている間に外からの攻撃音は鳴り止んでおり、メタルもちりんの防御状態を崩してもらって外に出た。
 だが、それは間違いだったということにすぐ理解する。

 ――キュイィィィン……!!!

 ヤドカリのハサミによる攻撃は止んだ。しかし、ヤドカリが背負っている城に付属している大きな大砲が、紫色の光をチャージしていたのだ。

「あ……あれは、やばいですね……」
「し、死んだわね……」

 メタルもちりんでも防ぎきれないと直感でわかるほどのやばい代物。
 その大砲の光が臨界点まで達し、とうとう放たれて終わりかと思われたその瞬間だった。

 ――ドッゴォオオオオオオオンッッ!!!!

 轟音が響き渡る。
 それは大砲から放たれたものではなく、だった。

『――……二人ともお待たせ。すごいお金かかっちゃったけど、相当なものが用意できた』
「ルハ……!? そ、それって――!!」
『そう。この街の観光名所のを買って改造した。――にね……!!』

 先程まで街の中心にそびえ立っていた大きな城。それは面影を残しながら、
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