14 / 19
第14話
しおりを挟む
豚カツを美味しく平らげた後、優雅なひと時を過ごしたところで夜も更けてきた。
ラズリはツリーハウスで寝たいと言ったのでそこでシロと寝かせることにした。俺はまだ眠れなさそうだったので、ハンモックでダラダラと過ごすことにしている。
「はぁー……ハンモックいいな。あっちでも作ってもらおう。にひひ、あー楽しみだ」
『気に入ってもらえたようで何よりですぞ。あちらでも誠心誠意努めていただきます』
《儂の代わりに頑張るんじゃぞ》
家はどうしようか。風呂は欲しいし、広いキッチンも欲しいな。こればかりはラズリと相談して決めた方がいいだろうが、妄想が広がるな。
ニヤけながら頭上の葉っぱを眺めていると、唐突にジジイが俺に質問をしてきた。
《……付かぬ事を聞くのじゃが――以前の人の子は死んでしもうたのか?》
「…………。ああ……だいぶ、前だけど。流石に寿命だ」
そういえばジジイにはアイツが死んだことを言ってなかったな。報告とか言っていられる心境ではなかったしな……。
俺の笑みは一瞬にして消え失せ、ため息が漏れでて空で霧散する。
《純粋な質問なんじゃが、なぜお主はまた人の子と共に生きようとする? なぜ限りある命に執着する?》
「それがアイツとの約束だからだ。例えまた俺が傷つこうが、大事なやつの約束は破れないんだよ。
それに、俺は終焉を司る神だぜ? 拾った命、責任とって寿命で終わらせんのさ」
《……そうか。悪かった》
「良いってことよ。……はぁ~あ! なんか空気重いなー! おいジジイ、なんか面白い話しろよ」
《えぇー……無茶振り……》
過去のことはまだ振り切れていない。それどころか、過去に囚われている。
チクショウ……あの女、俺の神生に深く介入しやがって……。どれだけ俺の生活を狂わせれば気が済んだんだか。
葉の隙間から月が覗いた途端、過去の声が脳裏に響いてきた。
――にひひ。今日は月が綺麗だね、ニーグリ。
「……そういや、いつのまにか笑い方も感染ってんな……。ふんっ」
あの青い瞳にシルクハットを被るアイツはもういない。所詮は人の子、だのに忘れられない。たった数十年で俺の脳が焼かれた。
まぁだけど、残してくれたもんが山ほどある。なんとかやるよ。だからそこで見届けとけ。
ゴロンと転がり、もう寝ようとしたのだが、地面を踏みしめる音と鼻をすする音が聞こえてきた。
「ゔー……。にーぐりしゃま……!」
「ら、ラズリ!? な、なんで泣いて……おんどりゃあァ! 誰がラズリを泣かせた!! ボコボコにしてやるァア!!!」
ポロポロと青い瞳からは涙が溢れでており、鼻を赤くしたラズリの姿がそこにあった。
『それが、ニーグリ殿が居なくて寂しくなったとのことだ』
『コーケ』
「じゃあつまり……ボコボコにしなければならないのは俺自身か……。ヨシ」
《何がヨシじゃ。ここら一帯が荒地になるからやめろ》
とりあえずラズリの頭を撫でると、ひしと俺に抱きついてきた。
俺と出会って数日、楽しい時間を過ごしているが、まだ心の傷は癒えないのかもしれない。それに気づけなかった罪悪感がこみ上げ、罪滅ぼしをするように抱き返した。
「……どうする? 俺もツリーハウス行こうか?」
「んーん……ここでねます……」
「二人で乗ると危ないが……まぁ俺がなんとかすればいいか」
ハンモックに二人で転がり、片腕にラズリの頭を乗っけ、もう片腕でこちらに抱き寄せて寝る形となる。
シロとゴンザレスは流石に乗れないので、下で丸まって眠るようだ。
『フム、ではワタクシめが子守唄を歌って差し上げましょう』
「そんな機能も付いてんのか。熟《つくづく》有能だな」
『ゴホン。では一番眠れる部分から……。スゥッ――』
トントンとラズリの背中を優しく叩いて眠りにつかせようとしたのだが……。
『――#;"#(@))=€×`§7#j@!!』
「ちょっと待て。子守唄じゃねぇだろそれ」
『え?』
「『え』じゃないんだが?」
詳しくは知らないが、あの人間と一緒に聞いたことがあるぞ。子守唄じゃないのは確かだ。子守唄らしからぬほど力強く歌ってるし。確かヘヴィメタ……? とかいうやつだったか。
初めてスティックのポンコツ場面を見たな……。
『しかし、ミス・ラズリは既に眠っておられますぞ』
「え?」
「スヤァ……」
「えぇ……??」
