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1巻
1-1
しおりを挟む第1話
「ダンジョン用配信カメラ?」
僕、藍堂咲太は、友人から手渡されたものを受け取り、素っ頓狂な声を出していた。
今は放課後であり、「放課後いいもんやるよ!」と言われて渡されたのがこれだ。
友人の名前は、高力涼牙。
茶髪で眩しいオーラを放つ彼は、小学校からの仲である。
「その通り! 俺がちょっと前に買って、これでダンジョン配信しようと思ってたんだが、機械音痴なの忘れてたぜ!」
「それなら僕がやり方教えるけど……」
「いや、もうダンジョン配信飽きた!!」
「まだ始めてないのに!?」
昔から飽き性だったけれど、最近それに拍車がかかってきているような気がする……。
涼牙、色々と大丈夫なのかな……。
斜陽の光が窓から差し込む教室の中、僕は膝の上の猫を愛で、頭の上に居座るアヒルを感じ、首に巻きつくヘビから凝視されながら、友人の心配をしていた。
「しかも、だ。俺がするよりサクタが配信する方が映える! なんせお前は、〝男なのに美少女の見た目〟だけでなく、〝動物に好かれまくる体質〟を持ってるからな!!」
「そうなのかな?」
『にゃーお』
猫を撫でつつ僕は首を傾げた。
そう、僕は動物に好かれまくる体質を持ってる。
ゆえに、道を歩けば犬に当たる(当たってくる)。猫は、僕に乗る(膝に乗ってくる)。窮鼠、僕を頼る(猫に追いかけられたネズミが僕に隠れてくる)。エトセトラ、エトセトラ……。
おかげで毎日楽しく過ごせているけれど、ダンジョンにそれは通用するのだろうか。
ちなみに、ダンジョンというのは、約五十年前に突如として地球に現れた、謎の洞窟のようなもの。
そこには、未知の生物である魔物と呼ばれる存在がいたり、超レアなお宝があったりと……。
世界は、そんなダンジョンを有効活用しようと、ダンジョン攻略の職を作ったりしたんだけど、そんなこんなでお金稼ぎをする人も現れた。
なかでも今流行っている職業は、ダンジョン攻略の様子を生配信する〝ダンチューバー〟である。
「うーん……。でもこのカメラって高いよね?」
「俺にゃあ端金だぜ。ダンジョンで倒した魔物の素材ってめちゃくちゃ高く売れるし! だから心配すんなって」
「わっ、ちょ、撫でんな!」
涼牙としては全く問題ないらしいので、僕はダンジョン用のカメラをありがたくもらうことにした。
「んじゃ頑張れよー! 俺は苔テラリウムに挑戦すんのに忙しいからまたな!」
「ばいばい。……また変わった趣味始めてる……」
まぁ何はともあれ、今の僕は特にすることがなく自堕落な生活を送っているし、早速配信を始めてみようかな。
そう意気込んだ僕は、急いで家に帰ったのだった。
# # #
家で〝DunTube〟という動画配信アプリに自分のチャンネルを開設してから、ダンジョンへと向かう。
涼牙から「初めて潜るならEランクダンジョンにしとけよ~」と言われたので、家の近くにあったEランクダンジョンに潜ることにした。
「ここがダンジョンかぁ。興味なくて一度も入ったことなかったんだよなぁ」
目の前には大きな洞窟の入り口がある。
巨大な生き物の口に見えて、今にも吸い込まれそうだ。
「よし、じゃあ早速やってみよう! えっと、ここのボタンを押して、次はここで……。じゃあ、配信スタート!」
フヨフヨと宙に浮くカメラのボタンを押し、配信をスタートさせた。
「皆さんこんにちはー! 初めましてサクたんです!」
――同接数0人
「…………まぁ、なんのお知らせもなしにスタートしたらこうなるよね。いや、でもダンジョンを楽しむっていう目的もあるし、別に問題ない!」
そう自分に言い聞かせて、僕はダンジョンの中に入るのであった。
# # #
――同時刻、同ダンジョン内にて。
『ギャッ!』
『グキャァア!』
『グガガァ……』
「ふぅ。ざっとこんなもんね」
なんの変哲もない地面から、氷の柱が突き出ており、緑色の体をした邪悪な顔の魔物――ゴブリンが串刺しにされている。
そんなゴブリンを見つめるのは一人の美少女、とダンジョン用のカメラだった。
鎖骨あたりまで伸びる、赤のインナーカラーが入った銀髪と、宝石のような青い瞳を持つ容姿端麗な少女だ。
:ナイス
:瞬殺で草
:あまみやちゃんにかかりゃこんなもんだろ!
