上 下
48 / 64
連載

第83話

しおりを挟む
 一見白い大きな建物の水族館だが、ダンジョンと同化しているということで中は見かけよりも遥かに広いらしい。
 受付の人に確認をしてもらい、水族館の中に入った。一応とのことで、この水族館の館長さんにも同行してもらっている。

「水族館初めてだから楽しみだな~」

:そうなん?
:意外だね
:意外っつーか普通一回くらいは行くのでは……?
:色々あんねんな
:まぁサクたんが行ったら大混乱になりそうではあるw
:なりそうというかなるだろ

 今日一日は貸切状態なので、僕は以外の人はいない。暗い廊下を歩き続けていると、一気に視界がひらけて青い世界が広がり始めた。
 ドーム状の水槽……ではなく、。上下左右がガラス張りで、水中を歩いているような気分だ。

「お~、すごい!! お魚がすごいたくさんいるけど……なんか、ちょっと怖いかな……」

 ――ドドドドドドドド!!

 水槽を優雅に泳ぐ魚は存在せず、僕めがけて突撃しようとしてガラスにキスをしている魚しかいない状況である。
 僕がテレビ番組とかで見ていた水族館とは違う気がする……。

:ほ~れ、みたことかww
:草
:怖すぎて漏らしてマンション水没したわ
:↑テメェ災害起こす幻獣かよ
:デートスポットとは思えぬ光景だ
:足視点のドクターフィッシュかな?w
:ここってキャッチコピーが「幻想的な青き水族館ダンジョンをあなたに」だけど……
:魑魅魍魎みてぇだな!!
:こwれwはwひwどwい
:案件くれた水族館のイメージダウンさせるサクたんマジかw
:後ろで歩いてる館長さん吹き出してたワロタ
:こんなん笑うしかねぇだろ

「まぁ、サクたん君が来る時点でなんとなく予想してたけどね……」
「みんなー、嬉しい気持ちがあるのかもだけど、今日は自然体にしてて! 案件だから!」

 僕がガラス越しにそう伝えると、魚たちはそそくさと解散して優雅に泳ぎ始める。チラチラとこちらの様子を伺ってきている気がするが、まぁこれくらいは大丈夫だろう。
 こうして見てみると、多種多様な魚たちがいる。熱帯魚やサメはもちろん、普通の水族館にいるはずのないクジラなども泳いでいた。

「ダンジョンと同化することで水深の限界や広さが増してクジラも普通に泳げてるらしいわ」
「ここだけでしか見られないんですね。綺麗だな~」

:おお、案件っぽい
:一時はどうなるかと思ったなw
:冷や汗かいたぜ……
:サク民からすると案件配信はヒヤヒヤするよ
:子供の初めてのおつかいってこんな感じなのか
:俺たちはサクたんのママだった……!?
:刹那、サク民に存在しない記憶が溢れ出す

 ドーナツ型水槽にいる魚やクジラに別れを告げ、さらに水族館を進む。
 水槽が沢山ある空間で、魚や甲殻類、巨大魚にリヴァイアサンや人魚などがそこにいた。

「……ん? リヴァイアサンや人魚……?」

 思わず二度見した。そこには、大氾濫スタンピードの時に戦った魔物と酷似している生き物や、下半身が魚の人が歌って泳いでたりしていたのだ。
 他にも、日本刀みたいな刃を持つノコギリザメのようなサメや、魚のヒレのような尻尾をしている犬が泳いでいたりしている。

「そうよ。ここは動物、魔物、人間が共存してる理想郷ユートピアのような場所なの。敵対する魔物は出現しないらしいわ。誰でもサクたん君と同じように魔物と触れ合えるってことよ」
「へー! すごいダンジョンですね! 魔物のみんなもこんにちは~」
『グォオオオオ』
『~~♪』

 みんな楽しそうに水槽内を泳いでいるし、飼育員さんと楽しそうな遊んでいる姿も見れたから嫌々というわけでもなさそうだ。
 ダンジョンは生き物や土地の思いが強く反映される。ここはみんなが仲良くしてほしいという思いが反映された結果なのだろうと、先ほど館長さんに教えてもらった。

:ちなガチで行った方がいいゾ
:普通に楽しめるよね
:ってか人魚が歌うことって滅多に無い気が……
:結構貴重だよww
:さすサク!
:人魚可愛いなぁ
黒狐の幻獣解説ch:儂もサクたんと共に行きたかったんじゃがな……(´・ω・`)
:黒狐たん最近出番ないよねw
:お労しや黒狐……

 天宮城さんの解説を交えながら水族館の順路を辿って行く。水槽越しに挨拶や求愛行動をされたりするが、丁重にお断りしてして進み続けた。
 そして、僕らはとある部屋の前まで到着する。

「なんか透明な膜みたいなのがありますね? ここ通るんですか? なんか先が見えなくて怖いですね……」
「大丈夫よ。さ、行きましょ」
「え、あ、はい」

 天宮城さんは楽しそうに笑みを浮かべながら僕の手を握り、前へと引っ張ってくれた。


 # # #


 ――水族館内のスタッフルームにて。
 職員らしき人々が集い、なんらかの集会をしていた。

「よしお前ら、準備はできているな? これから……!!」

 十人ほどいる彼らはここで働く水族館の職員……というわけではなく、逃亡に成功した残り一割のシャドウファングの構成員である。

「もう俺たちのクラン、シャドウファングはおしまいだ。だが……だが、このままやられっぱなしで捕まるのなんて嫌だろう!? ならば最後くらい、一矢報いようではないかッ!!」
「「「「「おーー!!」」」」」

 腐っても上澄みだったクランだけあり、こっそりと潜入をするための魔道具なども兼ね揃えていた。
 何も失うものがなくなった彼らは無敵の人となり、後先のことを考えずに復讐心に支配されている。

「案件配信をめちゃくちゃにするぜ……!」
「俺らの拠点に襲撃してきたことも伝えられたらいいな」
「ぐっちゃぐちゃにしようよ」
「俺ぁあまみやちゃんに告白してくるわ」
「は? お前抜け駆けしようとすんなよ」

 無敵の人は何をしでかすかわからず、恐ろしいものだ。だが、本当の無敵の人をこの構成員らは知らない。
 この水族館は動物、魔物、人間の理想郷ユートピアだ。しかし、それを壊そうとする異分子が現れた場合には、排除をしようとが動き始める。この事実を、彼らは直に知ることになるだろう……。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。