スヤスヤと寝息を立てて眠るラズリがおり、俺は困惑という感情しか出てこなかった。
「まぁ寝たんならいいが……」
『おそらくだが、子守唄(?)ではなくニーグリ殿の心臓の鼓動で安心したのではないか?』
『ワタクシめの子守唄ではなったのですね……。トホホ……』
「心臓、ねぇ……」
『……「自分の音と似ている」とかなんとか言っていたような……』
「ん、なんか言ったか? まぁいいか」
鼻が赤くなりながらも、幸せそうに眠るラズリの顔を見て一息吐く。
そうだなぁ……。寝室は分けようかと考えてたが、これも相談しなきゃいけないっぽいな。
「うへへ……あったかい……」
「なんか言ってんな。ふわぁ……。俺も眠くなってきたし、寝るか」
心配事は募るばかりだ。
今一番心配なのは〝ラズリの寝相でタコ殴りにされないか〟だ。
ラズリはツリーハウスで寝たいと言ったのでそこでシロと寝かせることにした。俺はまだ眠れなさそうだったので、ハンモックでダラダラと過ごすことにしている。
「はぁー……ハンモックいいな。あっちでも作ってもらおう。にひひ、あー楽しみだ」
『気に入ってもらえたようで何よりですぞ。あちらでも誠心誠意努めていただきます』
《儂の代わりに頑張るんじゃぞ》
家はどうしようか。風呂は欲しいし、広いキッチンも欲しいな。こればかりはラズリと相談して決めた方がいいだろうが、妄想が広がるな。
ニヤけながら頭上の葉っぱを眺めていると、唐突にジジイが俺に質問をしてきた。
《……付かぬ事を聞くのじゃが――以前の人の子は死んでしもうたのか?》
「…………。ああ……だいぶ、前だけど。流石に寿命だ」
そういえばジジイにはアイツが死んだことを言ってなかったな。報告とか言っていられる心境ではなかったしな……。
俺の笑みは一瞬にして消え失せ、ため息が漏れでて空で霧散する。
《純粋な質問なんじゃが、なぜお主はまた人の子と共に生きようとする? なぜ限りある命に執着する?》
「それがアイツとの約束だからだ。例えまた俺が傷つこうが、大事なやつの約束は破れないんだよ。
それに、俺は終焉を司る神だぜ? 拾った命、責任とって寿命で終わらせんのさ」
《……そうか。悪かった》
「良いってことよ。……はぁ~あ! なんか空気重いなー! おいジジイ、なんか面白い話しろよ」
《えぇー……無茶振り……》
過去のことはまだ振り切れていない。それどころか、過去に囚われている。
チクショウ……あの女、俺の神生に深く介入しやがって……。どれだけ俺の生活を狂わせれば気が済んだんだか。
葉の隙間から月が覗いた途端、過去の声が脳裏に響いてきた。
――にひひ。今日は月が綺麗だね、ニーグリ。
「……そういや、いつのまにか笑い方も感染ってんな……。ふんっ」
あの青い瞳にシルクハットを被るアイツはもういない。所詮は人の子、だのに忘れられない。たった数十年で俺の脳が焼かれた。
まぁだけど、残してくれたもんが山ほどある。なんとかやるよ。だからそこで見届けとけ。
ゴロンと転がり、もう寝ようとしたのだが、地面を踏みしめる音と鼻をすする音が聞こえてきた。
「ゔー……。にーぐりしゃま……!」
「ら、ラズリ!? な、なんで泣いて……おんどりゃあァ! 誰がラズリを泣かせた!! ボコボコにしてやるァア!!!」
ポロポロと青い瞳からは涙が溢れでており、鼻を赤くしたラズリの姿がそこにあった。
『それが、ニーグリ殿が居なくて寂しくなったとのことだ』
『コーケ』
「じゃあつまり……ボコボコにしなければならないのは俺自身か……。ヨシ」
《何がヨシじゃ。ここら一帯が荒地になるからやめろ》
とりあえずラズリの頭を撫でると、ひしと俺に抱きついてきた。
俺と出会って数日、楽しい時間を過ごしているが、まだ心の傷は癒えないのかもしれない。それに気づけなかった罪悪感がこみ上げ、罪滅ぼしをするように抱き返した。
「……どうする? 俺もツリーハウス行こうか?」
「んーん……ここでねます……」
「二人で乗ると危ないが……まぁ俺がなんとかすればいいか」
ハンモックに二人で転がり、片腕にラズリの頭を乗っけ、もう片腕でこちらに抱き寄せて寝る形となる。
シロとゴンザレスは流石に乗れないので、下で丸まって眠るようだ。
『フム、ではワタクシめが子守唄を歌って差し上げましょう』