:ゴブリンになればあまみやちゃんに痛めつけてもらえるっ!?
:魔法使えるのすげー
:今日も可愛い結婚してくれ
:素材回収しないの?
:ドヤ顔かわよ
:強い
「…………」
滝のように流れるコメントの数々。
そう、彼女もダンジョン配信をしているダンチューバーである。
――同接数1・9万人
――チャンネル登録者182万人
咲太と同じ配信者だが、天と地ほどの人気差があることは確かだ。
「……なんか、嫌な予感するわ」
:どうした?
:嫌な予感だって
:ここEランクだろ?
:気のせいじゃない?
:俺はあまみやちゃん信じるゾ
:なんか、マジでへんな音しね?
ダンジョンの奥から、唸り声と地面が揺れるほどの足音が聞こえてきた。
奥から現れたその正体とは……。
「な、なんでここに……レッドドラゴンが……!?」
:レッドドラゴン!!?
:ここEランクダンジョンだろ!
:やばいって
:あまみやちゃん逃げて!!
:応援呼べ!
:終わったww
:Aランクは無理だ
『ガアァァ……!!!』
全身にまとう赤い鱗、鋭い爪や歯、背中から生える二対の翼……。
そこには、Eランクダンジョンには存在しないはずの、ドラゴンがいたのだ。
# # #
僕、咲太が歩き続けること数分、何もない。
視聴者が増えるわけでもないし、魔物一匹すら出てきやしない。
ただ黙々と暗い道を歩くだけの、地味~な絵面だ。
(ダンジョンってもっと魔物が出てくるイメージあったんだけどなぁ……。ここは出ないのかな?)
そんなことを思いながら歩いていると、何やら奥の方から誰かの声が聞こえ、地響きがした。
早歩きをして音の方に近づいてみる。
そこにいたのは、尻餅をついている一人の女の子と巨大な何かだった。
『グルァア……!!』
「っ! な、何してるのよ、貴女、早く逃げて助けを――」
赤い鱗、鋭い瞳、巨大な体格、ツノや尻尾。
これらを見て僕は、心の底からこみ上げてきたたった一つの感情を、そのまま言葉に出した。
「カ――カッコいい~!!」
「は……?」
そして目を輝かせ、駆け足でその魔物に近づく。
すぐ近くで腰が抜けているであろう女の子は、目の前のことが何も理解できないと言わんばかりに動けずにいた。
「すごいねこの鱗! しかもおっきい! トカゲ? なのかなぁ?」
『グルルル……』
「ん?」
トカゲと言うにはあまりにも巨大すぎるその魔物は、僕を目の前にすると、高い頭を下げて近づけ、スリスリと頬ずりをしてくる。
ツノを撫でてみると、目を細めて尻尾をゆらゆら揺らした。
ガンガンと地面に尻尾が当たるたびにダンジョンが揺れる。
嬉しいのだろうか?
「このトカゲ? すごい人懐っこいんだね。可愛いな~」
『グルルルゥ……♪』
「ふふふ、ここが気持ちいいんだねぇ」
数分撫で回していたら、赤いトカゲは完全に脱力して惚けた顔になった。
すると、後ろから声が聞こえてきた。
先ほどの女の子だ。
「あ、貴女……何者なの……!?」
「はっ、無視してしまってすみません! このトカゲ、可愛くてついつい……」
「ト、トカゲじゃないわよ、それはドラゴンよ!? しかも危険度Aの!!」
「キケンド? エー?? ……勉強不足ですみません。あ、でもドラゴンはわかります! トカゲじゃなかったんですね」
ドラゴン……初めて見たなぁ。やっぱりトカゲっぽくて、こんなに大きいんだ。
僕はドラゴンにそっと耳打ちする。
「……でもあの女の子、こういう生き物が苦手なんだろうな。ドラゴン君、元いた場所に帰れる?」
『グルゥ』
「うん、いい子だね。バイバーイ!」
僕の言葉が通じたらしく、ドラゴンは踵を返してズシンズシンと大きな足音を立てながらダンジョンの奥へと向かっていった。
僕が手を振ると、尻尾を左右に揺らして返してくれる。
言うことを聞いてくれるし、すごい懐いてる。
ダンジョンって面白いんだなぁ! いろんな魔物に会ってみたい!
