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天高く陰謀巡る秋
旦那様の過去話 2
しおりを挟む「そのあと何度も電話でアポイントを取って挨拶に伺った。厳原の家ではそのことを話題に上げる人物なんていなかった。藤城くらいだよ、私に注意してきたのは。だけどね、麻帆佳のご両親が折れたときに、急きょ海外への転勤が決まった」
「え?」
どういうことですか?
「麻帆佳のご両親にね、『麻帆佳が年頃になるまで、あなたの気持ちが変わらず、麻帆佳に大切な人が出来なかったときに、話します』って言われた。私は、麻帆佳のことを季節ごとでいいから私に教えてくれって頼み込んだ。お父上がものすごく困った顔をされていたけど、私が本気だって分かったからだろうね、了承してくれた。
そのあと、いきなり湧いて出た転勤話。直前まで二番目の兄の予定だったんだ。あれがわざとらしく言ったんだ。『お前ごときは相手にされない』って。その時に分かったよ。麻帆佳のところに通うのを、わざと見逃して楽しんでいたんだって」
どこまであの老爺は腐っているんでしょう。どうせだったら、まともな意見で止めればいいのに。
「麻帆佳のご両親にその話をしたら、転勤先と住所、メルアドを教えてくれって。それからは毎月麻帆佳の話がメールで届くようになった。……嬉しかったよ。でもね、ある時ぷっつりとそれが途絶えた」
途絶えたのは、両親が他界したからだと思われます。というか、人に危機管理を説教しておきながら、個人情報を他人に教えますかね。
旦那様、何笑っているんですか?
「麻帆佳、言いたいことは大体わかったから。
その辺りも説明するよ。高部から聞いた話だと、私の置かれた状況を顧みて、そこまで麻帆佳が苦労しそうにないと思ったから、了承してくれたってことだった。同情とかではないのが、なおさら嬉しかった」
……意味が分かりませんよ。
「そのメールだけが私にとって、支えだったんだ。それが届かなくなって、手を尽くして調べた。最初は厳原で情報規制されていて、麻帆佳の両親が私に教えるのが嫌になったって話だった。一時期荒んだけど、藤城がこっそり情報を持ってきてくれた」
私の両親が他界して、叔父夫婦の家でいいように扱われているという事実を知った旦那様は、急いで日本に帰ろうとしたと。
……どうして今、そういうことを言うんですか。
「麻帆佳、そんな風に唇噛んだら、血が出るよ。戻るのが遅くなってごめん。私が戻ってきたのは麻帆佳が中三の時。あれが自作自演の引責で、辞任したからね。
すぐに麻帆佳を引き取ろうとしたけど、両親にも止められた。最初は身内のところにいたほうがいい。次はあの家と関わるな。……あとは何だったかな。色々言われた。最後は成人まで待てだった。
大人しく成人まで待とうと思った時、あの事件が起きた。もう、何も考えられなかった」
今までと違う、力のこもった腕で私を抱きしめてきました。
やっぱり、あれは偶然ではなかったのですね。旦那様が必死になって助けてくれたのだと、やっとわかりました。
「どうして。もっと……」
「言うのは簡単だ。だけど、これを知ったら麻帆佳は私を『助けてくれた人』という目でしか見ないと思ったんだ。一人の男として、麻帆佳に見てもらいたかった」
「旦那様はお馬鹿です!」
まったく、どうしてそういう考えをするんですか!
「それとこれは別問題です!! 今までお礼すら言えなかったじゃないですかっ!!」
私にとって大事なのは、あの地獄から手を差し伸べてくれた人がいるということと、私の両親を覚えてくれている人がいるということなのに。
「麻帆佳、泣かないで」
旦那様に頬をなぞられて気づきました。私いつの間にか、泣いていたみたいです。
「……旦那様、私はそういう話、もっと早くに聞きたかった、です」
たくさんの「ありがとう」を伝えられたのに。
決めました! 好きとかは置いておいて、これからたくさんの「ありがとう」を旦那様に伝えます!
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