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第29話

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 ――翌朝。
 どうやらイアが【念話】で魔王と話をつけていたらしく、家の前では骸の馬が引く馬車が迎えに来ていた。

「わざわざ話もつけてくれてありがとな、イア」
「お安い御用」
「んじゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」

 イアに手を振った後、馬車の中にいたスケルトンに案内されて中に乗ってここを発った。


###


 馬車に揺られること数分、外からは雷の音や地響きが聞こえてきた。
 チラッと外を覗くと、そこは暗雲立ち込める空に、マグマが地面から溢れる大地の大陸が広がっている。しかし、マグマを避けるようにして建物が建てられている。

「ここが魔王の領地か。随分と発展してるんだな」

 もうしばらく馬車に揺られ、ついに馬鹿でかい魔王城の入り口まで到着した。

「魔王様から話は聞いておりますアッシュ様。どうぞこちらに」
「こりゃどうも」

 馬車の外から声が聞こえてて外を覗くと、そこには召使いのような人が佇んでいた。言われた通り外に出て魔王城の入り口に到着する。
 『こちらについてきてください』と言われたのでついて行こうとしたのだが……後ろから誰かに不満げさをたんまり孕んだ声で呼ばれた。

『おい! 貴様がアッシュとやらだな』
「え、はぁ。そうです。誰ですか?」
『オレの名はベルゼデウス、二つの大罪を束ねる者であり、魔王軍幹部である四天王の一人だ。
 オレは貴様を認めんぞ……。何処の馬の骨かも知らん、ゴミの掃き溜めに住む人間風情が』

 後ろにいたのは、頭からは山羊のツノ、背中からは蝿の羽を生やしているベルゼデウスと名乗る謎の男だった。堅物そうだが、小物そうな雰囲気も感じ取れる。
 僕から見たベルゼデウスさんとやらの率直な感想は、『羽虫』。多少なりとも強そうだがな。

「さいですか。では俺はこれにて……」
『待て! 貴様とはここで、一勝負してもらう。力量を測るためゆえ、半殺しにしても恨むな人間。ここは魔界だ』

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるベルゼデウスさん。
 要はあれだ、魔王様にスカウトされたのが気に食わなくって嫉妬し、僕をボコボコにしてストレス発散しようって魂胆だ。

『ここで暴れたら魔王様が来るだろう、だが貴様は無様に負けるのだ。これは魔王軍幹部であるオレからの命令だ。わかったな』
「……はぁい」

 魔王軍幹部と言っていたし、重要な人(?)と見た。ここはおとなしくボコられて不祥事を起こさないようにしたほうがよさそうだ。スカウトの件も無しにされちゃうかもだし、引き受けるとしよう。
 ……今から始めるのは、そう――

 ――だ。

『ケヒヒッ、では行くぞ!!!』

 その後、僕はベルゼデウスとやらにボコボコにされ続けていた。
 ま、身体を強化してるから大丈夫だけれども。

『ケヒヒッ! 雑魚が、雑魚がッ! ほ~らほら、貴様が大好きそうな魔界産泥水を顔面からかけてやるぞ。ケヒッ、多少は良い面になったなァ!』

 騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まって僕らを観戦しており、哀れみの視線が送られる。

「――これは一体どういう状況か、説明をしろ」

 その言葉とともにピリッと周囲が凍てつき、誰も動けなくなるくらいの威圧感が走る。
 有象無象どもは少し足りとも動けていなかったが、ベルゼデウスはぎこちない体を動かして片膝をついた。

「あ、魔王だ」

 騒ぎを聞きつけたのか、城の中からわざわざ魔王様がやってきていたのだ。
 黒いローブはもう身につけておらず、その姿が露わとなっている。腰まで伸びる漆黒の髪をハーフアップにし、吸い込まれそうな紫水晶《アメシスト》の瞳、そして立派な角は天を穿つ勢いだった。

『魔王様ッ! このものが貴女様の配下にしようとしている噂を小耳に挟みました。しかし見てください今の体たらくをッ! こんななも間抜けで、ひ弱で、薄汚い人間を仲間にするなど――』
「黙れ、ベルゼデウス。貴様は一体何様だ? なんの命令も無しに、我の客人に手をかけるなど……!」
『ッ!?!?』

 どうやら魔王様、相当怒っていらっしゃるようだ。殺気がビリビリと伝わってくる。

「貴様を四天王が一柱にしたのは間違いだったかもしれぬな。ここまで阿呆だったとは……」
『お、お待ちください魔王様ッ! 実際に今、オレより貧弱で使い物にならないことがはっきりしておりますッッ!!!』
「我にそのようなハッタリが通用すると思われるとは……舐められたものだ」
『違いますッ! 断じて違いますッッ!!!』

 必死に言い訳をするベルゼデウスを横目にして、魔王様は僕の前にやってきて顔の泥を魔術で消す。そして手を差し伸べてきた。
 頭の上のツノを隠せば、女神と見紛う人が現れるだろうというくらい美しい顔だ。

「全く……分身とはいえ我に勝った者だぞ。負けてもらっては困る、アッシュ」
「いや~、魔界の常識がわからないんで不祥事を起こすのではないかって思っちゃいまして」
「ククッ、それもそうだな。まず人間は魔界の常識を知ろうなんぞ思わぬからな」
「普通は、ですね」
「ふっ、貴様は確かに普通ではない」
『グギギグギグググ……ッッ!!!!』

 僕と魔王か仲睦まじげに話すと、歯を鳴らして怒りを露わにするベルゼデウス。

「アッシュ」
「何ですか、魔王様」

「えっ……?」

 魔王から言われた言葉で、僕は素っ頓狂な声が漏れ出た。
 僕はこの瞬間、あの八百長試合で金を稼いでいた頃と、ザムアの顔を思い出した。

「必要ないと言っている。
「!」
「ここは魔界、弱肉強食の世界だ。力を示せ、それがこの世界では美徳とされる行為だ」

 ……う~ん……。魔王様にそこまで言われちゃったら、仕方ないなぁ!
 僕は魔王様の手を取り立ち上がり、ベルゼデウスに体を向けた。

「わかりましたよ魔王様、期待に答えましょうか。……あのー、ベルゼデウスさん」
『何だよ……ッ!』

 ニヤリと口角を上げ、こう宣戦布告をした。

「――八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないって言われたんで圧勝させてもらいますよ……!!」
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