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第四話 『覚醒』と『魔力』

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翼狼ウィングウルフ』によって背中を引き裂かれ意識不明に陥った龍華に寄り添い涙を流す舞花。

 「やぁ、危ない所だったね。お嬢さん
怪我はないかい?」

 先程までの地獄と化した公園に反する落ち着いた声で舞花に喋りかける人間。

 「貴方…誰なのぉ……?」

 動かない龍華を守るようにして身体で包み怯えながら正体不明の人間?に言葉を投げかける舞花。

 「そんなに怯えなくてもいいんだよ? お嬢さん。僕の名前は、リリー・リリアンヌ。神様さ。皆からは、リリーと呼ばれているよ。ちなみに僕は、女の子だよ」

 「神…さま……?」

 自分を神様であり、リリーと名乗った舞花たちと同じくらいの年齢に見える少女は、透き通った水色の髪を腰まであるロングのツインテールに結い。白銀の瞳を輝かせてそう言った。

 「ほ、本当に神さまなの?」

 「ああ。本当さ。観ていただろう? 君たちを襲ったでかい化け物を僕が消滅させる所をさ」

 「……………信じる」

 「ありがとう」

 リリーは、ツインテールを靡かせ丁寧にお辞儀した。

 「神さま…お願いします……華ちゃん……を助けてください………」

 舞花は、この数分でこの世に起こり得ることのない状況を経験した。それが彼女を神様だと裏付ける何よりの証拠だと確信し、そして、神様ならば華ちゃんを助けられるのではないかとそう考えた。

 しかし、

 「すまない。それはできない」

 「………そう…ですか」

 それはできないとリリーは、返事を返し、それを聞いた舞花は、ただただ動かない血まみれの龍華を生気を失った瞳で見つめることしかできない。

 「僕は、彼を救うことはできない。ただ、お嬢さんが救うことはできる」

 「………え?」

 リリーの言葉に驚き耳を傾ける舞花。

 「多分君は、このありえない悲劇を経験して『異能』が目覚めた。そこの彼もそうだ。その目覚めた『異能』を使って彼を救うことのできる可能性はある。幸いに微かに息があるようだ」

 「『異能』?それで…華ちゃんは、助かるんですか?」

 「ああ。ただその目覚めた『異能』は、僕でもどういう物なのかわからない。もしかしたら救うことに何の意味のない『異能』かもしれない。それでも彼を助けたいかい?」

 「はい。可能性があるならなんだってやります。華ちゃんは、私の好きな人ですから」

 舞花の瞳には、生気が戻りそう宣言した。

 「なるほど。わかった。では、時間がないので具体的なことは省いて説明するよ。目覚めた『異能』は『魔力』に触れることによって『覚醒』する。そこで初めてどんな『異能』を所持したのかがわかるんだ。だが、この世界には『覚醒』するための『魔力』がない」

 「それじゃあ…やっぱり……」

 「いや。この世界にはないだけだよ。
 つまり、この世界ではなく魔力のある別の世界。『異世界』に行けば『魔力』は空気のようにある。僕がその『異世界』に君達を連れて行く」

 「そこに行けば華ちゃんは、助かるの?」

 「さっきも言った通り。それはわからない。でも可能性はある。だが一度『異世界』に行ってしまうとこの世界には戻って来れなくなるかもしれない。君はこの世界を捨ててまで彼を救いたいかい?」

 この世界に戻って来れない。そう伝えられた舞花は、意識不明の龍華を見つめ何かを決心したように頷き答えた。

 「私『異世界』に行きます!」

 「そうかい。なら早速。『異世界』に行こうか」

 舞花の答えを聞き届けるとリリーは、舞花の右手を握りもう片方の左手で龍華の手を握るようにと言った。

 そして、リリーは、指を空に掲げパチンと鳴らす。

 『翼狼ウィングウルフ』によって荒れ果てた公園も引き裂かれた龍華の血も全て何事も無かったかのように元どおり。変わったことと言えば。リリー。舞花。龍華の姿がそこから消えたことだった。
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