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蟲毒

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 ホラーを原作としたMMORPGゲームが出た。

 プレイヤーは、ホラーの敵を倒してレベルを上げてスキルを付けていく。


 ボスキャラは、いったん逃げたり、儀式や道具を用意しなければならないが、基本的に敵を倒して強くなっていくという往年のRPGだった。


 しかし、レベルを上げて強くなりすぎると、NPC,つまりホラーの敵があまりにも雑魚キャラで、原作の恐怖が薄れていく欠点があった。


 この欠点は、最初から分かっていたことだった。ホラーものの特徴として、人が恐怖の対象にあまり抵抗できないというものがある。


 だが、、RPGの性質ゆえに、恐怖の対象に対し、圧倒的優位を立てるのだ。

 檻の中のライオンが怖くないのは、こちらに危害を加えられないとわかるからだ。

 それと同じように、クソ雑魚になった恐怖の対象は、まったく畏れられなくなった。

 それは原作の続編の売り上げが落ちるという弊害まで出てしまったのである。ファンは恐怖を感じたいのに、それができないのだ。

 

 なので、運営は新しい策を講じることにした。


 NPCが無理ならば、プレイヤーに恐怖の対象になってもらえばいい。

 つまり、PVP、対人戦だ。

 
 だが、普通の対人戦だと、人同士の争いでしかなく、ホラー原作の意味がない。

 なので、プレイヤーが他のプレイヤーを襲うときには、ホラー原作のキャラにならないといけないようにした。

 つまり、逆に考えれば、NPCの中身をプレイヤーがやってもらうという発想だ。


 
 こうして、どれだけプレイヤーのレベルが上昇しても、恐怖の対象が持つ畏怖を維持し続けることが可能になっていった。

 そして、あるアップデートで、PVP用のそのプレイヤーの恐怖の衣装に、様々なカスタマイズができるようにした。

 さらに、BGMやフィールド、演出も細かくカスタマイズできるようになった。

 それを駆使すれば、原作さながらの恐怖を、一般プレイヤーが演出することができるようになった。

 職人と呼ばれる彼らは、人の驚きを得たいがために、日夜努力を続けた。


「いやー、まさか●●さんにPVPされるなんて・・!!光栄だったなぁ!」

「ああ、あの人の演出は神だからな。運がよかったー!」

「怖かったねー!」


 あるプレイヤーたちが、職人の演出に遭遇し、その後、盛り上がってチャットで話していた。


 そして、彼らはひとしきり話し終わった後、一人が提案する。

「●●狩にいかね?」

 ●●とは、あるホラー映画のキャラクターだ。

 他の人たちは賛同する。

「りょ」

 そして、流れ作業で彼らはそれを倒していった。

「しかし、、改めて見てみると、こいつ、全然怖くないな」

「昔見たときはもっと怖かったはずだけど、、」

「辛さになれるみたいに、恐怖になれることか」

「戻れない、、あのころ」

「ははは、あ、包丁ゲットしました。今からボス部屋に行きます」

 だが、もしNPCに意思があるとしたら、その会話にたいしこう思っていただろう。

「俺はお前らがこえーよ!!」と。
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