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ショ●カー

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 昔みたヒーロー特撮に、よくいる雑魚的というのがいる。


 それはヒーローによっては、なんら雑魚であり、倒されるのが当たり前の存在。


 かっこ悪いし、第一路傍の石のような存在であり、誰も気にしない存在。俺もかつてはそう思っていた。



 だが、そんな悪の組織の雑魚的に、、


 自分がなるとは思っていなかった。

 パワーがみなぎる。

 今なら自分の身長分くらいは跳躍できそうだし、自動車くらいなら持ち運べそうな気がする。


 試しに地面を殴ってみると、痛くないどころか軽くヒビが入ったほどだ。

「すげぇ・・」

 俺は何か模様が入った手を見つめる。


 意識を抜くと、その体の模様が戻っていき、もとの肌色に戻っていった。


 そう、それは数日前にさかのぼる 。


 その時、俺は屋上にいた。


 なんら変哲もないデパートの屋上。そこで俺は空を見上げていた。


「ああ・・」

 空はこんなに青いのに・・なんでこんなに死にたくなるんだろうか・・

 いや、原因は分かっている。


 今朝のことだ。

 俺は部長から肩をポンと叩かれた。よくあるリストラの比喩として扱われがちなこの動作ではあるが、それが直球であると誰が分かるだろうか。

「キミ、明日から来なくていいよ

「は?

 原因は、、あれしかない。

 俺は、プロジェクトで任された同期を知っている。

 彼は、上司にこびへつらうのがとてもうまかった。

 ミスを連発するし、少し気に障るところもあるが、それでもまあ仕事だからと割り切っていた。

 だが、、そいつが盛大なミスをやらかしたのである。

 それは、一億円規模の損失が出るほどのものだった。

 俺は振り向いてそいつを見た。

 そいつは「ごめーん★」という風に手を縦にしている。

「・・・っ!」


 一瞬切れかけた。

 ずんずんと歩いていき、拳を振り上げた・・が。

「・・・わかりました」

 俺は殴ることはできなかった。

 そして今俺はここに居る。

「・・はぁ、、なんかもう、何もしたくないな」

 いっそのこと飛び降りてしまおうか。

 そんな気持ちが

「できるかもしれない」

 恐怖というよりも、今の人生をやめたいという気持ちが勝っていった。

 なるほど・・自殺者というのはこういう気持ちだったのかもしれない。


 だが、、それを実行する前に、背後から声がかかった。

「キミ、死ぬつもりかい?

「・・・まあ、そうですけど

 その言葉は咎めるというよりも、ただ単に尋ねているだけのようだった。


 振り向くとそこには、背広を着た初老の男性。

 目元からかなりのカリスマオーラを醸し出している。

 それは、全身からただよう、良い人オーラのようなものだろうか。

 あったばかりだというのに、この人の元なら一生働ける。そう言った確信を抱かせるかのようだった。

 だからだろうか。

「よかったら、わけを聞かせてもらえればうれしい

「・・わかりました

 俺はこの人に今の境遇を全て話してしまった。

 普通ならあり得ないことだ。俺が他人に自分のことをぺらぺらとしゃべるだなんて。

 だが、、相手の人柄と、そして、今の絶望的心理状況から、いつもと違うことをしてしまったのだろう。

 全て話し終わった後、相手はこう切り出してきた。

「そうか・・私でよかったら力になれるかもしれない。
 私の名刺を渡しておくから、その気になったら電話してくれないか?

「・・え?

 その名刺には、こう書かれていた。

「悪の組織ダークファンタジア社長 黒斑黒夫」


「悪の組織・・??

 社長というのは、とても納得できる。それほどのカリスマだった。

 だが、しかし悪とはいったい・・?

 だが、何故か操られるように、俺はそれから数時間も経たずに電話してしまった。

 待ち合わせ場所は、都内の巨大なビル。

 そこはライトファンタジアという物流会社の持ち物らしいが、、名刺を見せたら何故か地下へと案内された。

 そして、、色々とこの世界の裏の顔を説明されたのだ。

「さて、あなたにこれからわが社の機密情報をレクチャーしますが、、これを聞いた後、怪人化を拒否しますと機密的にアウトなので、記憶処理を施すことを義務つけられていますが、大丈夫でしょうか?

 怪物化・・?いや、それよりも僕が気になったのはその後の言葉だ。

「記憶処理・・?

 疑問符を提示すると、説明係はにっこりと笑って言う。

「つまり、ここでの記憶は全て忘れてしまうというものです。

「え・・?そんなことってできるのか・・?

「はい。専用の器具を使っていただきます。人体にはノーダメージなのでご安心ください」

 数秒考えて、僕は首肯した。

 人体に無害というのが少し不安だが、、ここまで着て引き下がれるなんて、おそらく後悔するだろう。

「わかりました。ではわが社の目的を申し上げますと、、世界征服です。

「世界征服・・?!

「はい。そしてそれを阻止しようとするのが、ヒーロー組織です。悪の組織とヒーロー組織は古くから戦いを続けており、、」

 それは荒唐無稽な話ではあったが、つまりはまとめると以下のようだ。

 この世界のシステムを根本から覆そうとする革新派閥、つまり悪の組織と、現状維持の保守派のヒーロー組織があり、魔術とか魔法、あるいはそれと科学を組み合わせた超科学によって日夜争っていたという。

 そして、それら両者の戦いは、より合理的、システマティックになっていき、一般人からそのメンバーを募集することになったのだ。

 それが、超人化、、悪の組織ならば怪人化、ヒーロー組織ならばヒーロー化と呼んでいるようだが、つまり質だけではなく量も必要な局面になったということだった。

 そして、もし怪人として改造され悪の組織に所属することに同意すると、月に一回程度、戦いに参加することとなる。

 それは命の奪い合いではあり、もちろん死亡することもあるのだが、俺にとってはメリットの方がでかいように思えた。

 何しろどうせ死んだ身だ。それに給料はサラリーマンだったころの倍はある。毎日何もしていない時間のほうが多いというのにだ。

 普通ならば、そのメリットよりも安全を取っただろう。しかしもう俺はこの道を行くしかないように思えた。

「なります!怪人に!」

「わかりました。ではこの書類にサインを・・

 そして、、怪人になるための手術も終わり、俺は初めて外で力を使った。

「すごい・・!!」

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