それから振り返り、女の子に声をかけた。
「ふふふ、安心してください! 誰にだって苦手なものはありますからね! ちなみに僕はピーマンが苦手です!」
「あ、はぁ……? そうね。とにかくありがとう。殺されずに済んだわ……。はぁ、生きた心地がしなかった……」
「殺される……? あんなに人懐っこいのに……」
まぁ大きいものは怖いよね、仕方ない。
うんうんと頷いていると、女の子のすぐ近くで浮いているものが見えた。
「あれ、それってもしかして配信用のカメラですか?」
「え? ――っ!? 配信オフ!!!」
女の子は慌てた様子で叫んだ。
彼女もダンチューバーだったのかな。
「ご、ごめんなさい……。配信切り忘れてたから映っちゃった……」
「全然いいですよ! 僕もさっき初めて配信始めたので! コラボってやつですかね!」
「ちょっと違うと思うわ。……とりあえず危険だから、外に出ましょう」
「はーい。……あ、僕も配信切っておこ」
女の子は立ち上がった。
そしてダンジョンの入り口に向かって二人で歩き始めた。
さっきはよく見てなかったからわからなかったけど、すごい綺麗な子だ。銀髪は艶があるし、青い目が大きい。
「……あの、私に何かついてるかしら?」
「え、あ、なんでもないです! 綺麗だなぁと思って」
「ふふ、貴女の方が可愛いと思うけれど」
「……僕、男です……」
「え!? 私てっきり……な、なんかごめんなさい」
まぁ……言われ慣れてますしぃ? 全然気にしてないですよ……あはは……。
と思いつつも、自分の足が少し重くなった気がする。というのも、本当は涼牙みたいに男らしくなりたかったけど、僕には無理だからな。
その後、気まずい雰囲気のなかを歩き続け、ダンジョンの外まで出てきた。
「私はこれからダンジョン機構まで報告に行くわ。あなた……えっと、名前聞いてなかったわね」
「僕は、藍堂咲太です」
「私は天宮城美玲よ。さっきは本当にありがとう」
「いえいえ。あ! そういえば今日早く帰らないといけないんでした! さよならー!」
「え、ちょ、待って! ……一緒にダンジョン機構に来てほしかったのに……」
この時の僕はまだ何も知らなかった。
何気ないいつも通りの日常が、大きく変化していくことに……。
そして、何も知らない僕を置き去りにしたまま、ネット掲示板は大いに盛り上がっていたみたいで……
【あまみやch】あまみやちゃんのスレ【配信】
141.名無しのリスナー
あまみやちゃん何回見ても美人よな
142.名無しのリスナー
近づく男は穀す
143.名無しのリスナー
>142
怖
144.名無しのリスナー
お、魔法使ったぞ
145.名無しのリスナー
確か魔法能力が発現したのって一週間前よな?
なんでこんなにすぐ使えるん?
146.名無しのリスナー
>145
あまみやちゃんが天才だから
それオンリーやな
147.名無しのリスナー
ゴブリンごときじゃ相手にならんよ
148.名無しのリスナー
変な音がするって言ってんど
149.名無しのリスナー
なんか聞こえる?
150.名無しのリスナー
近づいてきてね?
151.名無しのリスナー
これやばい気がする
152.名無しのリスナー
ファッ!?
153.名無しのリスナー
やばい
154.名無しのリスナー
レッドドラゴンやん!!!!
155.名無しのリスナー
勝ち目ないぞ!
156.名無しのリスナー
誰か通報した!?
157.名無しのリスナー
>156
しますた
158.名無しのリスナー
でも間に合わねぇだろこれ
159.名無しのリスナー
誰か助けろよ!
160.名無しのリスナー
放送事故
170.名無しのリスナー
【悲報】あまみやちゃんタヒす
171.名無しのリスナー
誰か来たぞ!
