八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

第28話

　シアンを背負いながら冒険者ギルドに戻るや否や、甲高い怒声が僕の耳に響いてきた。

「アッシュ殿！　やっと帰ってきたかぁ!!　お主のせいでギルドは混乱状態だぞっ!!!」
「……？　ど、どこから声が……」

　喋り方とか僕のやり方は確実にここのギルドマスターであるロブストさんなのだが、いかんせん声が高く聞こえる。しかも姿が見えない。
　暫くキョロキョロしていると、『下だぞ』と声が聞こえる。声の方を見るとそこには、ちょこんとした美少年がいた。

「迷子？」
「一応ギルドマスターだが。……まぁこの姿を見るのが初めてだから仕方あるまい」
「ぎ、ギルマスなんだ……」
『師匠、ギルドマスターは過度なストレスを感じると体が縮む体質なんですよ！　でも縮んだ時の方が何千倍も強いらしいです！』

　おかしな体質だな……。
　特殊な条件で強くなる体質を持つ者は見たことあるが、こんな例は見たことがない。
　今戦ったら前の試合みたいにはならないのかな。

「それよりだ！　アッシュ殿が置いていった邪竜の素材！　それに納品した回復薬がエリクサーだと薬局から報告があったっ！　薬局の店員の数名が気絶したとの報告も受けたぞ!!　それと黒顎蟲の巣と不可解な迷路のダンジョンも――ガミガミガミ……」
「う……」

　小さい体からガミガミという声が放出され、全部僕にぶつけられる。

「聞いているのかっ!?」
「ハイ、キーテマス」
『ギルマスうるさいですね～』

　冒険者……こんなに叱られる仕事なのかー。もっと自由なものかと思ったが、まぁ人と関わったらこうなるのは仕方ないのだろう。
　だがしかし、僕はもっと自由にやりたいんだ。

「ギルマス」
「……なんだ」
「僕、冒険者になりません」
「……なっ!?」
「ということで二日間の職場体験ありがとうございました～!!」

　あんぐりと口を開けて驚くギルマス。契約書に正式な日数とか書いてなかったし、自由にやめても大丈夫なはずだ。

「報酬金や素材はどうするんだ！」
「寄付します」
『師匠～！　ボクは!?』
「テイムされてんだしいつでもこっちにこれるだろ？　困ったら頼ってくれ。あ、ギルマスも困ったら呼んでいいから！」

　そう言い残し僕は冒険者ギルドから足早に立ち去り、再び無職になるのであった。


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　職探しの旅をするのも悪くはないが、もう一度人に頼ってみることにした。やってきたのはお嬢様ではなく、イアの家だ。

「ん、おかえり」
「ただいま……なのか？　まぁいいけど」

　イアは変わらずポーカーフェイスで、特に変わったことはない様子だった。しかしほんのり、イアの香りがいつもより強くなるんじる気がする。

「アッシュ、今日ナニしてた」
「えッ!?　だ、ダンジョンの攻略、かな……」
「真実半分、嘘半分。エッチしてたの知ってる」
「な、なぜわかる……」
「だってアッシュがつけた淫紋がすごかったから」

　そういえばその存在忘れてた……。僕が性的興奮を感じたら必然的にイアにも伝わってしまうって……中々気まずい……。
　怒っている様子はなさそうだが、こういうのは許してくれるのだろうか。

「別にいっぱい関係持つのは構わない。けど、子供は一番に欲しい」
「う、うん……わかった……」
「ところで、今日は何か用があったの？」
「ああ、そうそう。冒険者と勇者の師匠役の職場体験してたけど、なぁんか合わなかったんだ。だからイアはいい職知らないかなって」
「私のとこ」
「一旦それ以外でお願いしたい……」

　うーんと数秒悩むと、何かを思い出したかのように目を大きく開けた。

「魔王城は？」
「魔王城!?　イアは魔王城で働いてたのか？」
「いや、一度勧誘されたけど断った。でも実は昨日、その昔のよしみってわけで手紙を渡されてた。『もしアッシュという男を見つけたらこの手紙を渡して欲しい』って」
「魔王がか？　なんでまた……」

　勇者の師匠役として働き、そんな勇者をテイムした後に魔王城で働くのか……。それって門前払いとかされないだろうか。
　とりあえず手紙を読んでからじゃないと始まらないか。

「ん、手紙」
「ありがとう。えーっとなになにぃ？」

　そこには美しい字体が広がっており、世間一般が想像する暴虐非道の魔王とは思えないくらいだった。代筆かもしれないが、少し好感度が上がる。

　内容を要約すると、『この前の試合見事だった。よかったらうちで働かない？　連絡なかったら直接勧誘しにいきます』といった具合だ。
　なんともタイミングがいいことだったため、断る理由はないな。

「ありがとうイア、魔王のとこで働いてみるよ」
「ん、がんば」

　こうして、次の職場体験先（予定）は魔王軍となった。

「でも、もう夜になるから泊まっていくべき」
「そうだな。お世話になるよ」
「今日は散々焦らされたから、満足させてね」
「今日いっぱい出してきちゃったんだけど……」
「ん、だいじょぶ。魔術研究してたから♡」
「お、お手柔らかに……」

　この日は魔王城に行くことなく、イアと熱い夜を過ごした。