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予想以上に軽い彼女

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 一体何があったのか。ふらつく頭で、リチャードはそんなことを思った。
『咄嗟にしてしまったらしいよ。警吏の叔父に習ったらしい』
『投げられた理由が分からない』
『彼女の言い分だと、いきなり口づけされて驚いたかららしいけど』
『それだけで!?』
『夫人からも言われたんだが、日本にはそう言った挨拶の仕方がないそうだ。それにしても、あれだけ体格差があるのに、お前が飛ぶとは思わなかった』
『それは僕の台詞だ』
 日本恐るべし。そんなことを二人揃って思った。

『申し訳ありません。咄嗟に……』
『悪いのはリッチだ。慣れない挨拶方法なら仕方がない』
 慌てるりのを見たマイルズが苦笑していた。
『もう一度挨拶させていただいても?』
『あ、あのような挨拶でなければ……』
 たかが手の甲に口づけしたくらいで、何とも初心な。頬に口づけするという、親愛の挨拶もあるのだが、次はどんな反撃が来るのかと想像するだけで怖い。
『りのさんのご実家は士族でしたわね』
 昔は「サムライ」と言われたという、階級。軍人と警吏を合わせた役割を持っていた。りのはそんな階級産まれらしい。大使夫人の説明で何とかそんなことだけが分かった。
『今となっては、名ばかりですが』
 恥ずかしそうにりのが言うが、謙遜以外何ものでもない。

 再度の挨拶を取り付け、右手に触れると警戒したのが分かった。そのまま右手を持ち上げれば、その警戒は一気に上がった。
『口づけはしませんよ』
 そう言っても、りのの警戒は解けない。後ろでマイルズが笑っているが、知ったことではない。
 りのは小柄だ。それに比例するかのように、手も小さい。何も知らなければ、子供の手だと思ってしまう。そして、外見がそれを助長させていく。
『失礼』
「きゃっ!?」
 その言葉に硬直したりのを、リチャードはそのまま持ち上げた。予想以上に軽い。
「お……おろしてくださいませっ!!」
 慌てふためき、言葉が日本語に戻っていた。
 本当に一瞬のスキをついた形だ。
『お前がそうやると、人形でも抱いているみたいだな』
 声をたててひとしきり笑ったマイルズが、そう称した。

 そのままソファに座ると、素早く逃げていく。あのように足の動き難そうな服で、早く動けるのもだと感心してしまう。
『りのさんにとって、着慣れている服ですもの。逆に釦の多い服は敬遠しておりますわよ』
 楽しそうにいう夫人の後ろで、りのがまるで小動物のように震えていた。……ただ強いと思っていた自分が愚かだ。

 結局、教えるのは吝かではないが、下手に動くようになっては逆に怪我をするとりのに諭され、護身術を教えるのを諦めた。
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