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出会いから恋人に至るまで
絡み酒は駄目! 絶対!!
しおりを挟む「久しぶりだな、真貴」
「あら、桐生。どうしたのよ?」
正直あの真貴がこんな口調なのが恐ろしい。
喧嘩を吹っかけてきた奴はぼこぼこにし、誰よりも漢前だった真貴である。
「いや、今日は忙しいからって時任に頼まれた」
「あらぁ、そぉなの? うちの女子たち騒いじゃうじゃない」
肝心なあの子は現在から揚げにロックオン中のようである。
「……美冬落とすのは難しいわよ。他の子にしときなさい」
ぼそりと真貴に忠告された。だが、一つだけこの子と話題があるのだ。
「そうそう、先日呑んだ『古時計』の感想聞かせてもらえるかな?」
「え~~。『古時計』って歌でしょ~~?」
やはり分からない人物が多い。しかし、それまでから揚げにばかり目線が行ってた女の子がやっと顔をあげた。
「あ、あの古酒、あなたのだったんですか? 珍しいお酒ありがとうございます。そしてご馳走様でした。美味しかったですよ。でもやっぱり古酒は少しだけ呑むに限り……あーーーー!!」
「み、美冬。どうしたの!?」
素っ頓狂な声をあげた女の子に、周囲が驚いた。
「次この店に来たら泡盛の利き酒をするつもりだったんだ!! 忘れてた!!」
どうやら忘れていたのは酒のようである。
「今度でいいよ。……えっと名前は?」
時任がさり気なく聞いてきた。
「この子の名前は美冬って言うのよ~~。桐生も時任も覚えておいてね」
「美冬ちゃん、ね。よろしく。お酒大好きなの?」
「はいっ! 皆に驚かれますけど、私はカクテルとか洋酒よりも日本酒が大好きです!」
これはいいことを聞いた。桐生は内心でガッツポーズをしていた。
「女子供に酒の味が分かるだと? 笑っちまうねぇ」
こちらも声が大きくなったのは悪かったが、言い方に美冬はカチンと来た。
「お祖父ちゃんに叩き込まれた舌はそれなりだと思ってますけど」
「はぁ!? 未成年に酒の味を教える爺ってのもどうかと思うな」
その言葉に美冬はプチンときた。
「私、既に成人してますし。お祖父ちゃんも私が二十歳になってから教えてくれましたけど」
だが、一度絡んできた男は止まらなかった。
「さっきから馬鹿な話しかしてねぇんだよ、あんたは。『古時計』? 『泡盛の利き酒』? あんたみたいなおちびちゃんがすることじゃなんだよ。 こんなちっこいなりして、未成年じゃねぇってどういう了見だ。全く、この酒屋の質も落ちたもん……」
「この店のことまで悪く言うの、止めてもらえませんか? せっかく美味しいお酒と肴から味が消えちゃいます」
「み……美冬」
同期の女子が怯えたように真貴の後ろに隠れた。
「女は度胸! 小さいからってそういうこと言う人の肝っ玉が小さいの!!」
その言葉に真貴がため息をついていた。だが、絡んできた男以外は「その通りだ!」と野次を飛ばし始めた。
美冬の言葉に賛同してくれる人がいるというのが嬉しかった。
「けっ。美人でもないのに賛同貰いやがって。いい気になるな!!」
その言葉に尚更美冬は頭に来た。
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