「そんな機能も付いてんのか。熟《つくづく》有能だな」
『ゴホン。では一番眠れる部分から……。スゥッ――』
トントンとラズリの背中を優しく叩いて眠りにつかせようとしたのだが……。
『――#;"#(@))=€×`§7#j@!!』
「ちょっと待て。子守唄じゃねぇだろそれ」
『え?』
「『え』じゃないんだが?」
詳しくは知らないが、あの人間と一緒に聞いたことがあるぞ。子守唄じゃないのは確かだ。子守唄らしからぬほど力強く歌ってるし。確かヘヴィメタ……? とかいうやつだったか。
初めてスティックのポンコツ場面を見たな……。
『しかし、ミス・ラズリは既に眠っておられますぞ』
「え?」
「スヤァ……」
「えぇ……??」
スヤスヤと寝息を立てて眠るラズリがおり、俺は困惑という感情しか出てこなかった。
「まぁ寝たんならいいが……」
『おそらくだが、子守唄(?)ではなくニーグリ殿の心臓の鼓動で安心したのではないか?』
『ワタクシめの子守唄ではなったのですね……。トホホ……』
「心臓、ねぇ……」
『……「自分の音と似ている」とかなんとか言っていたような……』
「ん、なんか言ったか? まぁいいか」
鼻が赤くなりながらも、幸せそうに眠るラズリの顔を見て一息吐く。
そうだなぁ……。寝室は分けようかと考えてたが、これも相談しなきゃいけないっぽいな。
「うへへ……あったかい……」
「なんか言ってんな。ふわぁ……。俺も眠くなってきたし、寝るか」
心配事は募るばかりだ。
今一番心配なのは〝ラズリの寝相でタコ殴りにされないか〟だ。
38
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。
ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。
木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。
何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。
そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。
なんか、まぁ、ダラダラと。
で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……?
「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」
「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」
「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」
あ、あのー…?
その場所には何故か特別な事が起こり続けて…?
これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。
※HOT男性向けランキング1位達成
※ファンタジーランキング 24h 3位達成
※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。
異世界生活物語
花屋の息子
ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー
お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!
にのまえ
ファンタジー
目が覚めたら、女性が土下座をしていた。
その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。
俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。
「……すみません」
巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。
これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、
俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる