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第21話
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目の前で突然死んだ勇者に唖然としていたが、むくむくと青いジェルが隆起しだして人の形を作り上げた。
『いてて……また転んじゃった』
「スライム……? いや、魔物と人間の気配が混ざってるから……人間とスライムのハーフ?」
スライムが人間に擬態する事例は挙げられているが、人間とスライムのハーフなどは全く聞いたことがない。
先程までは人間さながらだったが、今では髪はどろっと溶けているし肌も青く、半透明だ。とても興味深いというか、これってモンスター娘とか言われる類なのでは?
『ご名答です師匠! 勇者の父とクイーンスライムを母に持つシアンです!』
「親が勇者だから勇者なのか。……って誰が師匠だ。僕は君を弟子にとった覚えはない」
『そんなぁ……。けどボクは諦めませんっ!』
厄介な奴に出会ってしまった。しかし、なんで勇者がここにいるんだ? ……まぁいいか、とっとと話を進めよう。
僕はギルドマスターに件の紙を見せた。
「なるほど、職場体験をしたいというわけか。うむ、王室直属騎士からの推薦とあれば受理しよう。……しかし、体験期間で勇者殿の師匠役をお願いしたい」
「えぇ!? なぜ……」
「彼女は並大抵の冒険者に対しては全く言うことを聞かないたちゆえ、強者であるアッシュ殿に頼みたい。俺は忙しく、手が回せんのだ」
ゔーーん……。めちゃくちゃ拒否したいが、本来体験できない日にやらせてもらっている身だし、受け入れるとしよう。
ため息を一度吐き、頷いた。
『やった~~! 師匠♪ 師匠♪』
「感謝する。ではカウンターに向かうのだ。そこで仮の冒険者カードを作ってもらうといい。クエストの進め方などは勇者殿がよく知っているから聞くといい。
健闘を祈るぞ。勇者殿は厄介だが、アッシュ殿なら言うことを聞くと思う」
「厄介なんですね……」
「押し付けのような形になって申し訳ない……。困ったことがあれば俺が助けになる」
半スライム半人間だったら誰に教えを請うか迷うだろうしな。……いや、だったら親に教えてもらったらよかったのでは?
ま、複雑な事情があるのかもしれないし、引き受けるとするか。
「まぁ頑張ります。無理言って職場体験させていただきありがとうございます」
「いやいや、アッシュ殿が冒険者になる可能性がこれで上がるのならば幾らでも機会を設けるぞ。それと、冒険者は基本タメ口で構わんぞ」
「そうなのか」
ロブストさんからの許可と勇者をもらい、部屋を出た。勇者は捨てたいが流石にグッと堪えた。
完全に人間の姿になった勇者は、得意げに鼻息を鳴らししている。
「ふふん、一応ボクも冒険者登録しているのでわかるんですよ~。気になることがあったらなんでも聞いてくださいね、師匠!」
「そうするよ。短期間で破門にするが、よろしく頼むぞシアン」
「うわぁああん! そんなこと言わないでくださいよぅ!」
やれやれだぜと言いたくなる未来が今にも見えてくる。
しかし、冒険者と勇者の師匠という二つの職場体験ができると考えればいいか。ポジティブ思考でいこう、でなきゃやってられない。
ニッコニコのシアンを横目に、僕は天井を仰いだ。
###
ふっふっふ……まさかアッシュさんがここに来るなんて思っていませんでしたね! 無事にボクの師匠になってくれましたし!!
少し憂鬱そうにしている師匠を横目に、ボクはニコニコと笑みを浮かべていた。
(師匠になってもらうだけじゃない……〝ボクのパーティーに入れること〟が最終目的っ! ふっふっふ、絶対にボクがゲットしてみせます師匠ー!)
――この時のシアンは、思いもしなかっただろう。手に入れようとしている自分が、彼の虜になって目覚めてしまうしまうことに。
人間でありながら魔物である自分であったがために……――テイムされるとは、微塵も思っていなかった……。
『いてて……また転んじゃった』
「スライム……? いや、魔物と人間の気配が混ざってるから……人間とスライムのハーフ?」
スライムが人間に擬態する事例は挙げられているが、人間とスライムのハーフなどは全く聞いたことがない。
先程までは人間さながらだったが、今では髪はどろっと溶けているし肌も青く、半透明だ。とても興味深いというか、これってモンスター娘とか言われる類なのでは?
『ご名答です師匠! 勇者の父とクイーンスライムを母に持つシアンです!』
「親が勇者だから勇者なのか。……って誰が師匠だ。僕は君を弟子にとった覚えはない」
『そんなぁ……。けどボクは諦めませんっ!』
厄介な奴に出会ってしまった。しかし、なんで勇者がここにいるんだ? ……まぁいいか、とっとと話を進めよう。
僕はギルドマスターに件の紙を見せた。
「なるほど、職場体験をしたいというわけか。うむ、王室直属騎士からの推薦とあれば受理しよう。……しかし、体験期間で勇者殿の師匠役をお願いしたい」
「えぇ!? なぜ……」
「彼女は並大抵の冒険者に対しては全く言うことを聞かないたちゆえ、強者であるアッシュ殿に頼みたい。俺は忙しく、手が回せんのだ」
ゔーーん……。めちゃくちゃ拒否したいが、本来体験できない日にやらせてもらっている身だし、受け入れるとしよう。
ため息を一度吐き、頷いた。
『やった~~! 師匠♪ 師匠♪』
「感謝する。ではカウンターに向かうのだ。そこで仮の冒険者カードを作ってもらうといい。クエストの進め方などは勇者殿がよく知っているから聞くといい。
健闘を祈るぞ。勇者殿は厄介だが、アッシュ殿なら言うことを聞くと思う」
「厄介なんですね……」
「押し付けのような形になって申し訳ない……。困ったことがあれば俺が助けになる」
半スライム半人間だったら誰に教えを請うか迷うだろうしな。……いや、だったら親に教えてもらったらよかったのでは?
ま、複雑な事情があるのかもしれないし、引き受けるとするか。
「まぁ頑張ります。無理言って職場体験させていただきありがとうございます」
「いやいや、アッシュ殿が冒険者になる可能性がこれで上がるのならば幾らでも機会を設けるぞ。それと、冒険者は基本タメ口で構わんぞ」
「そうなのか」
ロブストさんからの許可と勇者をもらい、部屋を出た。勇者は捨てたいが流石にグッと堪えた。
完全に人間の姿になった勇者は、得意げに鼻息を鳴らししている。
「ふふん、一応ボクも冒険者登録しているのでわかるんですよ~。気になることがあったらなんでも聞いてくださいね、師匠!」
「そうするよ。短期間で破門にするが、よろしく頼むぞシアン」
「うわぁああん! そんなこと言わないでくださいよぅ!」
やれやれだぜと言いたくなる未来が今にも見えてくる。
しかし、冒険者と勇者の師匠という二つの職場体験ができると考えればいいか。ポジティブ思考でいこう、でなきゃやってられない。
ニッコニコのシアンを横目に、僕は天井を仰いだ。
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ふっふっふ……まさかアッシュさんがここに来るなんて思っていませんでしたね! 無事にボクの師匠になってくれましたし!!
少し憂鬱そうにしている師匠を横目に、ボクはニコニコと笑みを浮かべていた。
(師匠になってもらうだけじゃない……〝ボクのパーティーに入れること〟が最終目的っ! ふっふっふ、絶対にボクがゲットしてみせます師匠ー!)
――この時のシアンは、思いもしなかっただろう。手に入れようとしている自分が、彼の虜になって目覚めてしまうしまうことに。
人間でありながら魔物である自分であったがために……――テイムされるとは、微塵も思っていなかった……。
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