上 下
19 / 64
連載

第55話

しおりを挟む
 深層三階のボスを撃破したあと、ダンジョン内をズンズンと進んでいたのだが、なんだか雰囲気が変わったような気がした。
 ついてきていた周囲の魔物もバタバタと倒れて、妙な気配が奥から感じられる。

「みんなだらしないな~。急に寝ちゃって」

:異常だよな?
:「だらしないなー」で済ましてるサクたんも異常w
:なんか魘されてるくね?
:少しは慌てなさいww
:精神汚染系の攻撃っぽいな
:↑じゃあなんでサクたんは効いてないん??w
:またバナナ考えてる顔してるし……

「精神汚染とかあるんですね……。まぁ僕の脳には今電子鰻うなぴいるので心配ごむよーです!」

:体 内 で 飼 育 し て る
:そう考えると強いなぁ……w
:寄生虫を体内で飼う人思い出したww
:怖いよぅ
:精神攻撃無効化ッ!w

 うなぴ以外にも二匹の幻獣が体内にいるが、一人は僕から大体500mlの血がなくなった時に現れる子。もう一人は僕のどこかしらの体の部位が消失した時に現れる子だ。
 どちらも暴れ始めたら涼牙りょうがを呼ばなきゃいけないくらい大変だし、大人しくしていてほしいね。

 その後もダンジョンを進んでいたのだが、やはりどの魔物も魘されているのようでついて来ることはない。
 さらに、ボス部屋の魔物もその影響があって相手にされず、そのままスルーをすることができた。

「はぁー……疲れた。けどここがラストですね!」

 延々と歩きつ助けること数十分、とうとう第七階層のボス部屋の前までたどり着く。

:いよいよだな……
:なんで魔物サポートなくて辿り着けてんだよw
:サクたんって多分豪運体質でもあるよな
:不幸体質でもあるような……
:↑どちらもありうる、そんだけだ
:お前ら備えろッ!
:ボス部屋入るぞ~
:これがラストバトルか

 ボス部屋に入るとそこには、紫色の靄のような存在がいた。目はないのだが、こっちを確かに見ているような気がする。
 これが七階のボスなのだろうか?

「んー? あれなんですかね?」

:確か『ザ・ナイトメア』って魔物だった気がする
:幽○紋ス○ンドみてぇな名前だな
:海外のダンジョンでも見つかったやつよな?
:夢空間に連れて行ってそこで戦闘。時間内に倒せなかったら永遠に悪夢に囚われる……とかだったような?
:じゃあ今のサクたんには効かねぇな!
:勝ったな。風呂を食え
:いや、しかし様子がおかしいぞ?(英語)
:私たちの国で目撃されたものはもっと小さいものだったような……(英語)
:まずいぞ。それは強化個体かもしれない!(英語)

 しばらく様子を見ていると、靄を中心にこの空間がみるみる塗り替えられていった。
 モノクロの世界で、大都市のようだが木々が生い茂り、蔦が蔓延っている。どこか懐かしい空間だ。

 そして、靄はボコボコと音を立て、違う姿へと変身してゆく。

「そ、そんな……あれは……!!?」
『オ、ァ、ァア゛ア゛……!!!』
「い、イヤだぁぁあ~~っっ!!!!」

 緑と紫の体色でギョロギョロとした目玉や口がついている僕の天敵……もとい、がそこにいたのだ。

:天 敵 降 臨
:やはりピーマンが立ちはだかるww
:キモすぎるww
:人型+多眼+悪い体色+奇声
:前回のピーマン戦負けてるからなぁ……
:【悲報】ボスの強化個体、ピーマンの姿になる
:サクたんメタで草
:もう終わりだ猫の配信w
:さしずめ〝ナイトメアピーマン〟といったところか

 ――深層七階ボス、ザ・ナイトメア。
 本来ならば夢空間のみに異常性を発揮するその魔物だが、強化によってその悪夢は現実にまで干渉をし始めた。
 第一段階、対象の心の空間を現実に展開。第二段階、対象が最も恐るものへの形態変化。第三段階、対象を内側こころから蝕み始める……。

「あば、あばばばば!! どどどどうしよう……と、とりあえず誰か来てーー!」

 その心の蝕みは絶大であった。
 心を悪夢で染め上げる。つまり、咲太の場合ではピーマンで埋め尽くすしかないのだ。

 彼の〝鍵〟は心で強く願った幻獣やの召喚。それつまり――

『ピ、ピマァン……???』

:ムwキwムwキwピwーwマwンw
:お前、あの時の……ッ!w
:ピーマン「待たせたなぁ!」
:帰ってくれw
:やめろピーマン! 戻れ!!
:相も変わらずシックスパックがお美しい

 追い討ちのようにやってきた魔物。料理配信の時に会ったムキムキのピーマンを見てしまい、もうだめだった。

「カヒュッ――」

 ――バタンッ。

 気絶をしてしまった。

:え、あ、あれ? サクたーん?
:これってもしかしてだけど……
:めっっちゃピンチでは!!?
:起きろサクたんんんんんん!!!!
:サクたんが起きてないと幻獣召喚できない。他の階層の魔物は魘されてる
:ピーマンなんとかしてくれぇ!!w
:深層強化個体ボスとかいう無理ゲー
:ピーマンの荷重すぎんだろ!

『ピマピマ……ピィマピィーマン』

 咲太の前に立ちはだかり、ナイトメアから守ろうとする。

:守ろうとしてくれている……!?
:盛 り 上 が っ て き た
:何言ってるかわかんねぇーww
翻訳マン:「状況がまだわからないが……ピーマンの風上にもおけない風貌だな」って言ってるぜ!
:↑キッショ、なんでピーマン語わかんだよw
:翻訳マン、同時翻訳しろ。
翻訳マン:わかった!

『この少年はピーマンを食べてくれた優しき少年だ。手を出すことは許されんぞッ! うぉおおおおおお!』

 ――パキョッ!!

 ピーマンはナイトメアの拳を腹に受けて良い音が鳴り、中に詰まっていた小さい粒の種を散らしながら天井へ吹き飛ばされた。
 そして、一歩一歩咲太に近づき始める。

:ピーマァーーン!!!!
:やっぱり、ダメだったよ
:ま、待てナイトメアピーマン。鼻☆塩☆塩
:や、やめてぇ……
:やばいやばいやばい
:助けがこねぇ!
:まぁ深層七階だし……
:ボスだから体質もやっぱ効かないじゃん

 近づく死に対し、リスナーたちは無力にもただ見続けることしかできない。
 そしてとうとう、床に横たわる咲太の側まで来てしまい、腕を振り上げる。

『ア゛……ハハ……ッ!!!』

:やめろぉおおおおおおお!
:終わった
:だからやめとけって……!!!
:もう無理
:あぁ……

 ――ドゴォォォンッ!!!!

 瞬間、このダンジョンが大きく揺れるほどの轟音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。