172.名無しのリスナー
可愛い女の子来た
173.名無しのリスナー
?
174.名無しのリスナー
?
175.名無しのリスナー
?
176.名無しのリスナー
謎の美少女「ドラゴンかっこいい!」
↑????
177.名無しのリスナー
混乱してんなこの子も……
178.名無しのリスナー
は?この子やばww
179.名無しのリスナー
自分から近づきやがった
180.名無しのリスナー
タヒにたいのこいつ!!?
181.名無しのリスナー
食われるって
182.名無しのリスナー
は?
183.名無しのリスナー
ひ?
184.名無しのリスナー
ふ?
185.名無しのリスナー
ドユコト?
186.名無しのリスナー
誰か説明してクレメンス
187.名無しのリスナー
あまみやちゃんがレッドドラゴンに襲われる
↓
後ろから謎の美少女が来て、ドラゴンに近づく
↓
ドラゴンが喉鳴らして顔スリスリしてる
……???
188.名無しのリスナー
これ本当にレッドドラゴンなんか……?
189.名無しのリスナー
明らかにレッドドラゴンやろ
性格は違う気がするが……
190.名無しのリスナー
こんなに懐くの?
191.名無しのリスナー
>190
基本的にドラゴン種は侵入者(人間)絶対殺すマン。「懐く?何それ美味しいの?」だぞ
192.名無しのリスナー
あまみやちゃん口めっちゃ開けてるww
193.名無しのリスナー
そら驚くわなw
194.名無しのリスナー
ドラゴンのツノも撫でてるんですけどこの美少女……
195.名無しのリスナー
「ここが気持ちいいんだねぇ……」
エッ!!??
196.名無しのリスナー
わかるマン
197.名無しのリスナー
俺のドラゴンが起きちまう!
198.名無しのリスナー
爪楊枝生やすな
199.名無しのリスナー
どうやらダンジョンとか魔物に詳しくないみたいだな、この子
200.名無しのリスナー
普通知ってるだろ……
201.名無しのリスナー
可愛い
202.名無しのリスナー
首傾げてる。可愛い
203.名無しのリスナー
可愛い
204.名無しのリスナー
かわいー
205.名無しのリスナー
スレ民の語彙力が消えてる!
206.名無しのリスナー
あ、ドラゴン帰った
207.名無しのリスナー
ドラゴンに命令したぞ!
前代未聞じゃね?
208.名無しのリスナー
テイマーなんていないしなぁ。無理やり隷属化させることはできるらしいけど、信頼からなる関係はなかったし
209.名無しのリスナー
つまり?
210.名無しのリスナー
>209
世界に激震が走る(確定予知)
211.名無しのリスナー
おっしゃ拡散だ!
ばら撒け祭りじゃ~!!!
212.名無しのリスナー
もうSNSに切り抜き上げたぞw
213.名無しのリスナー
>212
あまみやchの非公式切り抜きでも上げとこww
214.名無しのリスナー
史上初のテイマーか
215.名無しのリスナー
ドラゴンいけんなら大抵の魔物いけるやろ
216.名無しのリスナー
もしかしたら幻獣もいけるか?
217.名無しのリスナー
ありうる
218.名無しのリスナー
【速報】謎の美少女のダンチューブチャンネル見つかる
219.名無しのリスナー
>218
kwsk
220.名無しのリスナー
ん
[リンク]
221.名無しのリスナー
今日初配信マ?ww
222.名無しのリスナー
登録待ったなし
223.名無しのリスナー
俺はこの美少女を追うぞ!ジョ○ョーッ!
224.名無しのリスナー
もう逃げられないゾ♡
225.名無しのリスナー
次回の配信楽しみだなー
226.名無しのリスナー
登録者数一気に増えてて草
227.名無しのリスナー
10万超えた?w
はっやww
228.名無しのリスナー
伸びてる伸びてるw
229.名無しのリスナー
海外勢も反応しとるw
「ドラゴンを手懐けるジャパニーズガールは何者だ!?」ってww
230.名無しのリスナー
魔物の研究は海外の方が進んでるから、この子の異端さがはっきりわかんじゃろ
231.名無しのリスナー
一躍時の人だな
232.名無しのリスナー
時の人で収まりそうにない気がする
234
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3,258
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<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
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